前回、GAFAと呼ばれるGoogle、Amazon、Facebook、Apple各社の成立過程とその強さについて論じたが、後編ではGAFAが人間の消費行動、既存産業にもたらす変化について考察したうえで結論に至る。

なお、最後に参考文献リストを記載しているが、あくまでもレポートそのままにという意図で添付してある。

  • the four GAFA 四騎士が創り変えた世界

    the four GAFA 四騎士が創り変えた世界の表紙 (編集部撮影)

GAFAが人間の消費行動にもたらす変化

GAFAのビジネスモデルに共通するものは(アップルは多少違うにしても)、膨大な個人データをベースにした巨大なデータセットに基づいているということだ。しかもこのデータセットをベースに人的なリソースをかけずに24時間働きずくめのAI機能を取り込んだ中央演算装置と安価な半導体メモリを連動させることによって、徹底的なサービスのカスタマイズをしながらマスへのアプローチが可能となる。

カスタマイゼーションとマスアプローチという従来のマーケティングでは背反する要件を低コストで行うことができるこのシステムは、ユーザーへのサービスのレベルを飛躍的に向上させる。

これによって、ユーザーは自分にカスタマイズされたサービスに慣れきってしまって、次第にそれなしには生活ができないような状態になる。これにより本来能動的であった人間の消費行動が消極的になってしまう可能性がある。しかもカスタマイズされた個人情報によって割り出される特定ユーザーの消費パターンによって、潜在的な消費欲求を先読み「あるいは完全に創造」することができる。

アマゾンが現在進めているゼロクリックオーダーのサービスで、「アマゾンは間もなく消費者の意思決定や注文という作業なしに、物理的な欲求を自動的にすくい上げ、満たしてくれるようになるだろう」(p.59)、しかも「それほど時間がたたないうちに、買い物の好みについて自分が知っている以上のことをアマゾンが知るようになる」(p.61)。

例えば、最近アマゾンが流している以下のようなテレビCMの例をとってみよう。

ユーザーがアマゾンのAIであるAlexaに接続されたスピーカー(収音機)に「この辺にあるいい感じの喫茶店教えて?」と聞くと、Alexaが瞬時に複数の喫茶店のセレクションを表示する。Alexaに音声で検索をかけ、近所の自分の好みにあう喫茶店を瞬時に割り出す行為は外見上"クール"なものに見えるが、それに必要な下記の要件がアマゾンのAlexaには備わっていることを知っておく必要がある。

  1. GPSによりアマゾンはすでにユーザーの現在地を知っている。GPSは住所も特定できる。買い物ルートも特定できる。どんなエリアに頻繁に行っているのか、どれだけの金を使うかもデータセットに格納される。
  2. その特定ユーザーにとって"いい感じの喫茶店"といった非常に曖昧な命令情報で嗜好に合致した場所をあらかじめ蓄積したデータに基づく深層学習AIで割り出すことができる。
  3. この行為は繰り返されるほどに、サービスの精度は向上し、顧客満足度は高くなる、これによりカスタマーロイヤルティも高くなる。このサイクルは無限に繰り返されアマゾンの影響力は強化され続ける。

ユーザーは便利さと引き換えにさらに多くの個人情報を提供し、結果的に消費行動の主導権をITプラットフォーマーにすべて預けてしまうことにはならないか?

GAFAが既存産業にもたらす変化

アマゾンがかつては栄えた小店舗、デパートメントストア、あるいはアメリカの郊外にあるショッピングモールに大打撃を与え、必要労働人口の減少、コミュニティの消失と言ったネガティブな結果を生むということはギャロウェイがこの本で述べている通りであるが、私はこの産業・社会構造への破壊的な影響力に加えて、人間に特有な芸術の分野(映画、音楽、美術など)への影響力に特に注目している。

最近、世界的な映画祭、映画賞でのNetflixの扱い方の議論が盛んとなっている。著名な映画賞であるアカデミー賞を3回も受賞した映画ディレクターであるスピルバーグが問題視しているのは、Netflixなどの進出で起こる既存の映画配給ビジネス、映画館などへのビジネス上の影響だけではない。既存の制作現場が問題視しているのは、Netflixのコンテンツ制作姿勢である。

DVDの宅配から発展したNetflixは広帯域ネットワークの普及とともにストリーミングの映画配信で急激に成長したが、今や毎年1.5兆円を超す費用をコンテンツ制作に投下する巨大プロダクションに変貌している。スピルバーグなどが問題視するのは、その制作手法が個人データに基づくものである点だ(Steven Spielberg thinks Netflix should be barred from Oscars: Interview by Independent, UK)。

既存の制作現場では人間の想像力で新たなアイディアを生み出し人間の感情を喚起する作品を制作するというやり方であったのに対し、Netflixは個人データに基づいて徹底的なトレンド分析を行い、最大公約数のトレンドに基づき映画製作ができる。これにより、"リリースしたが当たらなかった"というビジネスリスクは飛躍的に回避される。そればかりでなく、観客の嗜好に沿って複数のストーリー展開を持つコンテンツを並行して制作し、デモグラフィックに沿って配信することも十分可能となる。

その場合、ある属性に含まれる視聴者は他の属性の視聴者と異なるコンテンツを観ることになるが、その満足度は属性の壁を超えない限り高いことが保証される。ここでは人間特有の想像力が力を発揮する部分が減少してくる。この手法は他の芸術にも応用は可能であり、近い将来この手法を用いたデジタル制作による音楽、美術、小説が登場し大衆芸術を形成する可能性がある。

結論

GAFAの成立過程とその強みに関する考察を経てこれからの世界を考える時、GAFAによる急速な経済圏拡大に対する懸念を禁じえない。

しかし過去の時代の革新期でも起こったように、行き過ぎた状況に対する是正作用が働くことも考えられる。その一1の例は各国の競争法当局がこれらの強力なグローバル・プラットフォーマーに対し規制をかけようとする動きである。

特にEUにおける競争法当局は歴史的にも巨大企業による競争阻害行為に対する厳しい措置をとってきた。例えばEU委員会はスマートフォンOSの圧倒的シェアを持つアンドロイドを独占するグーグルに対して、独占的地位を利用した抱き合わせ販売や、競争排除の行為を認定し、過去最高の50憶ドル以上の制裁金を課した。

またEU委員会はフェイスブックの情報流出問題などを受けて、ネット上の個人情報の保護に関する一般データ保護法(GDPR)を5月から施行した。US当局もこれについては検討に入っている。これらは当局ばかりでなく、データを提供する個人がそのデータの取り扱いに対して大きな関心を持っていることを示している。

最近ベルギーのブリュッセルで行われたデータ保護規制当局が集まる国際会議ICDPPC(International Conference of Data Protection and Privacy Commissioners)にはApple、Facebook、Googleのトップが登壇し各々スピーチを行った。その内容はおおむね自社の企業活動と各国当局との協力を強調するものになった。アップルのCEOであるTim Cookはスピーチの中で次のように述べている。

They may say to you, "Our companies will never achieve technology's true potential if they are constrained with privacy regulation." But this notion isn't just wrong, it is destructive. (Tim Cook speech at ICDPPC 2018)

これらの企業トップの融和姿勢は巨大ITプラットフォーマー自身が自社が進める技術革新と日々世界的に拡大する経済的、社会的影響について取り組むことを真剣に検討していることを示している。

参考文献

・スコット・ギャロウェイ『GAFA』渡会圭子訳、東洋経済、2018
https://www.alphabet.com (accessed Oct. 22, 2018)
https://www.alphabet.com (accessed Oct. 22, 2018)
https://www.facebook.com (accessed Oct. 22, 2018)
https://www.apple.com (accessed Oct. 22, 2018)
https://data.worldbank.org (accessed Oct. 22, 2018)
https://www.cnet.com/news/netflix-should-not-win-oscars-steven-spielberg-says/ (accessed Oct.26,2018)
https://www.independent.co.uk/arts-entertainment/films/news/steven-spielberg-netflix-films-oscars-barred-tv-movies-ready-player-one-a8275811.html (accessed Oct. 26, 2018)
https://s22.q4cdn.com/959853165/files/docfinancials/annualreports/0001065280-18-000069.pdf (accessed Oct. 26,2018)
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https://www.nytimes.com/2018/07/18/technology/google-eu-android-fine.html (accessed Oct. 26,2018)
https://www.nytimes.com/2018/05/24/technology/europe-gdpr-privacy.html (accessed Oct. 26, 2018)
https://www.cnbc.com/2018/10/24/apples-tim-cook-warns-silicon-valley-it-would-be-destructive-to-block-strong-privacy-laws.html (accessed Oct. 28, 2018)
https://www.privacyconference2018.org/index.php/fr/mark-zuckerberg (accessed Oct. 26, 2018)
https://www.privacyconference2018.org/en/video-message-sundar-pichai-ceo-google (accessed Oct. 26, 2018)

著者プロフィール

吉川明日論(よしかわあすろん)
1956年生まれ。いくつかの仕事を経た後、1986年AMD(Advanced Micro Devices)日本支社入社。マーケティング、営業の仕事を経験。AMDでの経験は24年。その後も半導体業界で勤務したが、今年(2016年)還暦を迎え引退。現在はある大学に学士入学、人文科学の勉強にいそしむ。

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