COOL Chips XIにおいて、本田技研工業(HONDA)の辻野氏が"Anatomy of Brain-like Computer"と題する基調講演を行った。HONDAは創業者の本田宗一郎氏の思想で、他者の技術を導入せず独自に技術を開発することを尊重し、技術導入のような安易な道を採らないことを社是としているそうである。

その思想の実現の一つとして、先の先の研究を行うHonda Research Instituteという研究所を作ったとのことである。その研究のひとつが、辻野氏の率いる脳のようなコンピュータの研究であるという。HONDAのASIMOは、ロボットが高い運動能力を持ちうることを実証し、さまざまなデモで知性的な動きを見せたが、それはシナリオに沿ってプログラムされた動きで、真の知性ではないという。そして、針金を曲げて餌を吊り上げるカラスのBettyの映像を紹介し、現状のコンピュータやロボットはカラスのレベルに達していないと述べた。

脳にようなコンピュータについて講演する本田技研工業の辻野氏

辻野氏は、次の図を示して、脳は超並列なヘテロジニアスなプロセサの集合で、階層構造で作られており、オープンな情報のフローを持っているが、それがどのように働いて、状況を認識し、状況に反応してタイムリーな動作を行い、アイデアを生成したり、学習をしたりするかについては良く分かっていないと述べた。

脳の働きの基本機能

この脳を研究するため、大脳皮質などの大きくて複雑な対象に取り組む前段階として、小規模で、発達的には古い脳であるBasal Ganglia(大脳基底核)のコンピュータモデルを作ってその振る舞いを研究を行っている。この大脳基底核モデルは、神経へのインプットからアウトプットの関係を示す微分方程式で作られており、これまでの研究で分かっている神経のつながりを使ってBasal Ganglia全体のモデルを作成している。

Basal Gangliaモデルで状況認識と反応過程を再現

そして、このモデルの動作状態(上図)を示した。この図の中央の一連のグラフは、横軸が時間で、主要部位の動作状態を示しており、右側の図は、全部位の動作状況を、各部位を1点としてカラーコードで示したものである。この図から見られるように、時間がたつと動作状態が明確に変わる部分が現れ、このモデルが状況を認識でき、それに対応する動作を行えることが確認されたという。

しかし、アイデアを生成するなどの高次の動作を再現して、脳のメカニズムを理解するまでの道のりはまだ遠く、同氏は「単に仕事というだけではなく、やはり好きでないとできません」と述べていた。