VFXは効果的に使われるべき
――樋口監督の作品といえば、とにかく映像部分がクローズアップされますが、今回もビジュアルは豪華ですね。
樋口「みなさんそういわれるのですが、実はこの作品は大きなアクションは多いのですが、特撮や合成、VFXカットは僕の作品の中では、一番少ないくらいなんですよ。『ここの合成凄いですね』といわれるようなシーンでも、背景のほんの一部を合成してるだけで、ほとんど実景だったりするんです」
――それは意外でした。監督は作品で特撮カットを多用するという印象がありますが……。
樋口「必要な時にはもちろん使います。『ローレライ』なんかだと、第二次世界大戦の海の底が舞台だから、極端な話、特撮なしでは絵が成立しないわけですよ。ただ、今回の『隠し砦の三悪人』のようにロケで成立するものを、あえてスタジオでブルーバック合成するなんて事はしません。必要に応じて使うという感じですね。たとえば、長澤まさみさんに、劇中の激しい馬のチェイスシーン演じさせる事はできない。スタントでも無理。だから特撮で、あのチェイスシーンを作ったという感じですね」
――お話を訊いていると、特にVFXを多用するという事にこだわりはないような気がします。
樋口「ただ、それは僕の得意分野で個性だから、大事にしています。僕、思うんですけど、はっきり言って僕が特撮シーンのない普通のドラマや恋愛映画を監督しても意味ないと思うんですよ。そんなの誰も求めてないし、そういう映画が得意な監督は沢山いますから。でも、僕は映画を観るときに、やっぱり映画館でしか観れないような凄い映像を観たいんですよ。わざわざ時間を割いて、安くないお金を払って観るわけだから、テレビドラマのような物を観ても仕方ないと僕は思うんです。だから僕の映画では、VFXにこだわらないといいつつも、映画館でしか観れないような凄い映像を観客に見せたいと、いつも思っています」
――この作品の凄い映像、VFXではどんな見所がありますか?
樋口「本当に細かい部分なんですが、殺陣のシーンですね。ここには、効果的にVFXが使われています。刀と刀がぶつかり合う瞬間の映像とか、刀の軌道の周囲の空気のブレだとか、殺陣を効果的に誰も観たことないほどかっこよくリアルに見せるために、VFXが使われています」
――確かに殺陣のシーンの刀の軌道や周囲の空気の表現は斬新でした。監督はこの映画をどのように楽しんで欲しいですか?
樋口「黒澤監督作品も『とにかく面白いものを観せよう』という映画でした。この作品でも映像だけでなく物語も含めて、『とにかく面白い冒険活劇を観せよう』という気持ちでキャストもスタッフも取り組んでいました。それが画面から伝わる作品だと思います。シンプルで楽しい冒険映画をDVDでも楽しんでほしいですね」 次のページでは、樋口監督が次回作の構想を語る?