GFを巡る最近の報道

最近、複数の報道でGLOBALFOUNDRIES(GF)が身売りするのではないかといううわさが出ているという。これらの記事の主たる内容は下記のようなものである。

  • 長年TSMCに次いで世界第2位であったシリコン・ファンウドリ会社であるGFは今やSamsung Electronicsに次いで世界第3位となっている。ダントツ1位のTSMCは世界のファウンドリシェアの半分を掌握する状態で、最近GFを抜き去り2位となったSamsungは現在、ブランド半導体のDRAM/Flashなどのメモリビジネス主体の体制からロジック製品を強化する希望を持っている。
  • GFは2018年夏に7nm以降の最先端プロセス技術開発の凍結を発表。
  • さらにGFはシンガポールにある200mmのFabを2019年1月末にVangurdへ売却合意済み。
  • そこへきて、GFの90%の株を持つ事実上の持ち主であるUAE(アラブ首長国連邦)のATIC(Advanced Technology Invenstment Company)はGFを手放すことを考えているのではないか、という話が業界の中でしきりである。その売り先は米中の貿易摩擦のことを考えると韓国企業の可能性が高そうだということである。

GFは2018年2月に中国四川省の成都に300mmの大型Fabを建設することで地方政府と話がまとまっていたが、この話も米中の貿易摩擦の中心的話題となっている知的財産権を巡る議論を考えると計画が実施されない可能性も出てくる。もともとはAMDの工場であったドレスデンが母体となっているGFの話なので、AMDのOBとしては捨て置けない話題である。AMDがドレスデンを切り離してATICに売却しGFが誕生した時のいきさつは過去記事をご参照願いたい。

参考:吉川明日論の半導体放談 第45回「ファウンドリ第2位のGlobalfoundriesの発表に思うこと」

  • AMDのドレスデン工場のお土産品

    AMDのドレスデン工場のお土産品。「AMD in Dresden」と書いたアクリルの材料に封止されたAMDのCPUチップ。これは初代K8であると思われる (著者所蔵イメージ)

UAE - アラブ首長国連邦という国

GFの命運を握っているのが大株主のATICである。アラブ首長国連邦の投資会社であるATICはアブダビ首長国の王家の直接管轄の投資機関であり、AMDはこの投資機関の出資を受けてドレスデン工場を切り離し、2009年に独立のファウンドリ会社を設立することとなった。これがGFとなったのである。

UAE(アラブ首長国連邦)というと日本ではオイルマネー、王族の独特の衣装などのイメージが強いが、実際には他のアラブ諸国も含めてその国情はあまり知られていないのではないだろうか? 私は昨年の大学の授業でアラブ問題のクラスをとったので多分に受け売りではあるが、かなり日本と異なったUAEの状態をご紹介しておきたい。まず、UAEはアブダビ首長国、ドバイ首長国などを含めた7つの王国が連邦をなしている。これらのアラブの王国に共通している主な特徴は以下のとおりである。

  • 基本的に王国であるので、王と王家とその臣民がコアな住民で、その他に多数の移民がいる。移民たちには国籍は与えられず、主に諸外国から出稼ぎに来ている。
  • 王家は臣民を家族のように養っている形態で、基本的に臣民に対しては医療、教育など広範囲にわたる大変に厚い社会的ケアが付与される。臣民たちは基本的に納税義務がない代わりに民主主義国家のような投票権も与えられていない。その財源の主体を成しているのが石油などの自然資源である。こうした国家体制は「レンティア国家」と言われ、アラブ諸国にほぼ共通した国家形態である。
  • 国際学会などでは石油のような資源の輸出に伴う非課税収入=レント(家賃のような)収入が国家財政収入において40%以上占める国家を「レンティア国家」として定義している。
  • UAEは1960年代後半に大規模油田が開発され、あっという間に石油大国となったが、50年以上たった現在でも石油資源に極端に依存する財政体質となっている。石油はしばらくは枯渇しないとはいっても永久にあるわけではない。しかも原油価格の高下に経済力が大きく左右されるし、米国でのシェールガスの開発でそのパワーバランスは大きく変わりつつある。
  • 国家財政の過度な資源依存によるリスクを減少させるためには、石油依存脱却のための多角化を考慮する必要がある。ということで王家は臣民を養うためのいろいろな方策を講じなければならない。

こうした背景があってUAEも含め他のアラブ産油国は石油以外の経済インフラ開発を目的として半導体、太陽光などの先端技術の取り込みを積極的に行っている。

私がAMDに勤務していたころには、UAEが半導体デバイスビジネスの構築を狙ったドレスデン工場の買収とGFの創立という大掛かりな動きを目の当たりにしたが、その後の半導体ウェハのビジネスにかかわった時も、アラブ諸国に対する太陽光ビジネスの移植という事業の動きも(直接にではないが)見たことがある。

彼らの考えでは、石油はあくまでGDPを支える対外貿易の商品であり、資源に限りがあるものなので国内消費をできるだけ抑えたいというのが本音であろう。「オイルマネーの超金持ち」という単純なイメージが付きまとうアラブの王家ではあるが、実際には臣民を養うためにいろいろな苦労をしているのだ。

GFのこれからのチャレンジ

寡占・統合化が急激に進む半導体は、米中貿易戦争という地政学的リスクをも抱えることになった。大株主ATICのGF売却の話題は、いくらアラブの石油王と言っても「国家財政の未来を託す安定したビジネスとしては半導体はリスクが高すぎる」という判断をしたということなのかもしれない。

これが事実だとすれば、GFには大きなチャレンジが待ち受けていると言わざるを得ない。「7nm以降の最先端のプロセスの開発投資凍結」を発表した時には、成熟したプロセスでRF、パワー、MEMSなどの分野に注力するのだとみていたのだが、今回のシンガポールの200mm工場の売却を決定を見るに、その戦略が見えなくなった。しかも、他の半導体企業の大型案件がそうであったように、米中の貿易摩擦の中で成都の300mm工場建設の将来も大変に不透明となった。AMDが主力生産工場をTSMCに振り向けたこともあり、先行きが大変に気になるところである。

著者プロフィール

吉川明日論(よしかわあすろん)
1956年生まれ。いくつかの仕事を経た後、1986年AMD(Advanced Micro Devices)日本支社入社。マーケティング、営業の仕事を経験。AMDでの経験は24年。その後も半導体業界で勤務したが、2016年に還暦を迎え引退。現在はある大学に学士入学、人文科学の勉強にいそしむ。

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