6回目を迎える勉強会は、「ハイブリッドクラウド時代のビッグデータ活用」と「AWS互換オンプレミスクラウド」を紹介するセッションの2本立てでの開催となりました。

冒頭のあいさつに登壇したのは、ハイブリッドクラウド研究会主幹事の日本ビジネスシステムズ 胡田昌彦氏です。この勉強会に先立ち、8月に研究会として初となるハンズオントレーニングを実施したこと、Azure初心者の方向けの内容だったもののイベント公開後すぐに満席となり、参加者からも好評価をいただいたことなどを報告。併せて、今後は月1ペースで勉強会とハンズオントレーニングを交互に実施していくことがアナウンスされました。

ビッグデータから新たな価値を生み出すために

期待感が高まったところで、いよいよセッションがスタート。講師は、日本テラデータの野村正和氏と富高弘之氏です。

「コネクティッド時代のマルチビッグデータ事業化に向けたクラウドサービス活用 - 自動車業界出身者によるクラウド事例紹介と提案」と題し、コネクテッドカーのプロジェクトに取り組んだ経験に基づく解説が繰り広げられました。

●セッションダイジェスト

創業40年を迎えるテラデータでは、長年データ分析/活用の分野に取り組んできた。時代の流れと共に、同社自身もハードウェアベンダーからソフトウエアベンダーへとトランスフォーメーションし、ソフトウエアに付随するコンサルティングサービスや「as a Service」といったクラウドを活用したサービスも提供している。

「Stop buying “Analytics”, Invest in “Answer”」をミッションに掲げる同社は、顧客に”価値ある答え”を提供することを目指しており、提供するソフトウエアやサービスはその「答え」を見い出すためのものとして位置づけられる。

前半登壇した日本テラデータ ビジネスコンサルティング事業部 シニアビジネスコンサルタント 野村正和氏

ビッグデータは、異なる業種/業界が持つ膨大なデータを組み合わせ、分析することによってこれまでに無い付加価値を生み出しており、コマース、モビリティ、電力といった領域における事例が増えている。

ビッグデータの活用事例

一方でビッグデータは、個人情報のようにさまざまな法律や規制などの制限を受けるセンシティブなデータを含むものでもある。国内では、経済産業省の指針において個人情報保護を進める一方、新たな価値創出のためのルール作りを進めている。

ビッグデータ管理のユースケース

ビッグデータを取り巻く現状について語った野村氏に続き、後半は富高氏が、ビッグデータ管理のユースケースについて自身の経験を交えて解説。富高氏は、この勉強会に先駆けてハイブリッドクラウド研究会が策定した「ハイブリッドクラウドガイドライン」を読み解き、「オンプレもクラウドもシームレスに繋がることが研究会のヴィジョンだと感じた」「それは、まさにテラデータが提供するサービスにも共通する」と強調する。

そのポートフォリオの核となるソリューションが「Vantage」だ。さまざまなデータソース、データエンジン、アプリケーションたけでなく、クラウドネイティブのキーテクノロジーであるKubernetesとDockerにも対応したデータ分析に特化した基盤を提供する。

富高氏は、「データをとりあえず貯めて、後で活用しようというお客様が多い」と語る。そして、いざ取り出そうとすると必要なデータが取り出せないというジレンマに陥るわけだ。

ビジネス視点での目的が明確にないまま、ビッグデータ活用プロジェクトを進めていくと、結果的にベンダー/クラウドロックインが発生し、硬直したシステムになってしまう。

特にコネクテッドカーは搭載されるセンサーなど、コネクテッドデバイスは数百に上る。分散したデータを効率良く循環させるには、十分に検討された「EcoSystem Architecture」が必要となる。

コネクテッドカーで発生するデータ

大量のデータをクラウド上で管理する場合、課金の問題が発生しやすいため、システムリソースの最適化や、データの移送を極力最小化できる技術が必要となる。富高氏は「そうした課題を解消するのもVantageであり、テラデータの長年のデータ&アナリティクスの経験値と技術が集約されている」と説明した。

勉強会終了後、セッション中に紹介されていた経済産業省ガイドラインを改めて読み返したのですが、ビッグデータ活用によって新たな価値を生み出す一方で、安全かつ適切な管理を求められる難しさを感じました。

長年データ分析に取り組んできた企業が提供するソリューションやサービスをうまく活用することで、自社のデータに対する新たな視点と価値が生まれる可能性を強く感じたセッションでした。

ハイブリッドクラウドの新たなスタイルをもたらす

2つ目のセッションに登壇したのは、ネットワールド SI技術本部 ソリューションアーキテクト 工藤真臣氏です。

ネットワールド SI技術本部 ソリューションアーキテクト 工藤真臣氏

今回は、「AWS API互換クラウドをオンプレミスに! Stratoscale Cloud Platformが実現する、マルチクラウド時代のハイブリッド構成」と題し、AWS互換オンプレミスクラウドを実現するソリューション「Stratoscale Cloud Platform」が紹介されました。

●セッションダイジェスト

パブリッククラウドは全てを解決してくれる「銀の弾丸」ではなく、導入にあたってはコスト、性能、制約などの課題が存在する。一方、必要なときに迅速にサービスを展開可能で使い勝手の良いパブリッククラウドのメリットをオンプレミスでも享受したいと誰もが感じている。

自社内でRedHat OpenShiftPivotalなどを採用してパブリッククラウドと同等のサービスレベルを目指すものの、次々とリリースされるクラウドサービスに追随しつつ管理するのはかなりの労力が必要となる。

また、今年8月に米国で開催された「VMworld 2019」において「Azure VMware Solutions」の日本での提供時期も発表されたが、AzureだけでなくAWSやGCPなどクラウドベンダー各社が同様のソリューションをリリースしている。

これらの動きからは、VMware上で従来型(トラディショナル)のIaaS管理を全てクラウドネイティブに置き換えるのではなく、トラディショナルなものとクラウドネイティブを融合させることが重要だとわかる。

Stratoscale Cloud Platformがもたらすクラウドネイティブの利便性をオンプレミスに持ち込むことで、トラディショナルなシステムとクラウドネイティブなシステムが密結合することが可能となる。同ソリューションはソフトウエア提供されており、好きな環境にAWS互換APIを持つクラウド基盤を構築することができる。そのため、ネットワーク遅延の問題を解消し、コンプライアンスなどの問題でデータ持ち出しが困難な環境でも、オンプレミス環境でクラウドネイティブの利便性を享受できる。

Stratoscale Cloud Platform

MicrosoftがAzureとAzure Stackで目指している「シームレスなハイブリッドクラウド」を同じく目指すものであり、AWSとAWS Outpostsの組み合わせに似たソリューションとも言える。

AWSのOutpostsはAWSとの相互接続を前提としたソリューションだが、Stratoscale Cloud PlatformはAWSとの相互接続を必要としない点も製品の特長となっている。

また、パブリッククラウド同様、Stratoscale Cloud Platformでは頻繁にアップデートが行われている。ただし、アップデートが強制されるパブリッククラウドとは異なり、利用者は任意のタイミングでアップデートすることができ、アップデート自体もシンプルなオペレーションを実現している。

AWSとのAPI互換の恩恵として、AWSを使い慣れた利用者であれば設定項目はほぼ同じであるため、操作に迷うことは無い。TerraformやAnsibleといった構成管理ツールを利用する際も、AWSへの展開とStratoscale Cloud Platformへの展開には同一の定義ファイルを利用可能となっている。

もちろん、全てのAWSサービスと同等のサービスをStratoscale Cloud Platformで提供しているわけではない。多くのユーザーが利用している主要サービスについては公式サイトで確認できる。

Stratoscale Cloud Platformは、以下の3つのサービス/ソリューション群から成る。

  • Stratoscale Software Defined Data Center:AWS EC2互換サービスを実装するフルプライベートクラウド(IaaS)ソリューションであり、クラウド自動化によるエンドツーエンドプロビジョニングのスピードと敏捷性の実現を目指すDevOps主導のIT組織に最適。

  • Stratoscale Database Platform:完全に自動化されたSQL&NoSQLデータベースプラットフォーム(DBaaS)や分析サービスを提供し、複数のオープンソース/商用のデータベースの展開と管理を簡素化。

  • Stratoscale Container Platform:Kubernetesソリューションであり、複数のKubernetesクラスターをプロビジョニングおよび管理する複雑さを解消。

Stratoscale Cloud Platformのライセンス体系。3つのサービス/ソリューション群を包括するスイートライセンスとして、「Stratoscale Cloud Service Platform」がある。

現在はAWSのAPIのみに対応しているが、AzureやGCPとのAPI互換を開発中だ。工藤氏は「Azure StackやAWS Outpostsを包含するかたちで、マルチクラウド対応のオンプレミスで稼働するクラウドネイティブのためのクラウド基盤として今後の動向に注目してほしい」と語り、セッションを締めくくった。

Stratoscale Cloud Platformの特長である、オンプレミス/クラウドを問わずトラディショナルなシステムとクラウドネイティブなシステムを両立させることができる点は、筆者も非常に大きなメリットだと感じています。

ハイブリッドクラウド研究会でも、「トラディショナル(レガシー)システムは常にオンプレミスに存在するものだ」という固定概念があり、研究会でまとめたガイドラインにおいてもこのようなスタイルは想定していませんでした。

VMware on Azureに代表されるようなサービスの広がりによって、新たなハイブリッドクラウドのスタイルの可能性を発見できたセッションだったのではないでしょうか。

* * *

今回も、勉強会全体を通して匿名投稿サイトを利用して質問を受け付けました。それらの回答は、本研究会のFacebookグループで閲覧可能です。興味のある方はぜひ、グループにご参加ください。

最後に1点、緊急告知です。来たる10月3日(木)、米Microsoftのインテリジェントエッジ担当者を招いた第7回勉強会の開催が決定しました!

Azure Databox Edge、Databox Gateway担当のアンドリュー・メイソン(Andrew Mason)氏、Azure Stackを含むインテリジェントエッジ エコシステム担当のヘンリー・ヘレス(Henry Jerez)氏によるセッションが予定されています(逐次通訳)。

勉強会への参加方法

第7回勉強会「マイクロソフトのインテリジェントエッジ最新動向」は、connpassのページ「ハイブリッドクラウド研究会(HCCJP) 第7回勉強会」で受け付けています。
・開催日時:10月3日(木) 15:00~
・開催場所:日本ビジネスシステムズ セミナールーム

米Microsoftの担当者の生の声を聴ける貴重な機会です。奮ってご参加ください!

著者紹介

株式会社ネットワールド
Microsoft ソリューション プリセールスエンジニア
津久井 智浩(つくい ともひろ)

ソリューションディストリビューターであるネットワールドの一員として、お客様に付加価値を提供するというミッションの下、Microsoft製品を中心にオンプレミスからクラウドまで幅広く提案~導入を担当。
趣味はバイク。昼散歩が日課。最近は自分よりもカミさんの働き方改革を何とかしたいと苦悩し、マインクラフトを通して子供と一緒にプログラミングを学びたいと願う40代。3児(2女、1男)の父。