小型化を支える2つの技術「μSRアンテナ」と「μEBG」

大杉氏「先ほどAtermWF800HPのポイントの1つにコンパクトな本体デザインを挙げましたが、『本体を小さくする』というのは簡単にはできないんですね。我々なりのこだわりやノウハウをつめ込んだ結果として、このサイズとなっているのです。その具体的なノウハウというのが、『μ(マイクロ)SRアンテナ』と『μEBG』です」

―― ではまず、μSRアンテナとはどんなものなのか教えてください

μSRアンテナを担当した開発本部 商品開発部 無線技術センター リーダーの内田氏

内田氏「弊社の製品で説明しますと、従来製品の基板にはアルファベット『F』のような部分がありまして、同じものが基板の表裏に存在します。これがいわゆるアンテナ部分ですね。『F』の線の長いほうが2.4GHz用、短いほうが5GHz用です。このアンテナを基板上に2つ、基板の外に1つ使っていました。

このアンテナが大きいがために、基板上で部品が追いやられていたんですね。アンテナのために確保している領域がなくなったら理想的じゃないかな、というところから、μSRアンテナは生まれました」

従来モデルのメイン基板とアンテナ基板

基板上のアンテナ部分には、ノイズを避けるための空きスペースが設けられていた

内田氏「実際に見るとその小ささが分かると思うのですが、『米粒』程度のサイズしかありません。もともとはNECの開発研究部門である中央研究所で『こんなアンテナがある』と紹介されまして、『これはおもしろい、ホームゲートウェイにピッタリだ』ということで試してみました。

すると、こんなに小さいのに性能が非常に良かったんです。無線LANルータの基板で使ってみたところ、AtermWG1800HPで従来機種から88%、AtermWF800HPでは95%もアンテナ占有面積を減らすことができました」

AtermWF800HPのメイン基板。回路の密度が高く、非常にコンパクトにまとまっている

基板の端にあるスリットの入ったリング状の回路がμSRアンテナのコア部分(5GHz)。ここを中心に、基板のエッジ全体をアンテナとして利用する

内田氏「ここまでアンテナが小さいと、きちんと動作するのか不安に思われるかもしれませんが、評価では決して見劣りしません。環境によっては従来以上に優れた結果を出しているデータもあります。

ただ、もともとはNEC中央研究所の技術ですから、実際の製品にどうやって活用していくかが課題でした(編注:無線技術には入念なチューニングが必要)。最近ではシミュレーターでアンテナの挙動を再現できますが、このμSRアンテナはシミュレーションに使うパラメータが多くて苦労しましたね。いまではバッチリ合わせられます(笑)。これだけ小さいと、いずれは8×8 MIMOのアンテナも現実的ですね」

大杉氏「これは真似ようと思ってもなかなか難しい技術と製造ですので、我々のキーテクノロジーと考えています」

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