次々とコスパに優れた低価格で高性能なスマートフォンを展開するシャオミが、今度はロボットに目を向けています。8月には犬型ロボット「CyberDog(サイバードッグ)」を発表しました。犬型ロボットと言ってもソニーが出していた「aibo(アイボ)」のようなかわいらしい姿ではなく、4本の細い足がむき出しになった武骨なデザインです。スマートフォンアプリからの操作も可能になっていますが、ターゲットは一般ユーザーではなく開発者です。

  • シャオミの犬型ロボット「CyberDog」

CyberDogのような四本足で自律歩行できるロボットはアメリカのボストン・ダイナミクスが2000年代頭から「BigDog」などを開発してきました。同社は2020年にサイズを小型化した「Spot」を開発者向けにアメリカで発売。価格は7万4,500ドル、約820万円とかなり高価ですが、工場の巡視用途など人間に代わる作業を行う4本足ロボットによる応用展開が期待されます。

  • ボストン・ダイナミクスの「Spot」。開発者向けで価格は約820万円

一方、CyberDogの価格は9,999元、約17万円です。販売台数は限定1,000台なので、この価格はもしかするとコスト割れしているかもしれません。とはいえSPOTの820万円と比べるとその価格はわずか約50分の1。シャオミはスマートフォン業界に続き、ロボット業界にも価格破壊を起こそうとしているのかもしれません。なおソニーが2018年に発売したaiboの価格は217,800円でしたから、CyberDogはそれよりも安いのです。

CyberDogは頭脳としてNVIDIAの「Jetson Xavier NX」という世界最小のAIコンピューティングボードを搭載しています。それに加えてセンサーやカメラ、GPSなどを装備しています。シャオミのスマートフォンが、クアルコムのチップセットに、ソニーなどのカメラなどを搭載しているように、各メーカーの最高の部品を組み合わせることでロボットを作り上げたわけです。ただし動作に欠かせないサーボモーターはシャオミが自社開発したとのこと。

  • CyberDogの主なスペック

CyberDogの仕様を見てみると、走行速度は秒速3.2メートル。換算すると時速11.2キロメートルで、これは動物でいうとニワトリの時速14キロメートルよりちょっと遅い程度。とはいえ結構素早く動けます。また前足部分を上げて2本足で立ったり、バク転もできるとのこと。うまくプログラミングすれば実際の犬のような動作もできそうです。

  • 2本足の直立やバク転も可能

しかしCyberDogの本来の目的は、4本足ロボットの新しいユースケースの開拓でしょう。17万円という価格は大手企業ではなくても、スタートアップや個人プログラマーでも十分手がとどきます。

シャオミはCyberDogに自社のスマートフォン技術も多数応用しています。AIインタラクティブカメラや2眼識の超広角魚眼カメラは周囲の状況をリアルタイムに認識し、センチメートル単位で障害物を回避することができます。最近のスマートフォンのカメラはAIや物体認識など大きく進化していますが、それをロボットに応用しているわけです。またシャオミは独自の音声AI認識システムを開発しており、CyberDogにも搭載されています。

  • カメラや音声AIなどシャオミのスマホの技術がCyberDogにも応用される

CyberDog本体にはUSB Type-C端子やHDMI端子も備わっているので、サーチライト、パノラマカメラ、LiDARセンサーなどを追加して機能を拡張できます。これにより用途に応じた様々なロボットを作り上げることができるわけです。用途展開としてはやはり監視・巡視などが考えられますし、最大荷重が3kgなので、荷物の自動運搬にも使えそうです。他にもコンシューマー寄りの展開として、たとえば将来は盲導犬のように人を誘導するロボットの実現も可能性があるでしょう。

  • 個人の開発者による産業用途以外の展開も十分考えられる

ロボットと言えば、古くはホンダが2000年に二本足で自律歩行する「ASIMO(アシモ)」を発表しました。将来は人間の代わりに作業をしてくれるロボットが日常的に利用される時代が来ると期待されたものです。しかしロボットの開発には多大な資金がかかり、人間と同じ動作を行わせるには多数のコンピューティング処理が必要となります。2014年にソフトバンクが「Pepper(ペッパー)」をリリースしましたがロボットというよりも「人間型音声AIコンピューター」という製品でした。日常生活の中でロボットが普通に使われる、という時代はまだ先になりそうです。

  • 2000年に発表されたホンダのASIMO。ロボットが日常生活の一員になる日は来るのか

しかしCyberDogは高性能なコンピューターやカメラなどのセンサーを搭載し、比較的低価格で登場したことで実用的なロボットを容易に開発することを可能にしています。主な販売先は中国国内でしょうが、1年もすれば中国各地でCyberDogと一緒に買い物に行く人の姿や、学校の敷地内を24時間パトロールするCyberDogの姿が見られるようになっているかもしれません。

プロペラにより空を飛ぶドローンも、数年前までは高価なこともあり一部のマニアや企業が購入するような製品でした。しかし今では製品価格が下がり、さらにカメラやスタビライザーの性能が高まったことで産業用途への展開も急激に広がりました。災害時にドローンを飛ばして空中から被災場所の写真や動画を撮影することも一般的になりました。

  • アメリカでは農薬散布や収穫確認に産業用ドローンが日常的に利用されている

CyberDogの登場でロボットが日常的あるいは緊急時に使われるツールになる日が遠くないうちにやってくるでしょう。シャオミにはぜひCyberDogの生産数を拡大し、販路を世界中に広げてもらいたいものです。