顧客ニーズが多様化していく中、単に品質のよい製品を市場に供給するだけでは、事業の継続が困難な時代となりました。「モノ」という製品それ自体だけでなく、付随するサービスや体験といった「コト」を充実させることが求められているのです。

「モノ売り」から「コト売り」へのビジネスシフトは、これまで多くの企業で取り組まれてきました。そしていま、AI や IoT といった先進技術を駆使することで、これをさらに深化させる動きがはじまっています。その 1 つが、国内有数のシステムインテグレーターである日立ソリューションズの取り組みです。同社は 2018 年、あらたな顧客サービスの提供をめざし、ゴディバ ジャパンの協力のもと、クラウドと AI を連携させた実証実験を実施。わずか 1 か月で Dynamics 365 とAI連携のサービス化を果たすなど、見事これを成功させました。同試みは、フィールドサービスの価値を高め、「コト売り」における IT 活用の可能性をよりいっそう拡げるものとなっています。

AI 活用のハードルを引き下げる

店頭での接客や工場に赴いての装置メンテナンス、客先の商談、家庭への宅配、こういったチャネル 現場の顧客体験を向上することは、「自社のファンづくり」における重要な要素です。特に機器の保守をおこなうフィールドサービスでは、現場での作業価値を高めること自体が、企業の「コト売り」を発展させることにもつながります。国内有数のシステムインテグレーターである株式会社日立ソリューションズ産業ソリューション本部 サービス・インテグレーション部の横田 実希 氏は、いま、こうした製造業のフィールドサービスにおいて、AI や IoT といった先進技術が注目されているといいます。

「多くの製造業が O&M (オペレーション・メンテナンス) を充実させることでコト売りへのビジネスシフトを進めています。納入後も安定して製品を使っていただけるように交換パーツの手配やオンサイト保守といったサービスを提供する。こうしたフィールドサービスは、従来、『不具合発生からリカバリまでをいかに短縮するか』ということに重きが置かれていました。しかし、IoT や AI 技術の発展により、『故障を未然に防ぐ』ことが夢物語では無くなってきています。フィールドサービスの在り方は、過渡期を迎えているといえるでしょう。これを受けて各社が、実証実験などに取り組みはじめています」(横田 氏)。

装置の稼働状況を IoT によって常に収集し、そのデータをリアルタイムで AI に分析させれば、故障予知は不可能ではありません。事実、日立ソリューションズでは、" Microsoft Dynamics 365 フィールドサービス" という名称で、タイムリーな予測メンテナンスをおこなうサービスの提供をはじめています。

  • Microsoft Dynamics 365 フィールドサービス の概要。同サービスでは、センサー データなどを教師データにして機械学習モデルを作成。
  • その後実際に現場から送られてくるリアルなセンサーデータから、AIが故障を予測し Dynamics 365 のフィールドサービスアプリケーションを通して現場へと通達する設計がとられている 。
  • Microsoft Dynamics 365 フィールドサービス の概要 (左)。同サービスでは、センサー データなどを教師データにして機械学習モデルを作成。その後実際に現場から送られてくるリアルなセンサーデータから、AIが故障を予測し Dynamics 365 のフィールドサービスアプリケーションを通して現場へと通達する設計がとられている (右)

しかし、センサーや IoT ネットワークを整備してすべての現場から情報を吸い上げる、独自に機械学習モデル (AI モデル) を構築する、こういった作業を必要とする AI のプロジェクトは、通常、大きな労力とコストが発生します。AIサービスは未知の分野であるため、コストや労力に対する心理的な障壁は決して低くありません。こういった AI 活用のハードルを引き下げるために、日立ソリューションズではある実証実験に取り組んでいます。この概要について、横田 氏はこう語ります。

「先進技術を使った『コト売り』の価値を高めること。これをあらゆる現場に拡げていくために、当社はゴディバ ジャパン様に協力いただき、クラウドと AI を用いた実証実験をおこないました。AI 活用をもっと手軽なものにすることを目的とした実証実験でしたが、結果として、チャネル現場で活用する AI でどのようなことができるのかが多くの方に実感していただける取り組みになったと思います」(横田 氏)。

AI モデルの構築とそのサービス化に要した期間は、わずか 1 か月

実証実験は、2018 年にゴディバ ジャパンの店舗でおこなわれました。ここでは、顧客から商品に関する相談を受けた店舗スタッフが、その場で撮影した写真をもとにスマートフォンで商品情報を照会できるシステム (以下、AI 画像認識による商品情報照会システム) が利用されました。

  • 「AI 画像認識による商品情報照会システム」では、AI による画像認識によって写真から商品を特定するしくみが取り入れられている。
  • 商品のパッケージの写真をシステムにアップするだけで、該当商品の詳細情報をその場で照会することが可能だ
  • 「AI 画像認識による商品情報照会システム」では、AI による画像認識によって写真から商品を特定するしくみが取り入れられている (左)。商品のパッケージの写真をシステムにアップするだけで、該当商品の詳細情報をその場で照会することが可能だ (右)

商品の数は、海外限定、季節限定のものも含むと膨大な数にのぼります。その商品情報のすべてを店舗スタッフが記憶することは、きわめて困難です。不明確な情報を顧客に伝えることはあってはなりません。かといって、顧客から質問を受けるたびにバックヤードで調べていては、顧客を待たせることになってしまいます。実証実験では「AI 画像認識による商品情報照会システム」を利用することで、過去の商品パッケージを持参した顧客に対して現在の販売状況を伝えたり、店頭の商品のアレルゲン情報を確認したり、あるいは類似の商品をお薦めするようなことが、その場で可能となりました。チャネル現場における顧客満足度を、AI によってさらに高めることができたのです。

この実証実験を担当した、株式会社日立ソリューションズ 産業営業本部 Microsoft & Dynamics 営業部の中村 菜々 氏は、取り組みの成果をつぎのように語ります。

「AI が接客価値をより高めることについて、ゴディバ ジャパン様からは高く評価いただけました。それだけでなく、大がかりな準備もなくごくわずかな期間で AI が利用できたことに対しても、驚きの声をいただきました。実はこの取り組みは、開発から実装までを、わずか 1 か月で完了させています。クラウドベースのAIサービス、CRM をもとにした最小限の開発を採ったことが、その要因でしょう。通常、AI モデルの開発には膨大な数の教師データが必要となります。ですが、今回の構築では、1 商品につき 10 枚ほどの画像を学習させるだけで、正確に画像判別できる AI モデルを用意できました。短期かつ省労力で AIサービスを構築したこと、そして実店舗でその有効性を示せたことは、実証実験の大きな成果だと考えています」(中村 氏)

Cognitive Services と Dynamics 365 によって早期開発を実現

日立ソリューションズがゴディバ ジャパンの協力のもとで取り組んだ実証実験では、マイクロソフトが提供するクラウド プラットフォーム Microsoft Azure の AIサービスである Cognitive Services とクラウド型統合業務サービス Dynamics 365 を活用して、「AI 画像認識による商品情報照会システム」が用意されました。

  • クラウドベースで CRM や ERP といった業務アプリケーション機能を提供する Dynamics 365
  • 同じくクラウドベースで提供する AIサービスの Cognitive Services 。Cognitive Services には、視覚、音声、知識、検索、言語の 5 つのカテゴリーで、学習済みの AI モデルが用意されている
  • クラウドベースで CRM や ERP といった業務アプリケーション機能を提供する Dynamics 365(上) と、同じくクラウドベースで提供する AIサービスの Cognitive Services (下)。Cognitive Services には、視覚、音声、知識、検索、言語の 5 つのカテゴリーで、学習済みの AI モデルが用意されている

わずか 1 か月でこの開発と実装が完了できた理由について、横田 氏と中村 氏はまず AI 画像認識のしくみからこう説明します。

「実証実験では、Cognitive Services が備える Custom Vision Service を利用しました。Custom Vision Service では、1 枚の画像に単一オブジェクトのみが映っている条件下で利用する Classification と、1 枚の画像に複数オブジェクトが映っていてそれぞれを分類するための Object Detection、以上 2 つのプロジェクトタイプが用意されています。今回、単一商品の画像から商品を認識することにくわえて、たとえば箱の中にあるいろいろな姿形のチョコレートを分類して商品情報を掲示するようなことも実現したかったため、Classification と Object Detection のそれぞれで AI モデルを構築しています」(中村 氏)。

「Classification では、対象の商品画像を 10 枚程度用意してこれを Custom Vision Service で学習させるだけで、高水準な AI モデルが用意できました。また、Object Detection の場合も、初めに15 枚の学習をさせ精度が出にくいものはさらに5 枚ほど画像を追加学習させるだけで、識別の精度を担保することができました。わずかな教師データで実用性の高い AI モデルが構築できる。これは、開発期間の短期化にあたり、きわめて有効だといえます」(横田 氏)。

"たった数枚の画像データを用意するだけで、有効な精度をもった AI モデルを構築できる。Cognitive Services が有するこの強みは、「AI 活用には膨大な教師データが必要」という世の中のイメージを払しょくする力をもっていると感じます。"

-横田 実希 氏: 産業ソリューション本部 サービス・インテグレーション部
株式会社日立ソリューションズ

ただ、仮に AI モデルを迅速に用意できたとして、ここでの分析結果をユーザーへ届けるしくみがなければ、サービス化を果たすことはできません。中村 氏は、このサービス化にあたっても、マイクロソフトのクラウド サービスはきわめて有用だと説明し、今回の取り組みで利用した Dynamics 365 について触れます。

「画像認識で識別した商品の情報を照会するためには、CRMや ERP のように、原材料や栄養成分、アレルギー物質、在庫状況、顧客情報までを横断的に抽出するしくみが必要です。また、チャネル現場で店舗スタッフが利用するモバイルアプリケーションも用意しなければなりません。クラウドベースの Dynamics 365 では、こうした CRM と ERP の両機能を備え、モバイルアプリケーションもワン パッケージで提供されます。Dynamics 365 のデータベースに情報を格納するだけで、サービス化することができるのです」(中村 氏)。

つづけて横田 氏は、Dynamics 365 と Cognitive Services、この双方がマイクロソフトのクラウドプラットフォームによって提供されていることも、短期開発を実現できた 1 つの理由だったと語ります。

「Cognitive Services と Dynamics 365 は、マイクロソフトのワン アカウントで容易に連携することが可能です。プラットフォーム、ベンダーが異なる場合、ここまでスムーズに連携することは困難でしょう。この優位性は、間違いなく AIサービスの早期開発につながったと思います。Cognitive Services は、今回当社として初めて利用するサービスでしたが、マイクロ ソフトから手厚いサポートをいただけたおかげで、迅速にプロジェクトをすすめることができました。こうした強固なサポート体制も、マイクロソフトのクラウドサービスの魅力ですね」(横田 氏)。

多様なニーズに応えられるAIサービスを実用化していく

日立ソリューションズが実施した実証実験は、膨大な数の教師データが無くとも有効な AIモデルを構築できること、そして構築した AI モデルを速やかにサービス化できることを証明したといえるでしょう。こうした「実例」を見せていくことで、AIサービスの可能性をさらに示していきたいと横田 氏はいいます。

「AI は未知の分野ですから、『気軽に概念実証 (PoC) に取り組みたい』『成果を見定めてから本格的な開発に移りたい』といったお客さまの要望は少なくありません。こうした場合に対応できるソリューションを用意できたことは、お客さまだけでなく当社にとっても大きな意義を持ちます。実証実験のような形で PoC を支援し、より本格的な開発が必要ならば Microsoft Dynamics 365 フィールドサービスでの大規模プロジェクトとしてスケールする。PoC の支援から最終目的に応じた実構築まで、あらゆる顧客ニーズに応えるための『ソリューションの網羅性』が獲得できたと考えています」(横田 氏)。

つづけて中村 氏は、Dynamics 365 担当という自らの目線を交え、Dynamics 365 のサービス価値向上にも取り組んでいきたいと語ります。

「当社は、マイクロソフトのパートナー・オブ・ザ・イヤーにおいて Cloud Customer Relationship Management アワードを 3 年連続受賞するなど、積極的に Dynamics 365 を拡販しています。これは、Dynamics 365 がクラウドベースの業務システムとして優れていること、そして他のクラウドサービスと組み合わせることによって多様なお客さまニーズに対応できることが理由です。実は今回の実証実験は、Cognitive Services と Dynamics 365 を組み合わせた、国内初の取り組みです。今後、こうした『サービスの組み合わせ』にも積極的に取り組み、ノウハウを蓄積することで、Dynamics 365 の価値を向上させていきたいと思います」(中村 氏)。

"AI の機能をフィールドサービスに適用していく場合、画像認識だけでは用途が限定的になります。Cognitive Services には、音声や検索履歴などさまざまな軸の AIサービスが用意されています。これらを組み合わせていけば、 Dynamics 365 自体の可能性を拡げていくことが可能でしょう。"

-中村 菜々 氏 : 産業営業本部 Microsoft & Dynamics営業部
株式会社日立ソリューションズ

AI をはじめとした先進技術を活用して、「コト売り」を深化させる。これは、製造業だけでなくあらゆる業界で求められています。今回の試みによって AI 活用のハードルを大きく引き下げた日立ソリューションズは、今後製造業だけでなく多様な企業のビジネスを、強固に支援していくことでしょう。

  • 日立ソリューションズ 横田氏、中村氏

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