東京大学の天文学教育研究センターを中心としたTAO(the University of Tokyo Atacama Observatory)研究グループは、チリ共和国のアタカマ砂漠にあるチャナントール山頂に2009年3月に設置した口径1mの赤外線望遠鏡(miniTAO)を用い、銀河中心部からの水素赤外線Paα(パッシェンアルファ)輝線の観測に成功したことを明らかにした。同成果は、地上望遠鏡を用いたPaα輝線の観測としては世界で初めての例となる。

チリのチャナントール山頂に完成したminiTAO望遠鏡(出所:TAOプロジェクトサイト)

チャナントール山頂の様子(右側に見えるのがminiTAO望遠鏡が設置されているドーム。左側は制御用のコンテナ群)(出所:TAOプロジェクトサイト)

miniTAO望遠鏡には近赤外線観測装置ANIR(Atacama Near-InfraRed camera)と中間赤外線観測装置MAX38(Mid-infrared Astronomical eXplorer 38)の計2台の観測装置が搭載される予定。ANIRは2009年6月にファーストライト観測に成功し、MAX38は2009年後半にファーストライトの予定となっており、今回の成果はANIRによるものとなる。

miniTAO望遠鏡に取り付けられた近赤外線カメラ「ANIR」(出所:TAOプロジェクトサイト)

Paα輝線の観測の達成により、「銀河中心星団」領域を電波観測したものと比較が可能となり、その結果、各領域において「水素ガスが光って輝いている」のか、はたまた「他の要因(磁場構造など)」なのかを区別することが可能になるという。

天の川銀河でPaα線と可視光線がどれぐらい見通せるかを示したイメージ図。(可視光線では太陽系近傍1000光年しか見通せず銀河中心部分は見えないが、赤外線なら中心まで見通せることがわかる)(出所:TAOプロジェクトサイト)

可視光で見た天の川の全天写真と今回の2天体の位置を赤丸で示したもの。(今回の天体は赤丸付近で12分角程度の距離だけ隔たっている)(出所:TAOプロジェクトサイト)

今回の観測では、重い星の集まりであり、天の川銀河最大級の星団である「赤外線五つ子星団」の天球上での北側には、フェラメント状に伸びた構造を見ることができるが、今回の観測により、電波で見られる構造と水素輝線の構造が一致することが判明した。また、電波画像では銀河中心から延びる「電波アーク」も確認できるが、赤外線ではこれが確認できないことも観測された。これは、"電波アーク"とフィラメント構造が別物であることの証明となり、同フィラメント構造の構成原因や、赤外線五つ子星団との関係を探る上で重要な成果となりうるとしている。

天の川銀河中心付近にある「赤外線五つ子」領域の近赤外線画像(地球から天体までの距離は約2.4万光年。色は赤がPaα輝線で緑が0.191μm、青1.65μmとした擬似カラー合成)(出所:TAOプロジェクトサイト)

こちらは同様の領域の電波画像(出所:TAOプロジェクトサイト)

左が天の川銀河中心「銀河中心星団」領域の近赤外線画像(地球から天体までの距離は約2.4万光年。色は赤がPaα輝線で緑が0.191μm、青1.65μmとした擬似カラー合成)、右が同一領域における電波画像(電波画像の色の違いは電波強度を表す)(出所:TAOプロジェクトサイト)

同グループでは中心領域のみならず天の川の広範囲にわたってこのPaα輝線を観測して行きたいと考えているほか、地球がある銀河から離れた銀河でも有効なため、遠くの銀河についてもPaα輝線の観測を行うことで中心領域の現象を明らかにすることを目指すとしており、今後観測を開始する予定のMAX38も活用することで、塵からの熱放射も直接捉え、銀河中心領域の塵のふるまいの解析につなげるとしている。

なお、今回活用した一連の施設は、2010年度に48km離れたサンペドロ・デ・アタカマ市の山麓施設と無線通信で接続し、miniTAO望遠鏡の遠隔制御観測も開始する予定となっている。