米国の高級車ブランド「キャデラック」が初の電気自動車(EV)「リリック」を発売した。高級EVといえばドイツ勢やテスラなどが先んじて市場に投入しているが、リリックが持つキャデラックならではの魅力とは? 走りはどうなのか。試乗してきた。

  • キャデラックのEV「リリック」

    キャデラック初のEV「リリック」に試乗!

リリックのライバルは?

米国のゼネラルモーターズ(GM)が展開する高級車ブランドの「キャデラック」に初の電気自動車(EV)が加わった。車名は「リリック」(LYRIQ)だ。意味は「歌詞」ということだが、元々はギリシャで竪琴(たてごと)に合わせて謳われた抒情詩を指すとされる。なんと優雅な名前だろう。

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    日本では2025年3月に販売が始まったキャデラック「リリック」。価格は1,100万円から

リリックは車名の通り、高級車専門ブランドのEVならではの品のよい乗り味を伝えてきた。同時にまた、切れ味のよい旋回性能によって運転の醍醐味も覚えさせた。競合に比べ後発となるEVへの参入だが、先行するEVのいずれとも異なる個性的なクルマで、選ぶ意味があると実感できた。

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    「リリック」のボディサイズは全長4,995mm、全幅1,985mm、全高1,640mm、ホイールベースは3,085mm。車両重量は2,650kg

競合と思われる車種は、例えばメルセデス・ベンツの「EQE」「EQS」やBMW「iX」など、いずれも車体寸法や車両価格でリリックに近い存在だ。また、EVの代表的なメーカーであるテスラの「モデルX」も競合といえるかもしれない。

ドイツの2銘柄はメーカー別の個性がそれぞれあるけれど、ドイツ車という括りでは圧倒的な存在感と性能により、すごみを感じさせるEVといえるのではないか。テスラはEVを牽引する存在として、EVだからこそ考えられる最高の商品性が未来志向の消費者を感動させる。

それらに対しリリックは、高級車専門のメーカーならではの質のよさと心地よい走りを提供する。例えば、EVは排気音がないので静粛性に優れるのは当然だが、リリックの室内は単に静かというだけでなく、調和のとれた居心地のよさがある。静粛性を高めるための「ノイズキャンセラー」という機能を備えるせいかもしれない。静けさを快く思わせる空間が、高級車然として心地よい。

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    「リリック」のバッテリー容量は95.7kWhで航続距離(WLTPモード)は510km。4輪駆動で最高出力は384kW、最大トルクは610Nm

リリックの乗り味は?

その快さは、走行中も変わらない。

サスペンションは路面を的確にとらえる安心をもたらしながら、路面の変化による振動を巧みにいなし、硬さを感じるのにゴツゴツした不快感がない。タイヤの接地性のよさと、4輪駆動による無駄のない駆動力伝達により、ハンドル操作の通りカーブを素直に曲がり切る。

運転操作に対し遅れのない操縦安定性と、モーター駆動が得意とする遅れのないアクセル操作に対する応答により、車両重量2.65トンという重さを意識させない一体感のある走りを実現している。

GMにはシボレー「コルベット」というスポーツカーがあるが、あたかもそうしたスポーツカーのような運転の喜びをリリックは味わわせてくれるのである。

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「EVは排気音がないので運転の醍醐味が削がれるのでは」との声が世間にある。だが、まさにレーシングカーのように、運転者の狙い通りに寸分の狂いもなく操作に応答して走る様子は、エンジン車以上といえるだろう。

走りのよさには理由がある。床下に車載されるバッテリーによる低重心と床下一面のバッテリーによってもたらされる前後重量配分の均一性、そして、エンジンの1/100の早さで加減速を調節するモーターの機敏さだ。

高級車ならではの静粛性のなかに、そうした敏捷さを持つところが、リリック最大の魅力である。

アクセルのワンペダル操作はスイッチによって利用可能で、回生の強さはノーマルと強の2段階で調整できる。「強」を選んで運転すると、まさにEVならではの快適な運転を味わえる。

運転席に座ると、目線が低いことに気が付く。競合のSUVタイプのEVと比べても、低めの視界だ。実際、車体全高は1,640mmで、キャデラックのエンジン車である「XT6」や「エスカレード」と比べても低い。

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    「リリック」は右ハンドル

キャデラックはプレスリリースのなかでリリックをSUVと紹介しているが、乗車感覚と外観からは、SUVというよりもクロスオーバーとの印象を受ける。

車高が低い分、目線も低めとなるが、目線が低いことによる見通しの悪さは感じない。クルマのすぐ前から遠方まで、すっきり見通せる快適な視界だ。ダッシュボードが低めの印象で、それも見通しのよさを感じさせる要素ではないか。

運転席に座って見るダッシュボードも、SUVのいかつい印象ではなく、高級乗用車に近い造形となっている。室内空間は居心地がよく、ダッシュボードなど運転席周りも上品な仕上がりだ。

一方で、テスラやメルセデス・ベンツのように、いかにも先進的な様子ではない。これまでのクルマの延長線上にあるような雰囲気がある。それには、リリックがキャデラックとしては最初のEVであることも関係しているだろう。未来感がないわけではないが、まだ突出した姿ではないということだ。

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リリックの気になる点は?

気になる点もあった。

ナビゲーションはスマートフォンと連携する仕様となっており、道案内の機能としてそこに不満はない。ただ、スマートフォンの機能を利用すると、液晶画面に映し出されるのはスマートフォンの画面であり、メーター周りに施されたリリックとしての室内造形と異質な見栄えになる。

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ナビゲーション機能とは別に、将来的な自動運転の導入などを視野に入れると、やはり車載のナビゲーションや地図との連携が必要になるのではないか。加えて、テスラが実現しているOTA(オーバー・ザ・エアー:クラウドから最新ソフトをダウンロードする機能)も使えないかもしれない。

メーター表示では、走行中のモーター出力変化の表示が大きく目の前に映し出されるが、必要性は感じにくい。例えば500馬力のエンジンを積んだクルマで走っていても、今、何馬力で走っているかを知る必要がないのと同じだ。

それより、バッテリー残量の表示をパーセンテージで明確に表してくれた方が運転者に役立つ。

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そのほか、車線維持機能がトンネル内を含めときに切れやすく、的確性や信頼性に疑問が残った。ことに、車体幅が2m近く(1,985mm)もあるリリックの場合、車線維持機能が的確に作動することから得られる安心感は計り知れない。

モーターによる加速の壮快さや回生の有効活用、また、乗り心地と操縦安定性の調和など、EVの走行性能としてリリックを選ぶ価値は大いにあると思う。高級車のEVはこうあるべきという、ひとつの姿がある。また、乗車した際のアメリカ車ならではの匂いも、競合他社とは違う思いにさせる。

一方で、先進性や先進技術の熟成は、今後の進化に期待したい。そこを拡充していかないと、EVに慣れ親しんだ消費者には物足りなさを覚えさせてしまうかもしれない。

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