ロボット普及のキーポイントは、いかにティーチング作業を低減できるか

続いて、3品産業への展開についても事例が紹介された。河合研究主幹が関わったものとしては、個体差がある農水産物に対する加工作業の自動化として、ニッコーとの共同開発である「農水産物自動カッティング機」(画像16)が紹介された。鮭をベルトコンベアで流して、全体形状を計測して、例えば「100gの切り身」と入れたら、それを自動的に計算して、刃のついたロボットアームがカットするというものだ。

また、産総研の別部門の創薬分子プロファイリング研究センターにおける研究だが、安川電機と協力して、細胞分析の前工程処理の精密作業を自動化する双腕ロボットシステム「まほろ」(画像17)が開発され、すでに市場に投入済みだ。細胞分析の前工程処理は、何十種類ものプレートのところに、さまざまな条件を変えた薬剤などを投与するのだが、人でやっていると条件にバラつきが出てしまうため、それをロボットでやることで安定させるというのが狙いである。今後は、こういうところでもロボットが伸びていくだろうとしている。

画像16(左):農水産物自動カッティング機。 画像17(右):まほろ

そして、これらロボットの導入においてすべて関わってくるのが、ティーチング作業をいかに低減できるかということ。1つの解としては、環境情報を現場で取得して仮想環境として再現して、そうした中でロボットをどう動かすのかというのをオフラインで動かしてうまく動作を生成できたら、それをロボットに送ってやればいいという。部品の組み立て自動化においても、産総研製の技術では、1度仮想環境下でシミュレーションしてからそれを送るという方式が採られている。よって、シミュレーションが非情に重要になってくるという。

ポイントは、3次元のデータを以下に効率よく扱うか、というところ。いくら現場でデータを取得しても、現実世界と仮想世界ではどうしてもズレが生じるので、そのズレをどう解消するかということも重要だ(画像18)。実際、オフライン・ティーチングで模索して、現場での位置合わせを少なくするということは徐々にできるようになっていくだろうということだが、ちょっとしたズレをどう吸収するかというのが、課題になってくるだろうとしている。

その対策の1つとしては、川田工業では作業環境の方にマーカーをつけて、東部のカメラで観測してズレを吸収するようにしているという。また、そうしたマーカーなしでもやれるようにすることも、今後重要になってくるだろうとした。

画像18。現実の環境と仮想環境は、現在の技術ではどうしてもズレが生じてしまう

国を挙げて3Dプリンタの活用を模索

また、今や低価格機も販売され、個人での取得も増えている3Dプリンタについても取り上げた(画像19)。3Dプリンタはロボットに直接的には関係ないかも知れないが、3Dプリンタによるロボットのパーツ製作などもホビーの世界などでは盛んに行われているわけで、まったく無関係ということはない。ここで取り上げられたことからもわかるように、河合研究主幹も関係があると見ている。

画像19。3Dプリンタはものづくりに革命を起こすか?

海外では超大型の3Dプリンタを使って、数十時間をかけて壁とかも作ってしまおうなどというプロジェクトもあるそうだが、このままいくと製造業は3Dプリンタのみでこと足りてしまうのかというと、そうではない。もちろん、ものづくりの携帯を革新する可能性を秘めた技術であり、3度目のインターネット革命(インターネットそのもの、クラウド+スマートフォン、そしてデジタル+ネットワーク+ファブリケーション)でもあるとする。

こうした3Dプリンタについてはあらゆるところで散々語られているので、読者の方もよくわかっているかとは思うが、ともかく、ものづくりのロングテール化を生じさせ、大量生産から少量カスタマイズ生産へとシフトさせる力を持つ。が、3Dプリンタも万能ではないという点ももちろん忘れてはならない。強度計算などはしっかり行う必要はあるし、表面加工の問題は誰もが思うことだろう。特に個人でも購入できるような安価な機種はどうしたって表面加工の精度的な部分で限界がある(もっとも、時代が進めばさらに性能は上がっていくだろうが)。そのほかにも、コストの問題、時間の問題もある。

よって、長所・短所を理解してうまく活用すべきというわけで、試行段階や一品ものに使うというのが少なくとも当面は正しい使い方ということだろう。よって、ホビーロボットの世界を例にすると、ROBO-ONEなどの上位選手はビルダーごとにオリジナルの機体を所有しているわけだが、そうした機体に合うカバーなどをつけるということになると、3Dプリンタが有効というわけだ。

ただ、日本は3Dプリンタを活用するのに出遅れているところがあるそうで、それを挽回すべく、「新ものづくり研究会」が経産省 製造産業局・産業技術環境局の主催で行われていたりする。新しいものづくりの潮流を日本の企業がうまく活用して、高付加価値化、競争力強化に役立てようというわけだ。画像20は、新ものづくり研究会の第1回(2013年10月15日開催)で配布された、「3Dプリンタを初め新たなものづくりの潮流が生み出すインパクトはどのようなものか」ということをまとめたものだ。

画像20。3Dプリンタは何をもたらすのか(新ものづくり研究会の配付資料より抜粋)

先ほど、仮想環境でのオフライン・ティーチングが重要である話をしたが、3Dデータがあればものは作れてしまうというわけで、ただし造形まではできるが、その後の組み立てなどはあまりまだ考えられていない(属性が十分でない)。加工の短期化・効率化だけでなく、後段の「製造工程:組み立て、検査」、「製品利用」、「製品管理:メインテナンス、リサイクル」までを含めた製品全行程を考慮した「3Dデータ設計手法」や「3Dデータ共有化手法」の確率が必要というわけだ。現状、3D「造形」データなわけで、それを3D「造能」データへと変えていく必要があるとしている(画像21)。

現状の3Dプリンタの3Dデータの課題として具体的には、「組み立て工程が考慮されていない」、「分解性が考慮されていない」、「製品を利活用するための属性を含むデータ構造になっていない」、「全行程でデータを共有利用できない」などが挙げられた。今後は、それらの課題を解決したフルデータが求められるとし、産総研ではロボット開発といった立場からこの部部はどうあるべきかということを考慮し、「人が使用する」ということも考えてどうあるべきかというのを、単に造形データではない3Dデータというものに結びつけていく必要があるだろうとしている。

画像21。3D造形データを3D造能データにする必要がある

最後にまとめとして、FAロボットのさらなる発展として、これまでのことをまとめてみる。FAロボットの内、今後の伸びしろがある「次世代型産業用ロボット」、「食品産業」、「医薬品産業」を発展させるためには、「作業対象・環境の認識技術の確立」、「ティーチングの省力化・効率化技術の確立」、「3Dデジタルデータをフル活用できる枠組みの構築」が重要というわけだ。以上で、「産業用ロボットの新たな展開」は終了である。

以上、産総研 知能システム研究部門のロボット開発の責任者たちによって行われたオープンラボ2013での講演会「次世代ロボット研究開発動向」、長きにわたって連載させてもらったがいかがだっただろうか。

今回は、比留川博久研究部門長の総括に始まり、同・大場光太郎副研究部門長による「生活支援ロボット実用化プロジェクト」、同・サービスロボティクス研究グループの松本吉央(まつもと・よしお)研究グループ長による「ロボット介護機器導入・促進事業」、同・松本治総括研究主幹兼スマートモビリティ研究グループ長による「モビリティロボット実証事業」、同・横井一仁副研究部門長兼ヒューマノイド研究グループ長による「災害対応ロボット」、そして河合研究主幹による「産業用ロボットの新たな展開」をお届けした。

課題も多いが、可能性はあるということを感じてもらえたと思うし、決してさまざまな分野のロボットの研究・開発、実用化などで手をこまねいているわけではないのがわかってもらえたことと思う。日本は従来型のFAロボットは世界的に大きなシェアを持つが、サービスなどこれからの分野でもリードできるかどうかは、わからないのが現状だが、ぜひそうしたロボットも「技術を持っている」だけではなく、産業として、推計にあるように、しっかりと発展してもらいたいものである。日本人ならそれができると信じて、見守りたいし、今後も取材を重ねていきたい。