空を駆ける世界大会「レッドブル・エアレース」の2018年シーズン第1戦、アブダビ大会。昨年、初の年間チャンピオンに輝いた室屋義秀選手は2位に入賞し、2年連続チャンピオンの夢へまずまずのスタートを切った。

  • 左から2位の室屋義秀選手、1位のマイケル・グーリアン選手、3位のマルティン・ソンカ選手

    左から2位の室屋義秀選手、1位のマイケル・グーリアン選手、3位のマルティン・ソンカ選手。ただ、このあと機体整備のルール逸脱が判明したソンカ選手は4位へと繰り下げになったため、カービー・チャンブリス選手が3位に繰り上がった (C)大貫剛

優勝できなくても、下位にならないこと

  • 新シーズン開幕を迎えて、万全な準備状況を強調する室屋選手

    新シーズン開幕を迎えて、万全な準備状況を強調する室屋選手。いつもクールに話す室屋選手だが、この日は普段以上に余裕で自然体に見えた (C)大貫剛

前回記事で解説したように、昨年の室屋選手は8戦中4戦で優勝を果たしたものの、初戦のアブダビ大会と第6戦カザンで0ポイントとなり、優勝2回のマルティン・ソンカ選手(チェコ)と年間ランキングでは接戦になってしまった。逆に言えば、優勝はしなくても上位に入賞し続け、下位にならないことこそが年間チャンピオンへの近道。昨年2大会連続優勝した千葉大会のあと「全大会で優勝なんてできないですから、優勝できなくても上位入賞し続けることが課題」と話していた。

  • 昨年は前年チャンピオンとして「プレッシャーでミスを連発した」と振り返るドルダラー選手

    昨年は前年チャンピオンとして「プレッシャーでミスを連発した」と振り返るドルダラー選手。アブダビでは予選トップで復活かと思われたが… (C)大貫剛

本戦の組み合わせを決める予選タイムは53.404秒で3位だった室屋選手。トップのマティアス・ドルダラー選手(ドイツ)は52.795秒で、大半の選手が53~54秒台を記録したことから、勝敗ラインは53秒台と予想された。ドルダラー選手と同期で親友でもある室屋選手は記者会見で「ずいぶん速かったけど、シーズンオフの間に何をやったの?」とジョークを飛ばした。

  • 直前レポートで紹介した通り、冬の間は昨年の破損個所の完全修理に費やしたため、外見上はとくに変化のない室屋機

    直前レポートで紹介した通り、冬の間は昨年の破損個所の完全修理に費やしたため、外見上はとくに変化のない室屋機。しかしエンジンカウル内のクーリングなど、細部の改良は行っているようだ

  • 初登場、ベン・マーフィー選手(イギリス)の機体
  • 初登場、ベン・マーフィー選手(イギリス)の機体
  • 初登場、ベン・マーフィー選手(イギリス)の機体は英国国旗をモチーフに、艶消しダークブルーと艶ありレッドというシックな組み合わせが美しい (C)大貫剛

  • ニコラス・イワノフ選手(フランス)は練習飛行でパイロンの基部に主翼端を接触、胴体にまで歪みが生じるというトラブルに見舞われたため、急遽レッドブル所有の機体を借用した
  • ニコラス・イワノフ選手(フランス)は練習飛行でパイロンの基部に主翼端を接触、胴体にまで歪みが生じるというトラブルに見舞われたため、急遽レッドブル所有の機体を借用した
  • ニコラス・イワノフ選手(フランス)は練習飛行でパイロンの基部に主翼端を接触、胴体にまで歪みが生じるというトラブルに見舞われたため、急遽レッドブル所有の機体を借用した。もとは銀色無地塗装だったが、予選までにスポンサーのマーキングを施した (C)大貫剛

  • マット・ホール選手(オーストラリア)はカラフルなラインと、エンジン周りに汚れ風の印刷を施した面白いデザイン

    ここからはニューカラーの機体。マット・ホール選手(オーストラリア)はカラフルなラインと、エンジン周りに汚れ風の印刷を施した面白いデザイン (C)大貫剛

  • クリスチャン・ボルトン選手(チリ)の機体は昨年と同じ緑と黒の配色ながら、CGのような柄に変更された

    クリスチャン・ボルトン選手(チリ)の機体は昨年と同じ緑と黒の配色ながら、CGのような柄に変更された。飛んでいるのを遠くから見るだけではもったいない感じだ (C)大貫剛

  • ミカ・ブラジョー選手(フランス)の機体は錆色のデザインから、刀のようにギラギラのシルバーメタリックに一新

    ミカ・ブラジョー選手(フランス)の機体は錆色のデザインから、刀のようにギラギラのシルバーメタリックに一新 (C)大貫剛

  • チャレンジャークラス(2軍)はレッドブル所有の機体を使用するが、昨年までのエクストラ300に代わり、マスタークラスのほとんどのチームが使用するエッジ540を導入

    チャレンジャークラス(2軍)はレッドブル所有の機体を使用するが、昨年までのエクストラ300に代わり、マスタークラスのほとんどのチームが使用するエッジ540を導入。性能差が縮まった (C)大貫剛

ライバルとルーキーを破り、貫録の決勝進出

本戦前、室屋選手は「アブダビ大会は場所ではなく、初戦ならではの難しさがある。シーズンオフの間に取り組んだことがうまくいくか、飛んでみるまで分からない。無難に昨年のままの機体で出場すればリスクはないが、我々はチャレンジするチーム。(0ポイントだった)昨年の反省も踏まえ、良い状態にできた」と、機体性能の高さに自信を見せた。

予選で決定された本戦1回戦の「ラウンド・オブ14」で室屋選手と相対したのは昨年ランキング3位のピート・マクロード選手(カナダ)。しかしマクロード選手が宙返り時のオーバーGで失格してしまったため、室屋選手は難なく勝ち抜き。上位選手を0ポイントに抑えて幸先の良いスタート。

しかしここで、予選トップのドルダラー選手もまさかのオーバーGで敗退。2016年チャンピオンから2017年の不調を乗り越えるかに思われたドルダラー選手、厳しいスタートとなった。

  • 終始確実なフライトで安心して観戦できた室屋選手

    終始確実なフライトで安心して観戦できた室屋選手。タイムも安定し、昨年チャンピオンの風格を見せつけた (C)大貫剛

  • ホール選手は新カラーでの初戦を飾れず、ラウンド・オブ14で敗退

    ホール選手は新カラーでの初戦を飾れず、ラウンド・オブ14で敗退 (C)大貫剛

  • タイトな旋回でタイムを詰めたドルダラー選手は痛恨のオーバーGでラウンド・オブ14敗退した

    タイトな旋回でタイムを詰めたドルダラー選手は痛恨のオーバーGでラウンド・オブ14敗退した (C)大貫剛

  • 初出場のマーフィー選手はラウンド・オブ8で敗れるも、6位と大健闘

    初出場のマーフィー選手はラウンド・オブ8で敗れるも、6位と大健闘 (C)大貫剛

続く「ラウンド・オブ8」で室屋選手の対戦相手は今年初参戦のベン・マーフィー選手(イギリス)。ルーキーと言っても英空軍「レッドアローズ」のリーダーを務めただけあり、予選で54.351秒で9位だったため、昨年王者室屋選手も「結構速いですね、楽に勝てる相手じゃない」と話してはいたものの、約0.9秒の差をつけて貫録勝ちし、決勝戦「ファイナル4」に進出を決めた。

確実なポイント獲得へ、王者の余裕で2位入賞

「優勝しなくても上位に入り続ける」という目標通り、決勝戦まで勝ち進んだ室屋選手。ほかには昨年2回優勝し最後までチャンピオンを争ったマルティン・ソンカ選手(チェコ)、同じく2回優勝のカービー・チャンブリス選手(アメリカ)と、昨年の8大会で優勝経験のある3人の選手全員が決勝に進んだ。もう1人はベテランながら昨年9位のマイケル・グーリアン選手。

  • ファイナル4の一番手で飛んだグーリアン選手、いきなりの好タイムで勝負を決定づけた

    ファイナル4の一番手で飛んだグーリアン選手、いきなりの好タイムで勝負を決定づけた (C)大貫剛

ここで、一番手グーリアン選手は53.695秒という好タイム。気象条件の変化を感じていた室屋選手は「無理に1位を目指すより、確実に2位入賞することを狙って飛んだ」とのことで見事、53.985秒でソンカ選手とチャンブリス選手を抑え2位となった。

  • 最後のフライトになった室屋選手
  • 最後のフライトになった室屋選手
  • 最後のフライトになった室屋選手。無理に1位を取りにいかず確実に2位を狙う作戦が見事成功 (C)大貫剛

グーリアン選手は実に9年ぶりの優勝に満面の笑みを浮かべた。一方、優勝に固執せず上位に入り続けることで年間チャンピオン2連覇を狙う室屋選手にとって、昨年上位の選手全員を抑えての2位は、年間ポイントを考えると優勝に近い、大きな大きな2位だ。記者会見でも「2位は初めてなので、2位のトロフィーがコレクションに加わってうれしいよ」と、冗談を交えつつも大満足という表情を見せた。

  • UAE空軍のアクロバットチーム「アル・フルサン」がエアレースに華を添えた

    UAE空軍のアクロバットチーム「アル・フルサン」がエアレースに華を添えた (C)大貫剛

  • 優勝したグーリアン選手と握手を交わす室屋選手

    優勝したグーリアン選手と握手を交わす室屋選手 (C)大貫剛

  • グーリアン選手の優勝は9年ぶり。司会の「どうして9年もかかったの?」という質問に「知らないよ、僕が教えてほしいよ」と笑顔で答えた

    グーリアン選手の優勝は9年ぶり。司会の「どうして9年もかかったの?」という質問に「知らないよ、僕が教えてほしいよ」と笑顔で答えた (C)大貫剛

  • 惜しくも優勝は逃したものの「2位は初めてなんだ。トロフィーのコレクションが増えたよ」と余裕のジョークを飛ばす室屋選手。2018シーズンは笑顔でのスタートだ
  • 惜しくも優勝は逃したものの「2位は初めてなんだ。トロフィーのコレクションが増えたよ」と余裕のジョークを飛ばす室屋選手。2018シーズンは笑顔でのスタートだ
  • 惜しくも優勝は逃したものの「2位は初めてなんだ。トロフィーのコレクションが増えたよ」と余裕のジョークを飛ばす室屋選手。2018シーズンは笑顔でのスタートだ (C)大貫剛

続いて次回は、現地でのインタビューなど詳細なレポートをお送りする。