ビデオ会議の終了後、会議の司会進行も務めていた責任者の古山氏、そして技術担当の新潟青陵大学 国際コミュニケーションセンター職員 三上恭史氏の両名に導入までの経緯と背景、現状の使用感と感想、将来的な計画について話をうかがった。
このプロジェクトのそもそもの発端は、「戦略的大学連携支援事業」と呼ばれる文部科学省が推進する高等教育機関支援事業にある。日本全国には大学・短大、専門学校などのさまざまな教育機関が散在しているが、各々の特色を活かした教育機関としての機能を強化し、地域内での連携と活性を実現することを目的としたのが同支援事業だ。新潟では新潟青陵大学が中心となり、地域10数大学を巻き込んだ共生型大学連携の実現を目指している。政府では地域大学から出された案件の申請書に基づいて金銭面での補助を行っており、今回のビデオ会議システム導入も"共生型大学連携"実現の一環となる。新潟は南北に長い県であり、連携に参加する大学間の最大距離が直線で160km以上と、公共交通機関の移動だけで片道2時間以上はかかる。こうした距離による弊害を突破し、より密な連携を実現するために考案されたのがビデオ会議システムの導入だ。
"連携"というと仰々しいが、実際には「もっと気軽に顔を合わせるしかけが欲しい」(古山氏)というのがきっかけだったようだ。前述のように大学同士の距離があるため、互いに顔を合わせる会議のような機会はこれまで実施されたことがなかったという。個別の用件を持つ担当者が個々に集まる程度で、合同勉強会なども行われたことはなかった。もしビデオ会議のようなシステムがあれば、こうした合同会議や勉強会も実施できるようになり、これまでになかったような関係を生み出せるかもしれない -- これがシステム導入の動機となる。
古山氏によれば、システム導入プロジェクトのスタートは"共生型大学連携"の申請を行った2008年5月にさかのぼり、LifeSize製品の導入を決めたのが6月、そしてシステムを稼働開始したのが2008年12月22日とスピード展開だった。他の選定候補はLifeSizeのライバルでもある米Polycomの製品だったが、欲しい機能がより多くサポートされているという点でLifeSizeを選んだという。システム構築は新潟市内の地元SIerが担当し、LifeSizeの日本代理店でもある日立ハイテクノロジーズが導入サポートにまわった。
補助金ベースのため導入予算上の問題はなかったが、課題の1つは回線だった。システム的に上流にあたる新潟青陵については問題ないが、ビデオ会議端末が導入された10数大学のうちのいくつかはインターネット接続がADSL回線になっている箇所もあった。ご存知のようにADSLは高速なものでも上り回線は数Mbps程度と遅く、HDによるビデオ会議を実施するにあたってどの程度回線品質を維持できるかがポイントとなる。だが三上氏によれば「実際の運用を見る限り、画像と音声ともに問題ない」という。「音声通話が相手に伝わるのに若干ラグがあることが気になる」と同氏はコメントするが、これはネットワークシステムの性質でもあり、「運用でカバーできる範囲」と付け加える。実際、古山氏が司会進行を務めていた会議をみると、発言者を切り替えるタイミングでワンテンポ間を置いている様子がうかがえた。これは多拠点が参加する会議で発言が混乱しないための工夫だといえる。画質についても「照明の具合で見え方が異なるだけで、画質自体は満足している」と古山氏は述べる。