今回は旧ソ連製のオールドレンズを紹介していきましょう。時代は第二次世界大戦のころまでさかのぼります。
ドイツでCarl Zeiss(カールツァイス)社の工場を接収し、光学技術を手に入れた旧ソ連は、戦後になって数多くのいわゆるコピーレンズを製造してきました。レンズ性能は高く値段も安価と、現在も旧ソ連製のオールドレンズは中古レンズ市場で人気があります。
カール・ツァイス(コピー)のレンズたち
まず「Jupiter-9 85mm F2」は、Carl Zeiss Jena製のSonnar 8.5cm F2をベースに開発されたレンズです。1950年代~1990年代まで製造されました。筆者が15,000円で購入した個体は1961年製。経年劣化で黄変しており、レトロ感のある良い雰囲気で写ります。
中望遠域の85mmはポートレートに最適。町中のスナップショットでは、圧縮効果を生かすために見通しの良い1本道で撮影するといい感じです。
Jupiter-9と同様に「Jupiter-8 50mm F2」も、Sonnar 50mm F2のコピーレンズです。中古市場の相場はだいたい5,000円からと安価ながら、階調豊かでオールドレンズらしい温かみのある写真が撮れます。
個人的には、この小ささと軽さに一目惚れ。手持ちのミラーレスカメラでは、富士フイルム「X-M1」との組み合わせが気に入っています。
続いて「Industar-61 L/Z 50mm F2.8」は1972年に登場したレンズ。Carl Zeiss Jena Tessar 50mm F2.8と同じレンズ構成です。最短撮影距離は30cmと接写に強く、そのためテーブルフォトを撮りたい人にもオススメ。
そして何よりこのレンズ最大の特徴は、絞りバネの形状がF5.6~F8あたりで星型になることです。手前の被写体にピントを置き、背景の光源をボカすようなシチュエーションで撮影すると、六芒星の「星ボケ」が出現します。
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ロシア語で「工業製品」を意味するIndustarは、F5.6~F8あたりで絞りバネが星型に。なお、製造年や製造工場の違いによって、同じIndustar-61 L/Z 50mmでも星型にならない個体もあるので注意してください
「Helios 44-2 58mm F2」も、安価に購入できてオールドレンズ入門にオススメのレンズ。Carl Zeiss Jena Biotar 58mm F2のコピーとされています。条件がそろえば、背景が回転するような「ぐるぐるボケ」の写真を撮ることができます。
平和という名のレンズ
余談ですが、これは筆者がIndustar-61 L/Z 50mm F2.8をオークションサイトで7,000円にて購入したときの話です。レンズは、専用ケースらしき筒に入った状態で届きました。底面にはキリル文字のラベルが貼ってありますが、なんと書いてあるのか、まったく見当がつきません。
この原稿を書くにあたり、久しぶりにケースも引っ張り出して再確認。スマートフォンのGoogleレンズアプリで翻訳してみると、どうやら「フォトレンズMIR-1 2,8/37-A 価格65ルーブル」と書いてあることが分かりました。つまり別レンズのケースだったわけです。
最後に「Mir-1(ミール)37mm F2.8」は、Carl Zeiss Jena Flektogon 35mm F2.8のコピーレンズとされているもの。ミールとはロシア語で「平和」「世界」という意味です。いまこのタイミングでそれを知った筆者は、買わない選択肢はないと思って、オークションサイトで即落札しました。別の機会に写りを紹介できたらと思います。