近年、注目を集め始めているグローバル・キャッシュ・マネジメントで、日本オラクルとシティバンク銀行が連携、この分野で先行することを図る。

両社は今年5月に提携したことを発表、オンライン金融システムを結びつけ、企業の決済指示から銀行決済まで一元的に処理、制御することができるようになった。両者は、これにより世界規模での資金取引の見える化、金融関連業務の効率化、資金効率の向上、リスク管理、内部統制の強化などにつながる、としており、主に事業活動が多国間に渡る大手企業からの需要拡大を見込んでいる。両者は、セミナーの共催、顧客の相互紹介などで協力する。

グローバル・キャッシュ・マネジメントは、企業が従来、銀行からの借入などに依存していた資金調達や余剰資金の運用を、資本市場を根源とする資金調達などに移行させるとともに、事業活動が多国間にまたがる企業のグループ内での資金貸借や決済の効率化を促進し、多国間、複数通貨による外国為替業務などを行うこと、とされている。企業活動の多国籍化が進展するなか、外国為替リスクなどを1国内の本社で集中的に管理することは容易ではなくなってきているとともに、各国の拠点ごとに資金管理を行うことは非効率になる。

日本オラクルはグローバル・キャッシュ・マネジメント領域からの需要を視野に、2007年9月に「Oracle Global Cash Management System(GCMS) 」を投入している。この製品は、企業向けの資金集中管理システムで、企業がグループ単位で行う資金管理機能や財務取引管理機能を備えており、グループ内の貸借取引だけでなく、外国為替、資金調達、資金運用、ヘッジ取引などの各種金融取引を包括的に管理し、それぞれの取引の仕訳生成や支払業務から、決算処理までを自動化する。

今回の両社提携により、シティバンクの法人向けインターネット・バンキング・サービス「CitiDirect」、およびファイル伝送システム「Citi File Xchange」とオラクルの「Oracle GCMS」が連携、顧客企業は「Oracle GCMS」上から資金移動や支払処理の指示をすると、自動的にその指示内容がシティバンクに決済指示データとして送信され、世界約100カ国に広がるシティバンクのネットワークを経由し、実際の資金移動、決済を一貫して実行することが可能になる。

また顧客企業は、自社の口座をシティバンクに開設すれば、口座の情報を「CitiDirect」あるいは「Citi File Xchange」を介して「Oracle GCMS」に取り込むことができ、各国のシティバンクの拠点を通じた、自社の資金移動の状況や口座残高を「Oracle GCMS」上でリアルタイムに把握できる。

「Oracle GCMS」はSOA技術を基盤として構築されていることから、取引銀行のシステムや社内会計システムはOracle以外のものや、他のレガシーであっても、データ連携を円滑に行うことができるという。また、国際的な金融機関間の送金、決済の仕様は複数あるが、日本オラクルでは、各国別の標準支払い指図フォーマットを用いた連携のほか、標準の取引明細フォーマットによる連携は検証済み、としている。

日本オラクル 製品戦略統括本部 アプリケーションビジネス推進部長 塚越秀吉氏

日本オラクル 製品戦略統括本部 アプリケーションビジネス推進部長の塚越秀吉氏は「この連携で、『Oracle GCMS』は非常に利便性の高いものになった。顧客の業務に、より質の高い付加価値とサービスを提供することができる。シティバンクのシステムとの組み合わせで、包括的なソリューションを実現でき、金融機関とのやり取りについて、顧客の業務で求められているものを補完することができる」と話す。

多国間に渡り事業を展開している企業が、預金をそれぞれの国の拠点に散在させている場合、全体としては資金に余裕があっても、一部の国の拠点では借り入れにより預金残高がマイナスになっていると、結果として企業が金融機関に支払う利息が、受け取り利息を上回ってしまうような状況もあり得る。そこで、一部の企業ではプーリング(余裕資金一元化)と呼ばれる対策を講じている。1、2カ所の金融機関に余剰資金を集約化するとともに、資金の適正配置により借り入れをなくし、残高がマイナスの拠点が出ないようにすれば、支払利息は不要になり、金融収支は改善される。

シティバンク銀行 グローバル・トランザクション・サービス本部 トレジャリー・アンド・トレード・ソリューションズ部長 副島弘行氏

また、企業グループ内で、各国の拠点同士がさまざまな債権・債務ごとに決済するのではなく、ネッティングセンターを設け、グループ会社間の債権・債務を同センターと拠点間のやり取りに一元化するグローバス・ネッティングも事務効率化、銀行への手数料削減に効果があるという。今回の両社連携によるシステムでは、プーリングやグローバル・ネッティングがしやすくなる。

シティバンク銀行 グローバル・トランザクション・サービス本部 トレジャリー・アンド・トレード・ソリューションズ部長の副島弘行氏は「プーリングにより、年間、数10億円規模の金融収支改善ができた例もある。依然、国内企業の間では、それほど広まってはいないが、(企業に強固な内部統制を求める)日本版SOX法の施行にともない、海外のグループ企業も含めた財務管理体制が必要になってきており、グローバル・キャッシュ・マネジメント自体に対しては、関心が高くなっている」と述べている。