日立マクセルのヘッドフォンシステムVraisonは、以前、技術発表会の席で見たことがあったのですが、今回、実機「HP-U48OH」をお借りすることができたので、ほかの音質補正技術とどの辺りが違うのか簡単にレポートしてみたいと思います。なお、今回、VraisonのMacintosh対応版が発売されましたが、筆者のところには最新のMac環境はないので、PC版をお借りすることにしました(PCに関しても、Vistaは未導入なので決して最新の環境というわけではありませんが……)。

さて、圧縮音楽から、圧縮時に失われた高音、あるいは大きい音の影にあった微弱音を補完するといった高音質化技術は、日本ビクターのK2テクノロジーに含まれるCCコンバーターや、先日試用してみたクリエイティブメディアのXmod、ケンウッドのSupreme EXなど、多くのメーカーの製品に搭載されています。Vraisonもその一種ではあります。しかし、量子化ビット数の拡張と、聞く人の耳の特性を測定して、それを音質補完に反映させるという特徴を持っています。この辺りがどのように効いてくるのか試してみましょう。

その前に、試聴環境の構築です。Vraisonのパッケージには、ヘッドフォンと、USBポートに接続する本体、そして2枚のインストールCDが付属しています(1枚はWindows Vista用で、もう1枚は Windows XP用)。つまり、ハードウェア単体で試用するシステムというわけではなく、PCにドライバーを組み込む必要があるシステムということになります。

お借りしたシステムヘッドフォン「Vraison」

さて、音楽を聴いてみます。今回視聴したのは、SPYRO GYRAのアルバムINCOGNITOのタイトルナンバー「INCOGNITO」です。まず、とりあえずは、Vraison BR Driverの設定をすべてOFFにして聞いてみます。ごく普通のオープンエアータイプらしいサウンドです。中低域が前に出てくるというよりは比較的フラットな感じです。CDからの再生なので、Vraison BR Driverの画面に表示されるスペクトラムアナライザーも20kHzあたりまでバーが表示されています。

CDからのそのまま再生した場合

続いて、Bit-RevolutionのスイッチをONにしてみます。スペクトラムアナライザーのバーは、36kHz程度まで表示されています。聞いた感じでも、高音の伸びが感じられます。また、曲の出だしの部分に、ごく小さくコーラスが入っているのですが、そのうねり具合がはっきりとしてきているなど、通常の再生に比べて、解像度のアップも感じられます。

Bit-RevolutionのスイッチをONにしたところ

本製品には、ユーザーの耳の特性にあわせて補完を行うという機能も搭載されています。Vraison BR Driverの画面の右上のほうにある「ユーザー対応」の中の「聴覚感度設定」をクリックすると、聴覚感度設定の画面が表示されます。ここで左右同時測定のチェックをOFFにして、左右の耳の感度を測定していきます。いくつかの波形の音が、周波数別、強さ別に流れるので、聞こえなくなったところで「認識不能」を押せば終了です。設定値を保存を選んで、ファイルとして保存しておくとよいでしょう。しかし、この測定値は、体調などによってもけっこう変わってきます。例えば、視力検査などでも、調子のよいときには1.5ぐらいまで見えるのに、体調が悪いと、1.0ぐらいということはけっこうあります。ですので、時々測定し直しておいた方がよいかもしれません。

どうやら、17kHzぐらいまで聞こえて、右の方が若干感度が悪いらしい。しかし、以前に測定したときには、左の方が感度が悪かったので、その時々によって変わってくるのかもしれない

さて、ユーザー対応のチェックを音にして再生したときの波形が次の画面です。ON/OFFを繰り返してみると、音の定位の仕方に変化があることがわかります。左右の耳での音の聞こえ方のレベルに差があるため、Vraisonのほうで補正をかけているのでしょう。それ以外には、さほど変化は感じられませんでした。

波形ではわからないが、左右のバランスが修正されたようで、音の定位に違いが出た

今までは音楽CDからの音楽をそのまま聴いていましたが、続いて圧縮音楽を聴いてみます。同じ曲を、Windows Media Player9で96kbpsのWMAにエンコードしてみました。それを、Bit-RevolutionをOFFにして再生したのが次の画面です。先程のCDからの再生に比べて、高域の伸びがなく、こもったような感じがするうえ、コーラス部分は聞こえたり聞こえなかったりという感じです。

別の曲といった感じだが、96kbpsのWMAだとこんなもの

ここで、Bit-RevolutionのスイッチをONにしたのが次の画面です。48kHzあたりまで伸びていますが、なぜか13kHzあたりに落ち込みがあります(この画面だけでなく、この曲の間中一貫してそういう傾向)。で、別の曲を聞いた見たところ、このようなことはありませんでした。Vraisonでは、圧縮音楽に含まれているデータから、補完されたサウンドを作り出しているわけで、曲やエンコードの状態によってはこういったこともあるのでしょう。聞いた感じでは、CDから再生したときに比べて若干高音部分の強調が気になりますが、Bit-RevolutionをOFFにしていたときに比べるとはっきりと別物です。圧縮音楽の再生の場合、イコライザーで高域を少し落としてやるといった微調整を行ったほうが、より、オリジナルに近いサウンドを楽しめるでしょう。

13kHzあたりに落ち込みはあるが、違う曲ではこのようなことは起こらなかった

さて、Vraison BR Driverの画面の右上にヘッドフォン適応と書かれたエリアがあります。ここで選択をクリックすると、次のような画面が表示されます。

ヘッドフォン特性プロファイルの選択画面

ヘッドフォンのプロファイルの選択画面です。筆者がお借りしたモデルはオーバーヘッドタイプのヘッドフォンがセットになった「HP-U48OH」というシステムですが、そのほかにインナーイヤータイプのヘッドフォンと組み合わされた「HP-U48IE」というモデルも存在します。ここでは、そのヘッドフォンの特性に合ったプロファイルを選択することで、よりリアルなサウンドが楽しめるようになります。

では、これら以外のヘッドフォンならどうなのか、気になるところです。というわけで、とりあえず手近にあったゼンハイザーのPX-100とELEGAのDR-592CIIで試してみました。PX-100では、前に出てくる感が強く感じられるようになりました。低ビットレートのWMAで圧縮したサウンドをそのまま情報量を殖やしたようなサウンドです。また、Vraisonでは、ダイナミックレンジの拡張も行われています。そのため、PX-100では、ピークの音で、何カ所か音が割れる部分が見受けられました。付属のヘッドフォンではそのようなことは感じられなかったのですが、付属のヘッドフォンは特性を合わせてあるうえ、単品で聞いたときにもフラットな音の出方から、中級クラスのヘッドフォンと同じぐらいのレベルの製品と思われます。そのため、別のヘッドフォンを試す場合でも、ある程度のレベルの製品でないと、Vraisonというシステムの能力に追いつかないということがあるのでしょう。

続いてDR-592CIIですが、こちらは、その音響特性と密閉する圧力によって(ユーザーが耐えられるならば)、はっきりとした音の定位、また、大音量のサウンドの影に入り込みがちな小さな音も聞き取りやすいという傾向がありますが、それが、より定位もくっきりとし、微弱な部分もはっきりと聞き取れるなど、本来の特徴が増幅されているように感じられます。

Vraisonには、コントローラーに接続したヘッドフォンの方向性を強調するような傾向があるように、筆者には感じられます。自分の気に入っているサウンドのヘッドフォンと組み合わせてみると、さらに、楽しみが広がるかもしれません。