―― もう1つの「μEBG」とは、どんなテクノロジーなのでしょうか?
小林氏「μEBGは、基板上のノイズを極小の回路で抑える技術です。従来のノイズ対策には主にコンデンサを使っていまして、基板上に散りばめてノイズを抑え込んでいたんですね。しかし『GHz帯』のノイズとなると、なかなか有効な手段がないのが現状です。また、基本的にコンデンサは安い部品なんですが、それをいくつも大量の製品で使うとなると、コストがかかってしまいます。
これらを解決できる手段はないかと探していたところ、やはりNEC中央研究所からμEBGを紹介されました。そこから実用化に向けて取り組み始めたわけです。
μEBGは基板上の配線パターンでノイズ対策をしているため、部品コストがほぼかからないという特徴があります。渦巻き状のパターンが基板にいくつか配置されていますが、これがノイズを抑えるμEBGです。μEBGはパターンなので、多層基板の場合は内層に埋め込むことも可能です(編注:AtermWF800HPは6層基板を採用)。
もう1つの特徴が、渦巻き線の長さを変えることで、抑えたいノイズの周波数を調整できる点です。例えば一部のμEBGを見ると、渦巻きが2本の線で構成されているのですが、1本が2.4GHz用でもう1本が5GHz用です。これでアンテナ付近のノイズを抑えています。ほかにも別のノイズ周波数を抑えたいときは、異なる長さでパターンを作ればいいんです」
![]() |
![]() |
μEBGは基板上に各所にあり、ノイズ発生源の近くに配置されている。AtermWF800HPでは、2.4GHzと5GHzに対応したμEBGが配置されているとのこと。大きさは3mm四方程度で、指先と比べるといかに小さいかが分かる |
大杉氏「従来ですと、ノイズが発生しやすいCPUやメモリといった部品は、基板上で無線回路やアンテナから離すという手法が取られてきました。さらに金属製のケースで覆ったり、電波吸収シートのようなものを貼り付けたりするんですね。ですが製品を小型化しようとすると、これらの手法は使えません。別の方法で積極的にノイズを抑える必要があり、このμEBGは小さな基板のノイズ対策には欠かせない技術です」
内田氏「μSRアンテナとμEBG、この2つの技術がセットになったからこそ、小型化を実現できたと言えます。μEBGがノイズを抑えてくれるから、μSRアンテナも基板上でほかの部品に近づけられるというわけです」
―― 無線LANルータをはじめ、これからの機器にはなくてはならない技術となりそうですね
小林氏「一見すると単なる渦巻きなのですが、ノイズ抑制効果を得るためには多くの実装ノウハウが必要になります。今はどのような機器にも搭載できるように、さらに小型化したμEBG構造の開発を進めているところです」
次ページ: 独自の技術とノウハウが最大の強み