著名な家庭用ゲームタイトルを多数制作している、福岡県のゲーム制作会社「サイバーコネクトツー」。昨年末、同社がゲームクリエイター志望者向けに「スーパーゲームスクール」を開校した。応募資格は一切なしで授業料は無料、さらに就職先はサイバ―コネクトツーに限らず他の企業を希望してもかまわないという、これまでの常識を覆す人材育成プロジェクトだ。このプロジェクトの高い志には多くの企業が賛同。古くから日本のPC業界を支えるPCメーカー「TSUKUMO」(以下、ツクモ)もスポンサーとして名を連ねている。

「.hack」シリーズ、「NARUTO-ナルト- ナルティメット」シリーズ、「ジョジョの奇妙な冒険 オールスターバトル」など著名なゲームタイトルを制作してきた株式会社サイバーコネクトツー。2015年12月17日には最新作「ジョジョの奇妙な冒険 アイズオブヘブン」が発売された

今回、サイバーコネクトツーの代表取締役社長であり、かつ同社の多くの作品のディレクターも務める松山洋(まつやまひろし)氏に、スーパーゲームスクールについてのお話を伺う機会を得たので、詳しくお伝えしていこう。

福岡県のゲーム制作会社「サイバーコネクトツー」の代表取締役社長、松山洋氏。大学時代の友人らとともに「サイバーコネクト」を設立。その後、紆余曲折を経て2001年に代表取締役に就任、社名を「サイバーコネクトツー」と改める。詳しくは自伝本「熱狂する現場の作り方 サイバーコネクトツー流ゲームクリエイター超十則」(星海社新書)にて

「ゲームスクールと言っていますが、学校ではないです」

スーパーゲームスクールは2015年10月に募集を開始し、12月1日に開校した。サイバーコネクトツー福岡本社の一角をオープンスペースとして開放し、ゲーム開発に必要な環境を利用できる仕組みだ。平日は夕方17~22時、休日(土日祝)は10~18時に利用でき、受講時間は完全に自由。例えば、すでに別のお仕事をお持ちの方であれば19時以降に来てもよく、また月・水・金など特定の日のみ受講してもOK。この時間を利用して、受講者それぞれのスキルに合わせた"作品課題"をこなしていくこととなる。まずは、このスーパーゲームスクールの概要について伺ってみよう。

── スーパーゲームスクールはどのようなプロジェクトですか

松山氏:このプロジェクト、"ゲームスクール"と言っていますが、学校ではないです。これは昨年11月に希望者を集めて説明会を行った時にも、同じことを言っています。ゲームスクールと謳っていながらも「いいかお前ら、ここは学校じゃねーんだ!」と。「ここは企業だ。プロの現場だ。学校のように手とり足とり教える様な場所じゃない」そう宣言したんですから、学生さんはびっくりしたでしょうね。ロゴもこういった理念を表しています。ここは虎の穴だと(笑)。

学校とは一線を画すスーパーゲームスクールのロゴ。当初は「サイバーコネクトツーゲームスクール」などの他の名称案もあったそうだが、最終的にわかりやすくインパクトの強い現在の名称になったという。"SUPER"というロゴやコントローラをくわえた虎も、強くゲームを意識させるものだ

── どのような日程で、どのように授業が行われているのでしょうか

松山氏:学校ではありませんから、開放している日時であれば、いつ来ていただいてもかまいません、自由です。我々が与えるのは同じ条件、同じ課題です。その中からできる人間を引っ張り上げる、そのためのチャンスとピンチを平等に与える、それを乗り越えた人間が次のステップに進める…… こういった考え方で運営しています。開放時間には、弊社の担当がローテーションでオープンスペースに常駐しています。困ったことがあれば自由に話をしていただき、課題にフィードバックさせていくという体制をとっています。

マンガなどの資料も多数用意された、サイバーコネクトツー福岡本社の一角をオープンスペースとして開放。ここでスーパーゲームスクールが実施されている

「どうしたらゲームクリエイターになれるかを、実は誰も教えていない」

── スーパーゲームスクールを開校した理由をお聞かせください

松山氏:スーパーゲームスクールの趣旨には、我々ゲーム業界の反省点も含まれています。ゲームクリエイターはここ何十年もの間、小学生の「将来なりたい職業」の5本の指に入る職業です。ですが、中学生、高校生と上がるにつれ、どんどん「将来なりたい職業」から消えていくんですよ。なぜかというと、どうしたらゲームクリエイターになれるかを、実は誰も教えていないからです。

結果的にクリエイターになれた人だけが偶然辿り着けただけで、具体的になにを勉強すれば良いのかを、いままで企業側は開示してこなかった。応募を受けるにあたり「このような作品を送ってください」といった明示はしていますが、なにが本質的に評価されて、どこまでやれば合格なのかがわからないわけですよ。その結果、どうやったらなれるのかわからない職業のひとつとなっているわけです。野球やサッカーの選手なんかはすごくわかりやすいじゃないですか。実際にすばらしいプレイをしてスター選手として輝けば本人も手ごたえを感じるし、プロとして活躍するための道筋が見えてきます。しかしゲームクリエイターはそういった、職業に結びつく手ごたえを感じる場が少ないわけです。ですから年齢が上がるにつれ志望者は徐々に減っていき、結果的にゲーム業界は慢性的な人手不足に陥っています。