富士通研究所ならびに富士通は4月14日、携帯電話向けLSIにおいて、Symbian OSで動作するソフトウェアを用いたシステムの性能を、設計段階で短時間で繰り返し高精度な評価がシミュレーション環境を開発したことを発表した。

携帯電話は、ハードウェア、ソフトウェアともに急速に進化、大規模化しており、設計の初期段階でシステム性能を総合的・定量的に見積もる要望が高まっていた。こうした要望に対応するため、従来から実機性能を見積もるためのLSI動作のシミュレーション環境(モデル)の開発が行われてきたが、実装設計のデータを必要とするものの、その実装設計方針の決定にはモデルによる評価が必要となるなど矛盾があり、新規機能開発にはモデル開発と実装開発向けの異なる手法での開発が行われてきた。

また、性能を正確に見積もるには処理時間の精度が高いモデルが必要となるものの、最適な設計方針を探求するためには、部品の組み合わせや設定変更を短時間で繰り返し実験できる高速なモデルが必要とされ、この2つの両立が困難であったことも課題として存在していた。

大規模化するシステムに伴う課題と対策

今回、富士通研らが開発したのは、Electronic System Level(ESL)技術をもとに、動作を自由に変更できる汎用動作部品を開発。部品の動作パターンを記述するプログラム領域を編集することで、利用者は対象部品の動作をモデルに組み込んだ状態で制御することが可能となる。モデルによる評価中でも動作状態の変更が可能であり、ソフトウェアと連動して動作する部品も、その都度、部品を開発することなく1つのモデルで評価可能となった。

今回開発した技術で実現したモデル構成の例

また、モデルを構成する部品の精度を決定するためには、各部品の精度がシステムの性能に及ぼす影響を見積もる必要があった。この見積もり工程において、精度の異なる部品を容易に組み替え、混載可能な仕組みも併せて開発。機能部分とインタフェース部分を分離し、必要最小限の操作でモデル構築が可能になるという。これにより、精度を下げてもシステム性能への影響が小さい部分は速度優先部品に、逆にシステム性能への影響が大きい部分は精度優先部品を組み込むことで、速度と精度の両立をはかるモデルを構築することが可能になるという。

今回開発した技術で実現したモデルの性能

富士通研らは、これらの技術をもとに実際の設計段階にある携帯電話LSIをモデル化、Symbian OS上で評価ソフトウェアを用いた評価環境を開発し、分析結果を設計にフィードバックしたという。

これにより、実機完成を待たずにシステム全体の評価が可能になり、実機を用いたシステム評価工程の予定に対し、およそ1年の前倒しに相当する期間短縮が可能になるという。これは、同社の従来のモデル動作速度の数千倍の性能となり、モデルによる評価を短期間で繰り返し行うことにより、設計の初期段階でシステムレベルの性能見積もりが可能になったという。

なお、同社では今後、富士通の次世代携帯電話システムの評価に適用し、基盤技術の強化を進めていくという。また、その他さまざまなシステムに応用展開することで、本技術開発を軸とした設計初期段階での評価手法を確立し、ビジネス化の検討も進めていくとしている。