ゼロドリフトオペアンプの構成

高精度オペアンプは、「ゼロドリフト」のオフセット電圧を実現でき、多くの手法により温度変化や時間経過に対して入力オフセット電圧を低く維持します。アンプでこれを実現する方法の1つは、入力オフセット電圧を周期的に測定し、出力でオフセットを補正する設計手法を用いることです。この種のアーキテクチャをチョッパ安定化と称します。

工学的解決策がどれもそうであるように、ゼロドリフトオペアンプにも限界があります。あまり知られていないことの1つは、チョッパ安定化アンプの内部回路にはクロック動作システムが含まれているという事実がもたらす結果です。オン・セミコンダクターの「NCS333」[4]および「NCS21911」[3]に使用されているチョッパ安定化アーキテクチャの簡略化ブロック図を図2に示します。

この種のチョッピングはリアルタイムシステムだと主張する人がいるかもしれませんが、エイリアシングあるいはヘテロダイニングという従来からのサンプリング系の問題の影響を受けやすいことが、これまでの事例からわかっています。チョッパ安定化オペアンプの主要な偽信号は、信号がチョッパのクロック周波数に近づくと発生します。今回は、「エイリアシング」という用語を使用しますが、これには、「ヘテロダイニング」と呼ぶほうがおそらくより適切であると考えられるものを包含しています。

  • チョッパ安定化オペアンプ

    図2 チョッパ安定化オペアンプの簡略化ブロック図

図2で、下側の信号パスは、チョッパが入力オフセット電圧をサンプリングし、このオフセット電圧は、次に出力のオフセットを補正するために使用されます。このオフセット補正の周波数は、アンプの全帯域幅の範囲内です。この種のアーキテクチャはサンプリング法を使用しているため、最適な性能が得られるのは、入力信号周波数が関連するナイキスト周波数未満に保たれているときです。

これが意味することは、最高の性能を得るには、入力信号周波数が閉ループの帯域幅内にあるだけでなく、オフセット補正周波数の半分以内にある必要があるということです。このことから、チョッパはサンプリング周波数をナイキスト周波数より高く維持すると、エイリアシングの可能性を排除できることになります。信号周波数がナイキスト周波数を超えると、出力にエイリアシングが発生します。これはサンプリング系に起因する、あらゆるチョッパおよびチョッパ安定化アーキテクチャに固有の限界です。

  • ナイキスト周波数

チョッパ安定化アーキテクチャは、図2のブロック図で上側の信号パスとして示すフィードフォワードパスを備えることによりメリットが得られます。これはサンプリング周波数を超えてゲイン帯域幅を拡大している高速信号パスです。こうすることで、入力信号の高周波成分を保持するのに役立つだけでなく、低周波でのループゲインを向上させることもできます。オペアンプの開ループゲインは、-20dB/decadeで減少することを考慮してください。ユニティゲイン帯域幅が増加すると、プロットも高ゲイン側にシフトします。

一例を図3に示します。オペアンプが閉ループ系に使用される場合、系の開ループゲインを高くすると系の閉ループの精度が向上します。これは信号が低周波で差動電圧が比較的低いローサイド電流検出やセンサインタフェースのアプリケーション向けに特に有用です。

  • 開ループゲイン

    図3 2種類のチョッパ安定化アンプの周波数に対する開ループゲイン。広帯域幅のNCS21911は、ユニティゲイン帯域幅が高くなると全体の開ループゲインも高くなることを示している。開ループゲインが高くなると、直流でも閉ループ系の精度が向上する

とはいえ、ゼロドリフトアンプがすべて同じように作られているとは限りません。アーキテクチャの実現方法が異なれば結果も異なります。サンプリングによる限界はあっても、オン・セミコンダクターのオペアンプNCS333とNCS21911シリーズは、エイリアシングが低く、競合製品に比べエイリアシングの影響を受けにくくなっています。これはオン・セミコンダクターの特許取得済の手法によるもので、2段カスケードの対称RCノッチフィルタをチョッパ周波数とその第5高調波に同調させ、エイリアシングの影響を低減します。

もう1つのゼロドリフトアーキテクチャは「オートゼロ」と呼ばれます。図4に示すオートゼロアーキテクチャのブロック図は、チョッパ安定化アーキテクチャに似ていますが実現方法は異なります。オートゼロアーキテクチャは、メインアンプとゼロ調整アンプを備えています。この方法もクロック動作システムを使用します。

第1フェーズでは、スイッチドキャパシタにより前のフェーズからのオフセット誤差をゼロ調整アンプの出力に保持します。第2フェーズでは、ゼロ調整アンプ出力のオフセットを使用してメインアンプのオフセットを補正します。オートゼロとチョッパ安定化アンプのアーキテクチャの違いは、ノイズ性能とエイリアシング感受性の差をもたらします。これについては後のセクションで説明します。

  • オートゼロアンプ

    図4 オートゼロアンプの簡略化ブロック図

(次回は9月25日に掲載します)

参考文献

  1. 25μVオフセット、ゼロドリフト、36V電源、2MHz高精度オペアンプNCS21911のデータシート
  2. 10μVオフセット、0.07μV/℃、ゼロドリフトオペアンプNCS333のデータシート

著者プロフィール

Farhana Sarder
ON Semiconductor
アプリケーションエンジニア

アナログ回路設計のバックグランドを有し、高精度オペアンプ、電流検出アンプ、コンパレータなどのアンプ製品を専門としています。
電気工学修士号を取得。