これまでの勉強会は、どちらかと言うと「どのように既存システムやアプリケーションに極力変化を加えずにクラウドへシフトするのか」「既存システムを残しながらどのようにハイブリッドクラウドを構成していくのか」といった内容にフォーカスしていました。

この辺りで一度、クラウドネイティブの概要や利点などについて改めて整理してもよいのではないか、また、過去の勉強会におけるアンケートで「クラウドネイティブに関心はあるが勉強する機会が無い」といったフィードバックが寄せられたこともあり、5回目の勉強会では「クラウドネイティブ」をテーマに設定。

「ゼロから分かるMicrosoftの最新のプラットフォーム戦略! 超初心者歓迎! 」と題し、クラウドネイティブ分野をリードする方々を招聘して、クラウドネイティブの世界観や導入の必要性について解説していただきました。

今回も勉強会の模様をダイジェストでお伝えしていきます。

クラウドネイティブ実現に必要なもの - その核となるのは?

まず最初に登壇したのは、クリエーションライン 代表取締役社長の安田忠弘氏です。

「Cloud Native Journey ~100年に一度の大変革期を乗り越えろ~」と題し、クラウドネイティブの概要や動向などについて解説していただきました。

●セッションダイジェスト

広義では、クラウドネイティブとは、クラウド上での利用を前提にして設計されたシステム、サービス、取り組みのことを指す。

クラウドネイティブを語る上で重要となるのは、CNCF(Cloud Native Computing Foundation)という非営利団体だ。Linuxファウンデーション傘下の団体として発足し、2015年に設立。現在は延べ400社以上の企業が参画している。CNCFが公開している年次レポートを見ると、昨年だけで195社が新たに加入しており、急速な拡大が進んでいることがうかがえる。

安田氏が率いるクリエーションラインはこのCNCFにSilverメンバーとして参画し、Kubernatesに関する2つの認定資格を有する国内唯一の企業として、トレーニングからサービスデリバリーに至るまで、さまざまな面からクラウドネイティブの啓蒙、教育を行っている。

クリエーションライン株式会社 代表取締役社長 安田忠弘 氏

クラウドネイティブの動向に関して、IDCの最新レポートにおけるコンテナ利用状況を紐解くと本番環境での利用は1割ほどに留まる。さらに、コンテナ採用の動機として最も多いのが「インフラ効率向上とコスト削減」となっている。

安田氏は「個人的にはこの回答に大きな疑問符がついてしまう」と語る。なぜなら、クラウドネイティブの本質は「素早くリリースし、継続的に新たな付加価値を市場に対して提供していく」ことであり、決してコスト削減という枠で捉えてはいけないからだ。

同氏によれば、注目すべき動向として、他業界から参入した企業が市場を破壊(Disrupt)するケースが増加しているという。既存市場の破壊者(Disrupter)に対する危機感を持った企業のなかには、生き残るためにデザインシンキング、アジャイルを率先して採用しているところも多い。

また、クラウドネイティブの実現には、開発手法だけでなく「組織の仕組み、マインドセットの変革」も重要である。既存の凝り固まった考えのまま新たな技術に単純に載せ替えるだけでは、何も変わらないからだ。したがって、ビジョンやマインドセットを共有し、「いかに組織全体で合意形成していくか」という課題に真摯に向き合って、考えていくことが重要となる。

クラウドネイティブの技術を学ぶ上で役立つリソースとして、CNCFではクラウドネイティブを俯瞰する資料として「Cloud Native Landscape」を提供している。なかでも「Cloud Native Trail Map」は、クラウドネイティブ実現に向けたステップや必要なツールなどの理解を深める上で大いに役立つという。

安田氏は、「クラウドネイティブは企業が競争優位性を確保するために必要なものであり、実現するためには『自律型組織』となり、『技術を選別する力』を持つことが重要」だとまとめた。

セッションでは解説に加え、クリエーションラインのコンテナ技術や事例など、とても参考になる情報が共有されました。特に組織の共有のビジョンを持ち、全ての社員が主体的に活動する「自律型組織」を目指す姿は非常に素晴らしいと感じ、我々研究会もそのようなマインドを常に意識して取り組んでいきたいと思いました。

ハイブリッドクラウド/マルチクラウドネットワークの新たな選択肢

富士通 戦略企画本部 古澤慧氏、津村遼氏が登壇したセッションでは、「クラウドサービス連携に有効なLayer 7のマルチクラウドコネクト技術」と題し、クラウドサービス連携におけるネットワーク構成について解説していただきました。

●セッションダイジェスト

クラウドネイティブを含めたハイブリッドクラウド/マルチクラウドを実現する上で、「どのようにネットワークを構成するか」という点が重要になってきている。

クラウドサービスの本質となるのは「アクセシビリティ」だ。何らかのサービスを提供している以上、アクセシビリティを向上させる必要がある。そして、アクセシビリティを向上させるのであれば、セキュリティについてもより考慮しなければならない。

これまでのネットワークセキュリティはVPNやAPIゲートウェイを配置し、インターネットとイントラネットの境界にセキュリティ製品を導入して、境界を厳重に保護することにフォーカスしていた。しかし、最近では、標的型攻撃など攻撃手法の変化によって境界防御にも限界がある。

そこで最近注目されているのが「Zero Trust Network」だ。これは、従来の境界という概念を捨て、「認証と認可」によってアクセス制御を行おうという考え方である。

富士通 戦略企画本部 古澤慧氏(左)、津村遼氏(右)

こうした背景の下、富士通で現在開発を進めているのが「マルチクラウドコネクト」だ。これは、サービスを提供するサーバ、サービスへ接続する利用者の端末双方に専用のエージェントをインストールすることによって通信を可能にする仕組みである。

マルチクラウドコネクト専用のコントロールプレーンにエージェントが接続することで、ホワイトリスト化されたサービスのみにセキュアにアクセス可能になる。

プロトコルはHTTP(S)であれば対応可能であり、アプリケーションAPIをHTTPS化できていない環境では非常にメリットが大きい。

マルチクラウドコネクトは現在開発中とのことですが、ユーザーから得たフィードバックを迅速に反映できるようにアジャイルの開発手法を採用しているそうです。

こうした新たな仕組みの登場で、ネットワーク接続方式の選択肢が増えれば、企業のクラウド導入が後押しされるのではないでしょうか。今後の動向に注目したいと思います。

クラウドネイティブは目指すべき”北極星”

今回も匿名投稿サイトに多くの質問が寄せられました。一部とはなりますが、質問と回答をピックアップしてご紹介します。

――グローバルで見たContainerの利用率に比べて、日本のContainerの利用率は極めて低い数字かと思います。ここに原因があるとすれば何が原因だと思われるでしょうか?

安田氏:現状に危機感を持っている会社はクラウドネイティブの採用率が高いと感じています。特に、Web系のクリエイティブな分野は採用率が高いです。一方で「エンタープライズIT」と言われるような組織は、動きが鈍いと感じてしまいます。

――Cloud Nativeなマインドセット、組織への変革は、「CloudNativeでない組織」に実現可能なんでしょうか? 現場サイドではなく経営層の変革が先に必要なんでしょうか?

安田氏:経営層が変わらないと難しいです。現場からボトムアップで変えていくことには正直限界を感じます。

――クラウドネイティブな開発サイドでのデメリットを教えてくだい。

安田氏:デメリットというわけではありませんが、ツールの技術的習得だけでなく、プロセスや仕組み作りが必要なことには留意しなければいけません。

その他の質問に関しては、今回もハイブリッドクラウド研究会のFacebookグループで閲覧可能です。ぜひ、そちらのグループへもご参加ください。

* * *

今回の勉強会は、これまで以上に大勢の方に参加いただきました。特に今回は初参加者が半数以上に上り、本研究会やコミュニティ活動への理解を深めていただけたのではないかと自負しています。

当日のアンケート結果と、今後のコミュニティ活動予定は、下記資料からご確認いただけます。

ハイブリッドクラウド研究会の醍醐味は「企業の垣根を越えて日本のITシステムに変革をもたらす知見、学びを得る」ことができるコミュニティであることです。

これからも引き続きクラウド活用に向けた取り組みを進めていきますので、今後の活動にもぜひご期待ください!

著者紹介

株式会社ネットワールド
Microsoft ソリューション プリセールスエンジニア
津久井 智浩(つくい ともひろ)

ソリューションディストリビューターであるネットワールドの一員として、お客様に付加価値を提供するというミッションの下、Microsoft製品を中心にオンプレミスからクラウドまで幅広く提案~導入を担当。
趣味はバイク。昼散歩が日課。最近は自分よりもカミさんの働き方改革を何とかしたいと苦悩し、マインクラフトを通して子供と一緒にプログラミングを学びたいと願う40代。3児(2女、1男)の父。