スマートフォンやタブレットを使って書籍や漫画を楽しむことは日常的なものとなりました。しかし紙の書籍には紙ならではの良さがあります。またたとえば紙の雑誌なら電車の中では折りたたんで、カフェで休みながら両開きにする、なんてことも自在です。スマートフォンの画面サイズは頑張っても大きくなりませんし、タブレットは混雑した電車の車内では邪魔になってしまいます。折りたたみディスプレイを搭載したスマートフォンやタブレットもありますが、まだまだ高価な上に重量もあります。ファーウェイが2022年4月に発表した「Mate Xs 2」は開けば7.8インチ画面のタブレット、閉じれば横幅約76mmと片手で持てる6.5インチスマートフォンになりますが、価格は9,999元、約20万円もします。

  • ファーウェイ「Mate Xs 2」なら閉じても開いても読書が捗るが価格が高い

    ファーウェイ「Mate Xs 2」なら閉じても開いても読書が捗るが価格が高い

では自在に曲がる、あるいは丸められるようなディスプレイの実現は難しいのでしょうか? AmazonのKindleに代表される、電子ペーパーがそんな紙のようなディスプレイを実現するかもしれません。そもそも電子ペーパーは「ペーパー」という名前がついていることからわかるように、紙を電子的に再現したディスプレイです。電子ペーパーは発光して文字を表示するのではなく、太陽光や外光が当たることで表示を見ることができます。そのため目にやさしいのが特徴です。

  • AmazonのKindle Paperwhite。電子ペーパーは紙と同様に、光が当たることで表示が読める

とはいえ電子ペーパーはモノクロ表示のため文字やモノクロの漫画以外には適していません。しかし近年ではカラー化の技術が進み、最新のカラー電子ペーパー「E Ink Gallery 3」では4,096色表示対応、モノクロと同じ300dpiの解像度でより細かな表示も可能にしたうえ、画面の書き換え速度も1.5秒と高速化されています。ただしこの速度は動画を表示するには適しておらず、カラーの雑誌や新聞、漫画といったイラストや静止画の表示に向いています。

  • E Ink Gallery 3。写真表示はまだ難しそうだが多色のイラストなどなら十分だ

なお電子ペーパーディスプレイの最大手、E Inkは3万2,000色表示可能なカラー電子ペーパー「E INK Gallery 4100」も開発中です。こちらも動画の表示は難しそうですが、これだけの色数があれば一般的な雑誌のカラー写真ページも問題なく表示できそうです。

  • 3万色以上表示できるカラー電子ペーパーも開発中(goodereader.comより)

既存の液晶や有機ELディスプレイがあれば電子ペーパーは不要と思う人も多いでしょう。しかし電子ペーパーは液晶ディスプレイと異なりバックライトは不要です。また有機ELディスプレイのように素子が発光しません。そのためディスプレイの構造をより簡素にでき、電力消費も少ないというメリットがあります。とはいえ電子ペーパーは暗いところでは見えないため(暗闇の中で書籍を開いても目に見えないのと同じことです)、フロントライトを搭載する必要があり、ライトを使うと結局は電力を食ってしまいます。

電子ペーパー最大のメリットはライトや発光素子を使わないため目に負担がかからないところにあります。たとえば子供向けの電子教科書に電子ペーパーは向いており、中国ではそれを意識した製品も販売されています。

  • ハイセンスのカラー電子ペーパースマホは教育コンテンツ利用に向いた学習スマホとして販売されている

この電子ペーパーも、次はいよいよ曲がる製品がでてくるようです。E Inkは折り曲げられるカラー電子ペーパーや、丸めることのできるカラー電子ペーパーを開発中です。

たとえば折りたためるカラー電子ペーパーを使い、閉じた外側には有機ELディスプレイを搭載すれば「閉じれば普通のスマホ」「開けば目やさしい電子ペーパータブレット」という2つの画面を使い分けられる端末を実用化できます。現在販売されている折り畳みスマートフォンより長時間利用でき、また畳んだときのサイズをより薄くすることもできるかもしれません。

  • 折りたためる電子ペーパー

実は「表はスマートフォン(有機EL画面)、裏は電子ペーパー」という両画面端末は過去にいくつか製品が発売されたことがあります。しかしスマートフォンサイズの電子ペーパーでスプレイでわざわざ電子書籍を読むメリットは少なく、数モデルが登場したものの消えていきました。しかし折りたたみできるタブレットサイズの電子ペーパーなら、長時間の読書にも適しています。

  • 普通の画面(液晶または有機EL)と電子ペーパーの2画面スマホは普及しなかった

そして丸められる電子ペーパーが登場すれば、使わないときは丸めて棒状にして持ち運び、使うときはその場の状況に応じて広げる大きさを変えるという、まるで紙のようなディスプレイを実現できます。この丸めることのできるローラブルディスプレイはOPPOなどがコンセプト製品を発表していますが、有機ELディスプレイの表面をしっかり保護する技術がないことなどから、実用化にはまだ数年かかりそうです。電子ペーパーも同様の技術の壁はありますが、ディスプレイの構造を考えるとこちらが先に製品化できるかもしれません。

  • 丸めることのできる電子ペーパー

自在のサイズに変形できるディスプレイが登場すれば、スマートフォンやタブレットの使い方はさらに便利になるでしょう。電子ペーパーの進化もこれから見逃せないものになるでしょう。