いま、次世代無線LAN規格としてIEEE802.11ac(以下、11ac)が注目されている。現在はまだ正式策定前のドラフト段階(Draft IEEE802.11ac)だが、すでにさまざまなメーカーから11ac対応無線LANルータや無線LANクライアントが発売中だ。

そんな数ある11ac対応製品の中でも高い人気を集めているのが、NECアクセステクニカの無線LANルータ「Aterm」シリーズ。人気の秘密は、コンパクトな外観と高速通信にあるという。なぜこれほどコンパクトなのに、高速な通信を実現できたのか。その理由について、開発を担当したNECアクセステクニカの方々にうかがった。

インタビューと取材に訪れた静岡県掛川市のNECアクセステクニカ本社

左から、開発本部の内田淳氏、大杉基之氏、小林準人氏

11acに対応した無線LANルータ、「AtermWF800HP」(写真左)、AtermWG1800HP(写真右)。AtermWG1800HPは最大1,300Mbps通信(規格値)のハイエンドモデル、AtermWF800HPは最大433Mbps通信(規格値)のエントリーモデルだ。AtermWF800HPは主にスマートフォンやタブレットのユーザーを想定している

次世代無線LAN規格「11ac」とは?

―― Atermシリーズでは、すでに11ac対応の無線LANルータ「AtermWF800HP」と「AtermWG1800HP」、「AtermWG1400HP」の3機種がリリースされています。まず11acを使うメリットはなんでしょうか?

開発本部 商品開発部 リーダーの大杉氏

大杉氏「11acのメリットは大きく分けると『通信の高速化』と『通信の安定性が高い』という2点です。高速化については、従来の11nと比べて規格上の数値で11.5倍もの速度があります。現行製品のAtermWG1800HPは最大速度が1,300Mbpsと、11n対応製品の最大450Mbpsと比べて約3倍の速度を実現しています。無線でもギガビットを超えた点が最大のポイントかなと思いますね。

ギガビットのネットワークでは大容量のファイルを高速にやり取りできるのですが、さらに複数の端末から無線ネットワークに同時接続しても、快適に使えるという利点があります。最近ではPCだけでなくスマートフォンやタブレットを家庭内で使うケースが増えてきていますが、11acはそのような状況で威力を発揮すると思います」

―― AtermWG1800HPで規格上は1,300Mbpsとのことですが、実際にはどれくらいの速度が出るのでしょうか?

大杉氏「規格上は1,300Mbpsなのですが、条件がいいときの実測で800Mbpsくらいでしょうか。11nの実効速度と比べても2倍、3倍の速度が出ているので、11acの速さを実感していただけるのではないかと考えています。

その高速化を支える11acの主な技術が、伝送帯域幅を拡大する『チャンネルボンディング』と、同時に送受信できる空間多重数を増やす『MIMO』の技術、送信データ量を増やす『変調方式の多値化』という3つです」

11acと従来規格との通信速度の差

大杉氏「通信の安定性については、11acで利用する5GHz帯の周波数は電波干渉が起こりにくいのが特徴です。よく言われることですが、現在の主流の2.4GHz帯は電子レンジやBluetooth、無線マウスなども使っていて混雑しています。

例えば、マンションや集合住宅で隣の家が無線LANを使い始めると、自分の部屋でも無線LANの速度が落ちる、といった現象も起こるんですね。これが5GHz帯の11acなら、混雑もしていませんし、もともと帯域にも余裕があります。周囲で5GHzの無線LANを利用していても、速度の低下を抑えられるのです」

―― 周囲で5GHz帯の利用者が増えても大丈夫なのでしょうか?

大杉氏「5GHz帯では19個のチャンネルがありますので、周囲で利用者が増えてもまず大丈夫だと思います。5GHz帯の周波数は直進性が高く、障害物があっても回り込みやすい2.4GHz帯よりは電波が届きにくいという特性がありますが、逆に隣の家の電波と干渉しにくいとも言えるのです」

11acではさまざまな技術を複合的に利用することで、通信の高速化を実現している

―― 11acはまだドラフト段階ですが、いま対応製品を購入してもそのまま使い続けられるのでしょうか。それと正式に規格化されるのはいつ頃になるのでしょうか?

大杉氏「規格自体に手を加える動きはありませんので、このままいけるかなと思っています。11nのときもそうでしたが、このまま正式な規格へ移行すると予想しています。時期は2014年の春頃ではないでしょうか。

基本仕様はほぼ固まっており、そのまま使い続けることができるものと考えています。11nのときもドラフト版で製品を出荷しており、11nの標準化が完了したあとそのまま正式対応とアナウンスしましたが、11ac製品も同様になるものと予想しています。何かあってもファームウェアの更新で対応できるので大丈夫です。

ちなみに今後、4×4 MIMOに対応したコントローラチップが登場すれば、規格上の最大通信速度は1,733Mbpsへと上昇します。8×8 MIMOが登場するかどうかは分かりませんが…。また、11acには『マルチユーザーMIMO』(編注:複数の子機に同じタイミングで異なるデータを送る技術)といった仕様も存在しますので、そういった新しい技術が実現可能となったら、いち早く対応していくつもりです」

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