ナイトワーク、美容室、飲食店、運送業……30業種以上に出資し、グループ全体で年商数百億円を誇る実業家・長原正寿(ながはらまさとし)さん。これまで数千万単位の現金や店舗を“人”に投資してきた。
しかし、その裏には、金の持ち逃げ、診断書詐欺、そして「奥さんを寝取られる」という衝撃の裏切りもあった。
なぜ彼は、裏切られてもなお人を信じて投資を続けるのか。そこには、金銭を超えた哲学と、家族との時間を取り戻そうとする一人の男の覚悟があった。
「現場に立たない」経営で、グループ年商は数百億円に
――長原さんは、さまざまな業種に出資されているそうですね。
長原さん(以下・同) ナイトワークだけで30店舗以上、美容室や焼肉、ラーメン、最近では運送会社も買い取りました。いわゆる「現場に立たない経営」をしています。
僕自身が店に入ることはなくて、出資して、店舗づくりをして、あとは任せる。立ち上げにはちゃんと関わりますが、運営は現場の責任者に完全に委ねます。責任者には週に一度、売上金を僕のところに持ってきてもらうケースが多いです。
――そのやり方で、グループ年商はどれくらいに?
ざっくりですが、数百億円にはなっています。もちろん、すべてが自分の会社というわけではなくて、あくまで出資先を含めた全体の数字ですが。
――店舗が増えると、それだけ「人への投資」のウエイトも大きくなりそうです。
現金を扱う業種だと、特にリスクは大きい。ナイトワークなんかは、昔は現金が主流でしたけど、今はQRコードやカード決済が主流になってきた。たとえば美容室でも、売上の6割以上は現金を触らない時代になってきています。
それでも、残りの“現金”がトラブルを生む。ほんの数十万円の現金を見たことで、人が変わることもある。雇われていた頃は、数十万のお金しか見る機会がなかった。でも責任者になると、1日で100万とか200万の現金を見るようになる。
そうなると、「これは自分のお金だ」と錯覚する人が出てくるんです。
現金1,200万円を持ち逃げされる「日常」
――錯覚すると、どのようになるのですか。
たとえば、美術品の買取店であった話です。去年の夏、お盆期間中も営業する予定だったので、事前に責任者に1,200万円を預けました。ところが、営業はせず、そのまま音信不通。結局、お金も本人も戻ってきませんでした。
多いときは3,000万~5,000万円を託すこともあるので、リスクはいつも隣り合わせです。
――ほかにも、トラブルは日常的に起きているんですか?
25歳の男の子に「ご飯屋をやりたい」と言われて出資したことがありました。売上も悪くなくて、1日20~30万円くらいはいってた。
でも、ある日「営業してませんよ」と他の人から連絡が来て。調べたら、彼は店をほったらかして遊びに行ってたんです。しかも、従業員への給料も未払いでした。
お金を持ち逃げする男の特徴は「身の丈に合わない野心」
――責任者でない人のトラブルもあるのですか。
ネイリストで「売上金は後で持ってきます」と言っていたのに、ずっと持ってこなかった子がいました。こっちから催促しても、言い訳ばかり。最後には「入院しています」という連絡とともに、「精神的な病名のついた診断書」を送ってきたんです。でも、よく見ると“入院”とは書いていない。ただの診断書(笑)
焼肉店のアルバイトでは、こんなことがありました。常連さんから「レシートがもらえなかった」と言われて調べたら、1万1,000円の会計を1万2,000円と偽って伝票を出し、差額を抜いていたんです。
他にもカフェのアルバイトでは、350円のモーニングセットをポケットに入れて、そのまま売上に入れなかった子もいましたね。
1日1,000円でも、20日で2万円。年間で考えたら数十万円になります。1万円でも、12万円でも、やる子はやる。金額の大小じゃないんです。
――失敗してきた人たちに、共通点はありますか?
男性の場合は、身の丈に合ってない野心を持ってる人が多いですね。月給30万円なら、それが自力のはずなのに「俺は100万円もらって当然」と思い、お店のお金に手を出してしまう。
女性の場合は性的に軽い子と、必要以上に色気を出してくるタイプの子。でも、圧倒的に男性の方が多いですね。
――そうした人たちにお金を貸したり、出資した場合、返ってくることはあるんでしょうか。
8割の人が、飛びます。金額では、半分くらいは返ってきています。若い子の場合は、親御さんが保証人になっていると、代わりに払ってくれることもありますね。 あと分割で払ってくるケースもあって、600万円を月1万円で返してくれている子もいて……50年かかるんですけどね(笑)
お金だけでなく「奥さん」も持っていかれた
――これまでの“人への投資”で、もっとも衝撃的だった出来事は何ですか?
飲食店を30店舗以上を任せていた男性がいて、彼とは10年以上の付き合いでした。最初はすごく仕事もできるし、周囲の人望もあった。だから、全部任せていたんです。でも、ある時から経理報告が曖昧になって、「なんか変だな」と思っていたら……横領していました。
でも、被害はお金だけじゃなかった。僕の奥さんと関係を持っていたんです。
――長原さんとの奥さんと、なぜ知り合ったのでしょうか?
僕は会食になるべく奥さんを連れて行くようにしていたので、そこで知り合ったのでしょうね。店舗の従業員の子が教えてくれて、発覚しました。結局、奥さんとは別れました。その後は彼と一緒になったみたいです。
――相手を追及したりは……。
しません。僕の基本スタンスとして、“去る者は追わない”んです。もう戻ってこないと分かった人間に、時間もエネルギーも使いたくない。それより次の事業、次の出資先に集中したほうが、僕にとっては価値がある。
付き合いが長ければ長いほど、「まさかこの人が」と思いますよ。でも、人は変わるんです。
それでも人に投資を続けるワケは「損して得とれ」
――ここまで数々のトラブルを経験されても、それでも「人に任せるスタイル」を続けるのはなぜでしょうか?
最終的に「得になればいい」と思ってるからです。たとえば、ある子に1,000万円を横領されたとしても、その子が1,200万円売り上げていてくれれば、200万円の儲けになる、嫌な気持ちにはなるけど「損して得とれ」というわけです。
――損をしないための対策は……。
防ごうと思ったら、保証人をつけたり、契約をがっちり固めたり、いくらでも方法はあるんです。
でも、そういうのをしたところで、やる人はやりますから。防止策に時間をかけるくらいなら、そのぶん次の出資先を探した方が効率的だと思っています。
――そこまでして「人に任せる」に徹底する理由は?
20代の頃は、毎日朝8時に不動産会社の朝礼に出て、日中は営業、夜はナイトワークの店舗に顔を出して、家に帰るのは深夜3時とか4時。睡眠時間は2時間以下でした。年間350日以上、仕事と外食だけの生活でした。
いつでも仕事ができるように、スーツで登山に行ったこともあるくらい。体にガタがきて、娘が3歳の頃、抱っこしてる最中に僕が疲労骨折したこともあります。仕事中心の人生で、家族をかえりみなかったんです。
そんな自分で全部やっていた時代があるからこそ、人に任せることの価値が分かるようになりました。人に任せれば、家族と過ごせますよね。家族が増えた今の僕にとって、一番大切なのは、彼らとの時間。今までの時間を取り戻したいんです。
だから、僕はこれからも「人への投資」は続けるつもりです。たとえ裏切られても、それを超える何かが返ってくることもある。「人で損して、人で得る」。それが、僕のスタイルです。


