東北大学サイバーサイエンスセンターが、今年3月に導入したNEC製のスーパーコンピュータ「SX-9」を見学する機会を得た。

SX-9の外観(これで4ノードの構成。グレーの部分に電源やI/0関連が搭載されている)

Xの文字が輝くSX-9のロゴ

SX-9は、NECが開発した最新のスーパーコンピュータ。今年3月に同コンピュータを導入した東北大学は、その第1号ユーザーとなる。

東北大学サイバーサイエンスセンターに導入されたSX-9

従来のSXベクトルアーキテクチャを継承しつつ、演算器の追加や、ベクトルパイプライン数増強といったアーキテクチャの改良により、単一コアあたりの演算性能で、世界で初めて100ギガフロップス(GFLOPS)を超える、102.4GFLOPS(1秒間に10億回の浮動小数点演算性能) のCPUを搭載。メモリバンド幅256GB/sという高性能を実現し、ベクトル型チップとしては、世界最高速となっている。

SX-9のCPUモジュール(世界で初めて100GFLOPSを超える、102.4GFLOPSを実現)

SX-9のCPUモジュールの説明を受ける元NEC元支配人、常務理事である創価大学名誉教授・渡部和氏(左端)。NECのスーパーコンピュータ事業に長年携わる。右端が東北大学サイバーサイエンスセンター・小林広明センター長

また、1TBの大規模共有メモリ型並列処理ノードを搭載するとともに、ノードあたり1.6TFLOPS(1秒間に1兆回の浮動小数点演算性能)の演算性能を実現している。

メモリモジュール(16個のモジュールを搭載することが可能)

RTRモジュール(メモリモジュールを搭載したものだ)

SX-9は、筐体一列あたり4ノードで構成。東北大学に導入したSX-9では、これを4列配置することで、16ノードのマルチノードシステムとし、各ノードは、片方向あたり最大128GB/sの速度を実現した接続装置で結び、システム全体で256個のCPU、16TBのメモリ、100TBのストレージを搭載し、システム演算性能は26.2TFLOPSを達成する。

筐体を4列配置し、16ノード構成となっている

グレーの部分から、RTRモジュール、CPU、RTRモジュールという形で収納されている(CPUは片側に8個ずつ、合計16個が搭載されている)

RTRモジュールが搭載されているところ(8個のモジュールが搭載されている)

グレーの部分を開けたところ(この左右のノードに電源を供給する)

「2003年に導入したSX-7に比べて、プロセッサ単位演算性能は11.6倍、システム全体の演算性能では12.5倍に達している」(東北大学サイバーサイエンスセンター・小林広明センター長)という。

東北大学サイバーサイエンスセンターの大規模科学計算システムの構成

SX-9の特徴

実際、その性能は第三者によるベンチマークテストでも証明されている。

ベンチマークテストとして知れ渡るLINPACKを開発したテネシー大学のジョン・ドンガラ博士が、新世代の性能評価指標として開発したHPC(高性能計算)分野におけるベンチマークテスト「HPCチャレンジ」では、7ジャンル28項目の評価対象の中で、シングル環境と多重負荷時のメモリ性能(STREAM)で8項目、プロセス間の転送性能(Bandwidth)で5項目、シングル環境および多重負荷時の行列積の演算性能(DGEMM)で2項目、FFTの演算性能の2項目、シングル環境と多重負荷時のメモリのランダムアクセスの性能(Rand om Access)で2項目の合計19項目で、世界最高速を達成。従来のSX-7では、16項目で世界最高性能を達成した実績を上回る結果となっている。

「HPCチャレンジ」28項目中19項目で世界最高性能を達成

また、65nm Cu(銅配線)プロセスの最先端CMOS LSI技術により、ベクトルユニットとスカラユニットで構成されるベクトルプロセッサを1チップ化。筐体の高密度実装や冷却の最適設計効率化により、従来機に比べて性能あたりの消費電力と設置面積を、いずれも約4分の1としている。

CPUに用いられた高速化技術

高速伝送技術により伝送性能を向上

高密度実装技術も採用

ハイブリッド冷却技術も採用

さらに、オペレーティングシステムとしてUNIX System Vに準拠し、SXの性能を最大限に引き出すことができるSUPER-UXを搭載。同OSでは、リソース管理、ジョブ管理、チェックポイント・リスタートなどにより、大規模マルチノードシステムへの対応を図っているほか、効率をアップさせる運用管理など、柔軟な機能を備えているのが特徴だ。

多種多様な運用シーンで資源を有効活用できるジョブ管理機能を搭載

NEC執行役員常務の伊藤行雄氏

NEC執行役員常務である伊藤行雄氏は、「SX-9は、世界最高の性能を実現したスーパーコンピュータ。高性能に関しては、メーカーの役割として取り組んでいくが、使いやすさを追求するには、ユーザーの声を聞くことが大切。東北大学とはSENAC-1の開発、導入以来、50年間に渡る協業を行っており、同大学からの貴重な意見を伺うことが、使いやすさと高性能を両立することにつながっている。研究第一主義の同大学の研究成果に貢献していく」とした。