ミドルウェアの進化待ち

一方、vProはまだ普及のペースが鈍いようにも感じられるが、この点はどうだろうか。

IntelによるサポートはPC内に搭載されるチップのレベルまでだ。チップに実装された各種の機能を利用するためには、運用管理ツールなど、別途ミドルウェアを用意する必要がある。しかし、伊藤氏によれば「チップ側の機能拡張が先行していて、ミドルウェアの側は2世代前の機能を追いかけている状況」だという。もちろん、製品ごとに対応状況にはバラつきがあるが、まだ最新の第3世代のvProに搭載された機能まで完全にサポートしている運用管理ツールはほとんどないといって過言ではない状況のようだ。逆に言えば、3年前に登場した第1世代のvProを活用できる環境がようやく整いつつあるというのが現在の状況なのだと考えても良いかもしれない。

「現在のvProの機能では、リモートからシステムを修復したりすることも可能だし、概念的にはチップの内部に独立したOSを稼働させるくらいのイメージのところまで来ています。そこまで行くと、こうした機能を使い切れる運用管理ツールもそうそうは存在しませんね。」(伊藤氏)

また、こうした運用管理ツールでは、実環境での運用実績に乏しい点もSIとしては気になるという。実環境で実績を積んでブラッシュアップを受けた製品でないと信用できないというのはよく理解できるところだ。「もしトラブルが起こった場合、SIとIntel、PCメーカー、運用管理ツール・ベンダが全員集まって原因究明に取り組まなくてはならない状況もあり得ないとはいえないでしょう」(伊藤氏)という懸念も払拭できてはいないようだ。

ノートPCへの対応状況

企業によっては、クライアントPCとしてデスクトップよりもノートPCを好むところも増えている。ノートPCには省スペース性や可搬性といったメリットもあるし、いざというときには内蔵のバッテリによる稼働も可能なことから、停電対策といった意味合いもあり得る。しかし、ノートPCでvProの機能を活用するのは困難な面もある。

vProは当初デスクトップPCのみでの対応だったが、2007年、デスクトップ向けの第2世代と同時期にノートPC向けの第1世代のvProが登場している。技術的にはデスクトップ向けの第2世代相当だが、目立つ違いとしてはAMTがリリース2.6となっており、デスクトップ向けのリリース3.0に比べてやや遅れた形になっている。この点は、デスクトップ向けの第3世代に相当するノート向け第2世代でも同様で、AMTはリリース4.0が搭載されている。

実運用面での違いは、無線LANへの対応状況だ。現状のvProでは、無線LAN経由での遠隔電源投入はできないという。これは、冷静に考えれば技術的には妥当な制約だろう。無線LAN経由での電源投入を実現するには、PC本体の電源がオフになった状態でも、無線LANモジュールには電源を供給し、電波を受信可能な状態を維持しておかなくてはならないが、この消費電力は有線LANよりも大きくなるであろうことは容易に想像できる。さらに、無線LANの主要搭載先であるノートPCでは、AC電源が接続されていないことも充分に考えられる。もし無線LAN経由での電源オンを実現するとなると、ノートPCの場合は「電源をオフにしておいたはずなのにあっという間にバッテリ残量がカラになっていた」という状況が頻発しかねないわけだ。

とはいえ、省スペース性などに注目して企業内クライアントとしてノートPCを採用しているユーザー企業では、せっかくのvProの集中管理機能が活かせないことになる。もちろん、有線LANとAC電源を常時接続しておけば問題ないが、個々の利用者にそうした運用を周知するのは容易ではなさそうだ。

「退社時には電源ケーブルやネットワークケーブルをすべて抜いて、ノートPC本体を机の引き出しにしまって帰る、という利用者も少なからずいるようです」(伊藤氏)というのが現状のようで、この状態ではさすがのvProも手も足も出ないというところだろう。同様に、オフィス内のワイヤレス化ということで有線LANを撤去して無線LAN主体に切り替えた企業などでもvProの利用は制約を受けることになる。

伊藤氏は、「ノートPCを出先で紛失したことで情報漏洩事件に発展する例もあることから、ノートPCの方がデスクトップPCよりも優れているとは必ずしも断言できない状況にもなっています。運用管理性と、容易には持ち出せないことによるセキュリティ面を考えて、やはり企業内クライアントはデスクトップPCで、という見直しが起こる可能性もあるでしょう」と語った。

編集注:本文中では、無線LANへの対応状況として現状のvProでは無線LAN経由での遠隔電源投入はできないとしてありますが、ノートブックPCへの無線LAN経由による電源投入は、現在のvProではノートブックPCに電源ケーブルが挿っている状態であれば、無線LANでの遠隔電源投入ができるとのご指摘をIntel様よりいただきましたので、ここに補足させていただきます。