内田洋行と国立大学法人宮城教育大学が、情報活用能力育成に向けた包括的事業連携協定を締結した。学習指導要領において、「基盤となる能力」と位置づけられている情報活用能力の育成や発揮に関する研究、教員養成段階にある学生および教員研修における学修環境の在り方を検討することになる。協定期間は、2024年3月31日まで。
明治5年以来の教室環境からGIGAスクールへ、教育人材育成は急務
宮城教育大学は、東北唯一の国立教員養成大学として、56年の歴史を持っており、2020年には、情報活用能力育成機構を設置し、情報活用能力に関して、教員養成段階での育成の在り方について研究することを目指している。
今回の協定を通じて、宮城教育大学は、教育ICT分野で長年の実績がある内田洋行の知見や、同社が持つ教育総合研究所における情報活用能力育成に関する研究成果を活用することで、東北地域における情報教育のさらなる推進につなげる狙いがある。
内田洋行の大久保昇社長は、「GIGAスクール構想の実現などにより、児童生徒に1人1台の端末環境が整備され、学校環境が大きく変化。ICTを活用した授業体制の構築が急務となっている。従来は年間100万台程度の整備であったが、2020年度は国費で650万台、それ以外で100万台のデバイスが教育分野に整備された。また、2021年4月からはじまる新しい学習指導要領のなかで、情報活用能力の育成は極めて重要なものになる。そのなかで、宮城教育大学が、情報活用能力育成を目的とした組織である情報活用能力育成機構を設置することは非常に意義深い。情報活用能力をつけていくことを促進するとともに、文部科学省による情報活用能力体系もいい意味で修正を加えることができるだろう。また、現在の黒板が見やすい教室の環境は、明治5年に制定されたものであり、現在求められる教育に向けて使いやすい環境にすることも考えるきっかけになるだろう。情報活用能力育成に焦点を当てた協定は今回が初めてである。宮城教育大学との共同研究を通じ、東北地域の教員養成、教員研修に貢献したい」と述べた。
また、宮城教育大学の村松隆学長は、「情報活用能力の育成、発揮にコミットすることは、宮城教育大学の使命のひとつ」とし、「教員養成や教員研修において、能力開発の達成度を数量的に自己評価し、不足を補い、新たな教育の道筋を作るには、それ相応の学習環境が必要になる。2022年度から教員組織や学生への指導体制の見直しが行われ、情報活用能力は、教科や分野を横断した形で育てるものになる。今後、情報活用は、プログラミングやデータサイエンス、AI などにアップデートされることになる。その領域において連携協定を結ぶことは意義深い。新しい教育を担う人材の育成につなげたい」と語った。
協定の成果は、宮城教育大学が実施している免許更新講習や公開講座、教職大学院などの現職の教員向け研修にも反映させるほか、教員養成段階や現職の教員にも還元していく考えを示した。また、研究成果を全国に還元し、日本全国の子供たちの学びの在り方を豊かにする考えを示している。
内田洋行の人員も研究員として学内へ派遣、商品開発へ反映も
今回の協定では、「情報活用能力の育成、発揮に関する研究」および「教員養成、教員研修における学修環境の在り方の検討」の2点から取り組むことになる。
「情報活用能力の育成、発揮に関する研究」では、文部科学省が公表した「情報活用能力の体系表」に示された資質や能力を育成するための手法を検討。同大学附属校などをフィールドとして、内田洋行が持つ商材(教材)を使用し、その効果の検証を行うことになる。研究にあたっては、客員研究員として、内田洋行教育総合研究所の人員の受け入れることになる。
なお、内田洋行教育総合研究所は、文部科学省の「次世代の教育情報化推進事業(情報教育の推進等に関する調査研究)」を受託し、情報活用能力の体系表の整備を進めてきた経緯がある。
宮城教育大学理事副学長兼情報活用能力育成機構長の前田順一氏は、「宮城教育大学は、付属幼稚園、小学校、中学校、特別支援学校という現場を持っており、実践を伴った形で、子どもたちへの情報活用能力の育成と、教育学部の学生に対する情報活用能力を育成でき、教科教育関係教員などで構成される情報教育研究推進室の20人の教員とともに研究を進めることになる。そこに情報活用能力の体系表を用いることができる」とし、「GIGAスクール時代に必要な情報活用能力とは何か、小1ギャップを起こさないために幼稚園段階で必要とされる情報活用能力とはどのようなものか、教師の経験や知識だけでなく、様々な教育データを活用した授業の改善の視点とともに研究する」と述べた。
今回の研究活動でも中核的役割を果たすことになる宮城教育大学の情報活用能力育成機構は、従来の情報処理センターから改組。学習の基盤である情報活用能力を育成できる教員を養成することを目的に活動を行っている。「新学習指導要領で一層重視された情報活用能力について、教員養成段階での育成の在り方について研究し、これからの未来に生きる子どもたちが情報活用能力を発揮できることを目指している」(同)という。
また、内田洋行の大久保社長は、「体系表に示された資質、能力を育成する手法を検討し、教員養成プログラムや教員研修プログラムに反映させたい」としたほか、情報活用能力育成に関する実証的なデータを得ることで、同社の商品開発にも反映させる考えだ。
2つめの「教員養成、教員研修における学修環境の在り方の検討」では、ひとつめのテーマとなる「情報活用能力の育成、発揮に関する研究」における検証を実施するほか、宮城教育大学の構内に「未来の学修空間」(仮称)を設置し、教員養成や教員研修における実証研究を実施。教員養成プログラムや教員研修プログラムの共同開発を行う。
宮城教育大学の前田副学長は、「コロナ禍での学びの在り方、GIGAスクール構想での学びの在り方など、時代からの要請も高まっており、新しい学びの環境を研究する必要がある。また、オンラインでの環境が充実すればするほど、対面での学びの空間はもっと豊かになるべきだ」とし、「これまでの学校環境は、対面でしかできないことを前提に、価値を最大限に引き出すことを追求したものである。昭和の教室設計や授業設計、机やいすなど什器の在り方など、過去の概念にとらわれたままではいけない。内田洋行が持つ多くの教材や什器を積極的に活用し、子供たちの新たな学びにつながるSociety5.0による環境を提案したい。子供たちに対しても、単にICTを活用するだけでなく、子供たちの情報活用能力の育成を意図した授業を行えるようにしたい」と語った。
また、内田洋行の大久保社長は、「研修プログラムなどを実現するテストベッドとして活用するために、内田洋行の商品やノウハウを提供していくことになる」とした。
教員養成と教育手法研究、ICT教育の焦点はモノからヒトへ
GIGAスクール構想によって、教育分野にはPCやタブレットの整備が一気に進み、情報活用能力を育成する場が整ったといえる。だが、その一方で、これを効果的な教育へとつなげるための環境づくりが急務になっている。この1年はデバイスの整備について焦点が当たっていたが、今後は、現場での運用フェーズに対して焦点が集まることになる。
また、情報活用能力は、特定の教科に依存するものではなく、教育全体の基盤と位置づけられる点も見逃せないだろう。そうした点からも、教員に対する教育や、新たな教育手法の研究が、より重要な意味を持つ。教育ICTに実績を持つ内田洋行と、国立教員養成大学である宮城教育大学の今回の協定の成果は、教育環境の底上げという意味でも、全国の教育機関から注目を集めることになりそうだ。