スマートウォッチは様々な製品が出ていますが、大きな不満点といえば画面の狭さでしょう。スマートウォッチが登場したころは「これでスマホがいらなくなる」なんて言われたものですが、現実にはスマートフォンが無い生活を送っている人はいないでしょう。スマートウォッチはスマートフォンのアシスタントとして通知確認やモバイルペイメント、そして心拍数や運動量を計測できる活動量計として使われています。しかしそのスマートウォッチがいよいよスマートフォンの代わりになる時代が来るかもしれません。プロジェクターを内蔵したスマートウォッチが登場するかもしれないのです。

  • プロジェクターで腕に投影できるスマートウォッチが登場か

サムスンは2023年2月にアメリカの特許庁に「Wearable Electronic Device Including Projection Display」(プロジェクションディスプレイを含むウェアラブル電子デバイス)という特許を出願しました。出願資料を見ると、スマートウォッチをはめている腕の、手の甲に大きな表示が投影されているのがわかります。スマートウォッチの2倍以上の大きさで表示されるため、スマートウォッチ側の表示の文字サイズをかなり小さくしても、投影された画像の文字をしっかりと読むことはできそうです。

  • サムスンが特許を出したプロジェクター内蔵スマートウォッチ

ただしこのスマートウォッチは特許として出願されたものであり、今すぐ製品化されるかどうかはわかりません。新しい技術を思いついたら特許を出すのはメーカーとしては当然のこと。なのでこのプロジェクタースマートウォッチも想像の産物にすぎないかもしれません。しかしサムスンは2018年にも同様の特許を出しており、5年以上も前からこのようなデバイスの開発を進めているのです。なお今回の特許は細かいユーザーインターフェースの改良や機能強化などなのかもしれません。

  • 2018年にサムスンが提出した特許資料から

スマートフォンは今やカメラであると共に、ストリーミングで動画を視聴するモニターとしても使われます。そうなると画面サイズは大きいに越したことは無く、今後スマートフォンが今よりも小型化していくことはないでしょう。小型化するとしたら画面を曲げられる折りたたみ型へ進化するのが自然の流れだと思われます。サムスンはすでに折りたたみスマートフォンを横型、縦型と2種類の形状で製品化しています。

  • スマートフォンの小型化は折りたたみ型という方向になっていく

しかし大きいスマートフォンをポケットからいちいち出すのも面倒なものです。そのためスマートフォンを出さなくともある程度のことができるスマートウォッチの機能強化が求められます。とはいえスマートウォッチの画面サイズは腕の大きさを考えると今以上に大型化することは難しいでしょう。中国あたりでは超小型のスマートフォンをそのままスマートウォッチのように使える製品が出ていますが、大手メーカーが製品化していないことを考えると実際の使い勝手はあまりよくないのだと思われます。

  • 腕にはめられるスマートフォン。便利なようで普及はしていない

そこで考えられたアイディアがスマートウォッチにプロジェクターを内蔵し、腕や手の甲に画面表示を投影するというものです。現実味はないかもしれませんが、プロジェクターモジュールの小型化も年々進み、ようやく実製品として使えるようになるかもしれません。

実はプロジェクター内蔵スマートウォッチはすでに複数の製品の開発が進んでいます。投影される映像の解像度は低く、市販には至っていないものの実際に動作するスマートウォッチが存在するのです。カーネギーメロン大学は2018年に「LumiWatch」を開発。実際に腕にスマートウォッチの画面を投影し、また指先を使ったタッチ操作にも対応しています。

  • カーネギーメロン大学のLumiWatch

  • 指先を腕にタッチして操作もできるようだ

また家電メーカーのハイアールはボッシュが開発したマイクロプロジェクターを内蔵したスマートウォッチ「ASU」を2018年1月にラスベガスで開催されたCES2018に出品しました。こちらは投影だけですが、家電メーカーが作り上げたものだけにすぐに製品化されるかと期待されました。しかしその後この製品が展示会に出展されることは無く、現在開発が継続されているかどうかも不明です。

  • ハイアールのプロジェクター内蔵スマートウォッチ「ASU」

どちらの製品も奇しくも同じ2018年に発表されており、それから5年がたった2023年の今ならばそろそろ製品が出てきてもおかしくないかもしれません。腕や手のひらに投影された映像を指先でタップして操作するには、指の動きや振動を認知するセンサーが必要ですが、それらもすでに実用化レベルのものが出てきています。

プロジェクターと言えば、サムスンは円筒形の小型サイズとして、どこにでも設置可能な「The Freestyle」を販売しています。一般的なプロジェクターは机の上に置いたり天井からぶら下げて壁に映像を投影して使いますが、The Freestyleは天井からテーブルの上に向けたり、スタンドに取り付けて机の上にPCの表示を投影する、なんて使い方も可能です。製品名の通り自由なスタイルで使えるThe Freestyleは、プロジェクターの新しい使い方を生み出しています。

  • プロジェクターの新しい形、The Freestyle

サムスンは小型プロジェクター内蔵スマートフォン「Galaxy Beam」も2012年に販売していました。この製品も後継機が現在出ていないことから実用性はあまり高くなかったと思われます。このようにプロジェクターを使った多様な製品をサムスンが開発しているのは、世界屈指のTVメーカーでもあるからでしょう。世界初のプロジェクター内蔵スマートウォッチはどのメーカーから出てくるのか、製品化を期待したいものです。

  • プロジェクター内蔵スマホのGalaxy Beam