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課題解決アプローチ(9):ビジネスアジリティ向上ための既存組織の再編成方法論

【連載】

SAFeでつくる「DXに強い組織」~企業の課題を解決する13のアプローチ~

【第16回】課題解決アプローチ(9):ビジネスアジリティ向上ための既存組織の再編成方法論

[2021/07/08 08:00]篠崎悦郎 ブックマーク ブックマーク

組織戦略を具現化する際に、特に新規ビジネス創発においては既存組織のルールやしがらみが足かせになることあるかと思います。それでは、成功している企業はどのような組織戦略を行っているのでしょうか。今回はそんなお話です。

今回解決する課題

今回解決する課題は、次の3つです。

  • B-2:既存の会議体やリスク審査(法務、財務など)が足かせとなり、システム開発の着手に時間がかかる
  • C-1:従来のシステム開発の進め方では、親会社/顧客の期待するスピード感についていけていない
  • C-3:顧客/親会社の関係者とIT/開発メンバーがフラットな立場で開発を進められていない

これらの課題を持つ企業に総じて言えることは「既に事業を進める上で何らかの成功体験をしている」ことです。成功している企業ではリスク対策として、既存の会議体や法務/財務などの間接部門による厳正な審査が実施されています。既に「善かれ」と定義したビジネスルールや習慣が、DXでの新規ビジネス創発においてはかえって制約になっているケースがあるのです。

もちろん、既存の審査内容を無視することはできませんが、ビジネス創発段階において検討スピードを減速させる足かせになっていることはないでしょうか。新興企業のようなスピード感を実現できずに、苦労している企業は少なくありません。これまでの慣習が、フラットな立場でビジネスアイデアを出せない原因になっている残念な状況もあるかと思います。

解決策の一つとしてよく知られているのが、ハーバード大学ビジネススクール名誉教授であるジョン・P・コッター(John P. Kotter)氏が提唱する「デュアル・システム」※1という経営組織論です。同組織論では、現状の階層組織と新規ビジネス創発を行うネットワーク組織の二重構造を並行運用して、「既に成功を経験した大組織がベンチャーのスピードで動く」ことを実現するための仕組みを表しています。

具体的には、成功に導くための「5つの原則」とそれらの原則を機能/加速させる「8つのアクセラレータ」を定義しています。これらを踏襲した運営をすることで、新しいビジネス創発が可能になるというわけです。

【5つの原則】

  • 社内のさまざまな部門からたくさんのチェンジ・エージェントを動員する
  • 「命じられてやる」ではなく「やりたい」気持ちを引き出す
  • 理性だけなく感情にも訴える
  • リーダーを増やす
  • 階層組織とネットワーク組織の連携を深める

【8つのアクセラレータ】

  • 危機感を高める
  • コア・グループを作る
  • ビジョンを揚げ、イニシアチブを決める
  • 志願者を増やす
  • 障害物を取り除く
  • 早めに成果を上げて祝う
  • 加速を維持する
  • 変革を体質化する

デュアル・システムによるビジネスアジリティ向上

SAFeはデュアル・システムを実現する組織モデルであり、ビジネスアジリティを具現化するものです。

構成図

SAFeは組織運用モデルとしてデュアル・システムを採用/出典:https://www.scaledagileframework.com/business-agility/

SAFeは、2007年に刊行されて以降、これまで実践されたプラクティスに基づいて構築されてきました。その一環として、デュアル・システムに、顧客のニーズを捉えて価値を提供している多くの新興企業の経験則を盛り込み、顧客中心の組織論でビジネスアジリティを向上させています。「既存組織の良さを破壊することなく再組織化を行うフレームワーク」として提供されているのが特徴です。特に、次の7つの特徴的な組織論・方法論がビジネスアジリティ向上の根幹となっています。

構成図

顧客を中心にした7つの特徴的な組織論・方法論がビジネスアジリティ向上を促進/出典:https://www.scaledagileframework.com/business-agility/

  • リーンアジャイルリーダーシップ:リーンアジャイル開発の導入および成功をもたらすビジネスアジリティを得るためのマインドセットを習得するプラクティスが提供されています。
  • チーム&テクニカルアジリティ:顧客のための高品質なソリューションを提供するためにリーンなアジャイルチームを組織するためのプラクティスが提供されています。
  • アジャイルプロダクトデリバリー:顧客中心の高付加価値のある製品/サービスの企画および継続的提供を行うためのプラクティスが提供されています。
  • エンタープライズソリューションデリバリー:大規模化されたシステム、もしくは今後大規模への進化を遂げるシステムに対するプラクティスが提供されています。主に「段階的進化をするシステム開発方法」「中大規模システムでの継続的統合論」「稼働中のシステムの継続的な進化方法」について触れられています。
  • リーンポートフォリオマネジメント:大規模化されたシステムの従来と異なるポートフォリオ管理方法のプラクティスが提供されています。詳細については、本連載の第9回を参照してください。
  • オーガニゼーショナルアジリティ:従来の階層型組織における管理方法とは異なる俊敏性を重視したメンバー管理方法のプラクティスが提供されています。
  • コンティニュアスラーニングカルチャー:継続的に知識、競争力、パフォーマンス、イノベーションを高めるように個人/組織全体を促すプラクティスが提供されています。

なお、これら7つの組論論・方法論の成熟度を問うアセスメントとして「メジャー&グロー」が用意されています。同アセスメントで自己評価し、分析/対策を継続することで、ビジネスアジリティの習得度を継続的に向上させることが可能です。

なお、筆者の目線で7つの特徴的な組織論・方法論と、「5つの原則」「8つのアクセラレータ」を整理してみました。システム開発の方法論によっている「アジャイルプロダクトデリバリー」「エンタープライズソリューションデリバリー」以外は、コッター氏が示した指針と補完関係になっていることがうかがえます。

構成図

SAFeの組織論・方法論と「5つの原則」と「8つのアクセラレータ」の関係性

* * *

一般的には、新規ビジネス創発を行う場合、いわゆる”出島”戦略、つまり特区を採用して柔軟な体制を組むことで新しい意思決定を円滑に進める戦略を取るかと思います。ただし、そうした戦略を取る場合、既存組織との距離感が重要です。新規ビジネス創発を行う組織と既存組織が完全に独立している場合には、時に困難を極めます。

コッター氏が提唱するデュアル・システムは、出島戦略と似た距離をとりますが、根底にあるのは段階的な組織変革です。SAFeではこのデュアル・システムを中核に採用しており、段階的な組織戦略の移行を実現します。

※1 「ジョン・P・コッタ― 実行する組織――大企業がベンチャーのスピードで動く」(発行:ダイヤモンド社/著者:ジョン・P・コッタ―/翻訳:村井章子)

※ 本記事は掲載時点の情報であり、最新のものとは異なる場合がございます。予めご了承ください。

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