今年の4大会で終了することが決定されている、空を駆けるモータースポーツ、レッドブル・エアレース。最終戦となる千葉大会を残してラスト2戦、ヨーロッパでは最後の開催となるバラトン湖(ハンガリー)での大会が7月13日、14日に開催された。アブダビの初戦から2大会連続優勝の快進撃を続けてきた室屋義秀選手は、バラトン湖大会の1回戦ラウンド・オブ14で敗退。年間ランキングを1位から3位に落とす結果となった。

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    レッドブル・エアレース 第3戦 バラトン湖大会 (撮影:大貫剛)

前回は予選の模様をお届けしたが、2回目の今回は本戦の模様をお届けする。

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  • 本戦開始前、メディアやファンに明るく応える室屋選手、ソンカ選手、ホール選手。「準地元」チェコのソンカ選手には最も多くの取材が集まった (撮影:大貫剛)

余裕の朝から急転、まさかの1回戦敗退

本戦日の朝、レースエアポートで室屋選手はリラックスした表情だった。昨日の予選は残念な結果だったものの、良いタイムを出せばマット・ホール選手と一緒にラウンド・オブ14を勝ち抜ける。予選1位のソンカ選手も決して楽な飛行ではなかったことなど、今大会での上位入賞を疑うような雰囲気はまるでない。むしろ、前大会で機体を破損し、修理が間に合ったものの予選最下位に終わった親友マティアス・ドルダラー選手(ドイツ)を気遣い、筆者に「ちょっと行って元気づけてきてよ」と話したほど、終始和やかだった。

レッドブル・エアレース2019 第3戦 本戦前の室屋選手へのインタビュー

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    前日の雨で主翼前縁の塗装が割れた室屋機。時速300kmでは雨粒も小石のような破壊力を持つという。段差をなくすため磨く作業が行われていた (撮影:大貫剛)

本戦1回戦のラウンド・オブ14で、室屋選手は3組目の先攻。室屋選手の飛行コースはそれまでの4人と明らかに違っていた。会場右手、コース東端では他の選手は宙返りのように折り返す「バーティカル・ターン・マニューバー」を選んだが、室屋選手はほとんど高さを変えない水平旋回を選んだ。逆にコース西端では他の選手が斜めの旋回を選んだのに対して、室屋選手はほぼ垂直のターンを選んだ。

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  • ラウンド・オブ14での室屋選手と、直前に飛行したマーフィー選手の比較。会場右手、東端では多くの選手が垂直ターンを選んだが、室屋選手は水平ターンを選択。この判断が勝敗を分けた (レッドブルエアレース公式動画より作成)

今日の作戦を「単純で、確実で、速い」と語っていた室屋選手の積極的なコース選定。これは相当速いのでは…とタイムを確認した筆者は、目を疑った。なんと、予選より2秒以上遅い1分1.016秒。ペナルティこそ受けなかったものの、むしろ実タイムでこの記録は衝撃的だ。先に飛んだ4選手の実タイムは58~59秒台で、1秒以上遅い。

後攻のホール選手は、丁寧に飛びさえすれば楽に勝てる状況となったが、ラウンド・オブ14の全選手中2位となる59.232秒の好記録であっさり勝ち抜いていった。室屋選手のタイムは1組目の敗者、ニコラス・イワノフ選手(フランス)をすでに下回っていたため、「最速の敗者」として敗者復活する可能性もない。1回戦のラウンド・オブ14で、早々の敗退が決定してしまった。

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  • 会場左手、西端では逆に、マーフィー選手は斜め、室屋選手は垂直のターン。強い北風(正面から手前)を意識したコース設定が裏目に (レッドブルエアレース公式動画より作成)

着陸後、何があったのかを問われた室屋選手は「北風に対応したコースを狙っていたが、スタート寸前に北西の風に変わってしまった」と説明した。東端での水平ターンは、強い北風に押し戻されることでタイムを縮めるのを狙った秘策だったが、完全に裏目に出てしまった形だ。室屋選手のコースを分析したホール選手は、逆にコース西端で南側へ旋回するコースを選択。以後、上位選手はこのコースをとるようになっていく。

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    ファイナル4でのホール選手の飛行。刻々と変わる風に対応するため、ホール選手も最後は室屋選手と同じ、水平ターンを選んでいた (撮影:大貫剛)

昨年千葉の覇者、ホール選手が優勝

決勝戦のファイナル4へ進出したのはピート・マクロード選手(カナダ)、ベン・マーフィー選手(イギリス)、マット・ホール選手、マルティン・ソンカ選手(チェコ)。中でも開催地ハンガリーに近いチェコのソンカ選手の人気は絶大で、ブダペスト開催の頃からソンカ応援団が大挙して詰め掛けている。ソンカ選手にとってバラトン湖は、ホーム大会だ。

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    会場一帯は湖水浴場になっているため、遊泳も自由。ソンカ選手応援団の中には、チェコ国旗の横断幕を持って水中から応援する人達も (撮影:大貫剛)

ハイレベルな戦いとなったファイナル4。マクロード選手とマーフィー選手はいずれも57.9秒台を記録したが1秒のペナルティを加算され、58.9秒台。ホール選手はペナルティなしで58.839秒という僅差で前に出た。飛行順が最後だったソンカ選手はパイロンヒットしてしまい、ペナルティ3秒加算後のタイムは1分2秒台で4位となったため、地元での表彰台は果たせなかった。そしてこの瞬間、バラトン湖の優勝トロフィーはホール選手のものとなった。

ホール選手の優勝は、昨年の千葉大会以来だ。2位には昨年から2シーズン目で自己最高順位となったマーフィー選手が入賞、3位はマクロード選手だ。

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  • 優勝したホール選手はオーストラリア空軍、2位のマーフィー選手はイギリス空軍出身で、元「ロイヤル・エアフォース」のパイロット。3位のマクロード選手は民間出身のカナダ人パイロットで、英連邦勢が表彰台を独占した (撮影:大貫剛)

首位から3位へ、室屋選手は千葉でチャンピオンに届くか

室屋選手が12位に終わったことで、年間ポイントは2点加算され55点になった。一方、年間ランキング2位だったソンカ選手は21点加算されて65点。同3位だったホール選手は25点加算されて61点となったため、室屋選手は年間ランキングを1位から3位に落とした。室屋選手が少なくともラウンド・オブ14を通過していれば、8位でも11点が得られたため、ソンカ選手とわずか1点差の2位になっていたことを考えると、あまりにも痛い初戦敗退だ。「チャンピオンに王手が掛かっている状況に変わりはないので、千葉へ向けて準備を進めるしかない」と語った室屋選手だが、千葉で室屋選手がチャンピオンになるのは容易ではない。

仮に、室屋選手が千葉戦で優勝した場合、25点が加算される80点。10点差で首位のソンカ選手が5位に終われば、加算は14点で合計79点となり室屋選手を下回る。ホール選手は4位の18点でも合計79点で室屋選手を下回るが、3位なら20点加算の81点で室屋選手を上回る。

正確には予選で最大3点が得られるためもう少し複雑だが、千葉戦で室屋選手が優勝してもソンカ選手とホール選手が上位に入れば、室屋選手はチャンピオンに手が届かない。両選手が失敗するのでなければ、室屋選手が直接対決して倒すしかないが、対決があるかは運次第。事実上、自力でのチャンピオン獲得はなくなったが、チャンピオンの可能性を残すには優勝を取りに行くしかない。

2戦連勝の首位で臨んだバラトン湖で、自力チャンピオン消滅というまさかの展開。しかし、昨年チャンピオンのソンカ選手の連覇、室屋選手と同期の親友であるホール選手にとって初の年間チャンピオンなど、さまざまな可能性が見えてきたのも事実だ。レース全体を見れば俄然面白くなったとも言える千葉大会、レッドブル・エアレース完全最終戦の開催は、9月7日、8日だ。

(次回に続く)