日産自動車がついに日本の、しかも東京都心の一般道で自動運転のクルマを走らせることに成功した。見たまま、体験したままをお伝えしようとすると、こう書かざるを得ない。日産の「次世代プロパイロット」開発試作車に乗ることができたので、その模様をレポートしたい。
AIの登場で自動運転が飛躍的に進化
「プロパイロット」(ProPILOT)は日産の運転支援技術。2016年度にミニバン「セレナ」が初めて搭載した。高速道路などの自動車専用道を走行する際、プロパイロットを起動すれば、ドライバーが設定した速度で、前を走るクルマがいればそのクルマに追従しながら、同一車線を走り続けてくれる機能だ。2019年度には「ハンズオフ」が可能な「プロパイロット2.0」が登場し、こちらも話題となった。
ただ、日産が開発中の「次世代プロパイロット」は、これまでの「プロパイロット」とは次元が違う。開発試作車で体験した感想としては、全くの別物だった。
次世代プロパイロットは英国の「Wayve」という会社のソフトウェア「Wayve AI DRIVER」と次世代LiDAR(リモートセンシング技術)による「Ground Truth Perception」技術を組み合わせた運転支援技術だ。日産は2027年度に国内の市販車に同技術を搭載すべく、開発を進めている。「運転支援技術」というのが日産の公式な呼び方だが、実際に見た感じからすれば、「AIを用いた自動運転技術」といった方がしっくりくる。
テスラの「フルセルフドライビング」(FSD)という技術を動画などでご覧になったことがある人なら想像しやすいと思うのだが、次世代プロパイロット搭載車は、ナビで目的地(ルート)を設定すれば、あとはクルマが勝手にルート上を走行し、目的地にたどり着いてくれる。ハンドル操作もペダルの操作も必要ない。テスラの動画を見たときには、「さすがはアメリカ、ダイナミックかつスピーディーに物事が進んでいるなぁ」と感心しつつ、「日本ではいろいろな課題があって、こういう技術の実用化は無理なんだろうなぁ」と勝手に決めつけていたのだが、日産はやってのけた。とにかく驚いた。
さすがに銀座で自動運転は無理でしょ? 結果は…
次世代プロパイロット開発試作車で走ったのは、東京プリンスホテル(港区芝公園)を出発し、新橋ガード下、帝国ホテル前、銀座四丁目の交差点などを通って帰ってくるというコース。右折専用レーン、左折専用レーン、信号のない横断歩道、たくさんの路上駐車車両などクリアすべき課題が山積で、人間のドライバーでも上手にクルマを走らせるのが難しいルートだった。
試作車の運転席には次世代プロパイロット開発責任者の飯島徹也さんが座ってくれたのだが、システムを起動した後はハンドルを触った形跡もなく、ペダルを操作したようなそぶりも確認できなかった。クルマは見事に進むべき道を進んでいく。もちろん、自己判断で車線変更も実施する。信号のない横断歩道を通過する際には、歩行者や自転車が道路を横断しようとしていないかをしっかりと確認している様子だった。
混雑する交差点で青信号になった際には、すぐに発進せず、行く先の道路が空くのを待つという心憎い上級テクニックまでやってみせた。こういうときに焦って発進してしまうと、横断歩道の上や、下手をすると交差点の中で立ち往生してしまうことがあるものだが、そのあたりも考慮しての動きなのだろう。前をバスが走っていた時に右側の車線に移動したのは、ひょっとすると、そのうちバスが停車することを見越しての動きだったのかもしれない。感覚としては、人間が運転しているクルマに乗っているのと全く変わらなかった。
とにかく、次世代プロパイロット開発試作車は、筆者が自分でクルマを運転するよりも、確実にスムーズかつ落ち着いたドライブを披露してくれたのだった。
次世代プロパイロット開発試作車のデモ走行を動画で!
実用化すれば何が変わる?
クルマで一般道を走っていると、とにかくいろいろなことが起こる。自動運転のクルマは、道路上で起こるさまざまなシチュエーションに対応しなければならないわけだが、そのひとつひとつのシチュエーションをシミュレーションし、自動運転のソフトにプログラミングしていくとなると、時間がいくらあっても足りないはず。道路上で起こりうる出来事には限りがないからだ。
それが、AIの登場(と実用に耐えうるレベルへの飛躍的な進化)によって、一気に自動運転が実現可能なところまで話が進んだ。AIはクルマの運転に関する膨大な量の学習を超速で実行できるから、こんなことが可能になったわけだ。この技術を日産は、市販車に実装しようとしている。
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WayveのAIは「周囲の全ての情報を包括的に把握し、次に起こること、自身の行動が及ぼす影響を予測する能力を持ち、熟練ドライバーのような周囲に調和した安全な運転をすることが」できるというのが日産の説明。「Wayve AI Driver」はWayveのエンボディドAI技術を自動車の運転に適用したソフトウェアで、車両が搭載するカメラセンサーによる画像データを高度に処理し、「都市部の複雑な道路環境に調和したスムーズで安全な走行を実現する」という。体験した感想としては、看板に偽りなしといった感じだった
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飯島さんによれば、クルマの運転に関するAIではテスラとWayveが「二強」であるとのこと。Wayveと日産の契約はエクスクルーシブなものではないそうだから、Wayveが日産以外とも組んで自動運転技術の開発を進めている可能性は否定できないらしい
これが実用化すれば、「クルマを運転する」ことの概念が変わってしまいそうだ。自分で運転をしたい人以外は、基本的に乗っているだけで目的地に到着できてしまう世界が到来するかもしれない。多くの人が次世代プロパイロットを体験して、「これは人間のドライバーと変わらない」という共通認識が醸成されれば、タクシーや公共交通機関での利用にも道が開けるはず。そうなれば、過疎地での移動手段としても、免許返納後の移動手段としても大いに役立つだろう。
次世代プロパイロットを搭載するクルマは?
ちなみに日産は、2013年に「自動運転技術のロードマップ」というものを発表し、その中で2027年度の「次世代プロパイロット」実用化を目指すと公言していた。この目標に向かって、粛々と技術開発を進めていたようだ。
2027年度に次世代プロパイロットを搭載する市販車は現時点で非公表とのことだが、日産が示した「ロードマップ」に関するスライドには、2027年度に同技術を搭載するクルマとして「ミニバン」タイプのクルマ(のシルエット)が描かれていた。「プロパイロット」を初めて搭載したのは「セレナ」だったから、次もセレナ? あるいは「エルグランド」の可能性も? このあたりも気になるところだ。
2016年に日産がセレナで「プロパイロット」を実用化して以降、同様の機能は広く世の中に広まり、クルマでの長距離移動は劇的に楽になった。今度の次世代プロパイロットがクルマにどんな変化をもたらすのか、今から楽しみだ。

























