パナソニック ホールディングス 技術部門プロダクト解析センターは、顔画像を使った「脳の健康状態推定アプリ」を開発。企業や自治体での活用提案に加えて、新たに個人ユーザーを対象に、PC内蔵のカメラなどを使用して簡単に利用できる「クイックBHQドック」のサービスも開始した。

  • アプリで手軽に「脳の健康状態」が推定できるように

    アプリで手軽に「脳の健康状態」が推定できるように

MRI不要で手軽に測定、BHQの広がりに期待

脳の健康状態を測る指標であるBHQ(Brain Healthcare Quotient)に着目して開発したものであり、その結果をもとに行動変容を促し、ウェルビーイングの向上につなげるという。サンリオとの連携によって行った「Kawaii BHQ研究」による効果を実証したことも明らかにした。

  • パナソニックホールディングス社内で行った「Kawaii BHQ研究」の実証実験の様子

    パナソニックホールディングス社内で行った「Kawaii BHQ研究」の実証実験の様子

パナソニック ホールディングス 技術部門プロダクト解析センターでは、「推定BHQ計測」を企業の健康経営をサポートするためのツールのひとつとして提案。導入した企業の社員が、BHQ値の改善によって、ウェルビーイングを向上できるようにする考えだ。

BHQは、一般社団法人ブレインインパクトの山川義徳氏が、内閣府の革新的研究開発推進プログラム「ImPACT」を通じて開発した指標で、脳の健康状態を数値で示すことができるのが特徴だ。脳のボリュームと、脳の神経繊維の状況を解析して導き出すことができる。2018年には、ITU-Tにより国際標準化されており、この領域では、唯一、基準化された指標になるという。

  • BHQは脳の健康状態を数値で示すことができる国際標準化された指標だ

    BHQは脳の健康状態を数値で示すことができる国際標準化された指標だ

BHQは、年齢に応じて低下する傾向があり、20歳から1年ごとに0.5ポイント低下するという。50歳の値を100としており、そこから自分の年齢の基準値を算定できる。研究においては、50歳でも、30歳と同等の脳健康を維持している人がいるこがわかっている。

好奇心を持ち、意欲旺盛で、人と共感できる人はBHQ値が高い一方で、ストレスがあり、疲れが溜まっている人、太りすぎの人、休日にゴロゴロしている人はBHQ値が低い傾向があるという。また、生活習慣を見直すことで、脳健康の維持や向上につなげられることも明らかになっているという。

  • 日本においては、高齢化と社会保障費増大の課題から、健康寿命の延伸が求められている

    日本においては、高齢化と社会保障費増大の課題から、健康寿命の延伸が求められている

BHQの計測には、脳のMRI画像を解析して算出する必要があったが、パナソニックホールディングスでは、カメラの前に立ち、表情を計測するだけで、簡単にBHQを推定できる方法を確立した。

パナソニック ホールディングス 技術部門プロダクト解析センター新規事業開発室の難波 嘉彦室長は、「BHQは、脳の健康状態を知ることができる指標されているのにも関わらず、MRIによる計測が必要なため、広がりには限界があった。MRIは、脳に病気がある場合以外には使用しないのが実態である。パナソニックグループが10年以上取り組んできた表情解析技術によって、MRIによって、算出できるBHQ値を予測することができるようにした」という。

  • パナソニック ホールディングス 技術部門プロダクト解析センター新規事業開発室の難波 嘉彦室長

    パナソニック ホールディングス 技術部門プロダクト解析センター新規事業開発室の難波 嘉彦室長

  • BHQの計測方法

    BHQの計測方法

カメラに向かって、「楽しい」、「怒る」、「悲しい」、「驚き」の4種類の表情を、指示に従って、瞬時に行い、5秒間維持。400カ所のポイントを判断して、BHQを計測する。

脳の灰白質と呼ばれる領域の「神経細胞」の健康状態を指標化したGM-BHQと、脳の白質と呼ばれる領域における「神経線維」の健康状態を指標化したFA-BHQの2種類を組み合わせて、脳の健康状態を指標化している。

「計測器は、スタンドタイプのほかに、座ったまま計測できるデスクタイプも用意。さらに、PCの内蔵カメラやスマホを利用して計測するWebタイプもある。表情を計測するだけで、気軽に、短時間にBHQ値を出すことができる。MRIでは一回の検査に3~4万円程度の費用がかかるが、それが不要になる。利用者のニーズにあわせて、毎日計測したり、1週間に一度計測したりといったことが可能になり、BHQの変化を捉え、対策を行うことができる」という。

計測では、脳年齢を算出。自分の年齢との差を知ることができる。また、脳全体の健康状態に加えて、適切な行動を選択することができる「認知制御」、他者を理解する「社会性」、周囲の状況変化を察知する「モニタリング」の3つの「脳力」を知ることができる。

  • 計測時画面のイメージ

    計測時画面のイメージ

  • 脳の健康状態や、「脳力」を知ることができる

  • スタンドタイプやPC一体型タイプ、スマホでも計測できるWebタイプもある

    スタンドタイプやPC一体型タイプ、スマホでも計測できるWebタイプもある

さらに、計測したBHQの指標をもとに、行動変容を促す提案も行う。

一般社団法人ブレインインパクトでは、楽しく無理なく、脳を健康にする18の行動指針を示しており、それに則り、個人の測定結果に応じたリコメンドを行う。

BHQ値を高め、「脳全体」を良くしたいときは、ウォーキングや水泳、ゴルフなどの運動を提案。認知制御領域を高めたいときには、勉強やアート・芸術、音楽などの「学習」、社会性領域を高める際には、会話や談笑、ボランティア、異文化交流などの「社会生活」を提案。そして、モニタリング領域をあげたいときには、住環境の改善や、自然および動物との触れないなどの「環境」を提案する。

「日本では、高齢化社会が進展するなかで、健康寿命の延伸が求められており、身体の健康とともに、心の健康が重要になっている。パナソニックグループの使命は、『物と心がともに豊かな理想の社会の実現』であり、その取り組みのひとつとして、脳の健康を推し量るBHQに着目している。個人の結果に応じたリコメンドによって、プライベートの時間や、仕事の時間でも、BHQ値を改善できる活動を16パターンで提案している」という。

パナソニックホールディングスでは、BHQ値を手軽に計測できるようにすることで、脳の健康に対する関心を高め、それをもとに、行動変容を促しながら、BHQ値を改善するサービスの提供につなげるほか、BHQ値の計測を習慣化し、健康改善につなげる循環を確立し、企業の健康経営をサポートする考えだ。

試験導入した企業では、自己認識と計測結果を比較して、そのギャップを確認。健康管理室の医師と連動しながら、ケアが必要な社員の早期発見につなげるといった取り組みを行ったという。また、社員の主観的な回答に委ねられることが多いストレスチェックの結果に、BHQ値を組み合わせることで、実態をより正確に把握することも可能になるという。ある企業では、女性管理職は高いエンゲージメントスコアが出ていたが、BHQ値では不健康と判断する指標が出ており、女性管理職を対象としたケア施策に取り組んだという。

「BHQ値の改善は、社員のウェルビーイングの向上に直結する。論文によると、5段階評定でウェルビーイングが1ポイント上昇すると、年間利益は20~30億円増加し、ROA(総資産利益率)は1.7ポイント増加。Qレシオ(実質株価純資産倍率)は0.15対数ポイント増加するという結果が出ている。企業や自治体、高齢者施設での採用のほか、家電などにも活用して、脳の健康に良いウェルネス商品の投入につなげたい」としている。

すでに、いくつかの採用事例がある。

愛媛県松前町では、住民の健康診断への参加率が20%前後であったことから、その解決策のひとつとして、2023年9月と、2024年5月に、推定BHQ計測を実施。フレイルチェックへの参加者が、2023年度は2.7倍に増加したほか、2024年度には、そこからさらに1.4倍増加。脳の健康状態計測をきっかけとした行動変容を促すことができたという。

  • 愛媛県松前町の事例

    愛媛県松前町の事例

また、福島県楢葉町では、2023年9月に、集団健診において、約300人が、推定BHQ計測を体験。資料館や道の駅、温泉のほか、特産物を提供する地場パートナーとの連携によって、脳に良いアクションにつなげる活動を行った。「BHQ値が高い人は、、地元の施設をよく活用している人が多いこともわかった。レコメンドされた内容を、生活に取り入れることで、BHQ値が上昇することを提案した」という。

  • 福島県楢葉町の事例

    福島県楢葉町の事例

さらに、セントラルスポーツでは、2023年6月に、運動習慣と脳の健康状態の関連性を調査するとともに、データに基づいたフィットネスの提案を行ったという。

  • セントラルスポーツの事例

    セントラルスポーツの事例

サンリオと「Kawaii(かわいい) BHQ研究」

興味深い取り組みのひとつが、サンリオと連携した「Kawaii(かわいい) BHQ研究」である。

  • サンリオと連携した「Kawaii BHQ研究」研究。Kawaii(かわいい)が脳を健康にする?

    サンリオと連携した「Kawaii BHQ研究」研究。Kawaii(かわいい)が脳を健康にする?

パナソニックホールディングス社内で行った実証実験では、男性、知識労働、高収入、高齢者という「かわいい」に対する感受性が低い人たちが多い職場を対象に、サンリオのキャラクターによる「かわいい」グッズを周りに置き、1週間に渡り、仕事を行い、朝夕にBHQ値を測定したという。対象となったのは22人で、PCの周りにグッズを置いたり、なかにはカチューシャをつけて仕事をしたりする男性社員もいたという。

その結果、従来の職場でのBHQ値は、月曜日はあまり脳が良い状態ではなかったが、定時退社日の水曜日に向けて上昇。金曜日にはやや低下するという傾向があったのに対して、かわいいグッズを配置して仕事を行ったところ、月曜日からBHQ値が高まり、1週間に渡り、高い水準でBHQ値が維持されたという。

「かわいいものを周りに置くことで、Kawaii感受性が高まり、生産性が高まる傾向がみられた」という。

  • 研究では、Kawaiiモノを職場に置いて効果を検証

    研究では、Kawaiiモノを職場に置いて効果を検証

  • 結果、憂鬱な月曜日含め、BHQスコアが軒並み高水準に

    結果、憂鬱な月曜日含め、BHQスコアが軒並み高水準に

  • 生産性が高まるなど仕事のパフォーマンスアップにも影響

    生産性が高まるなど仕事のパフォーマンスアップにも影響

パナソニックホールディングス技術部門は、10~30年先を見据えた技術開発を行う部門であり、同時に全社共通基盤となる技術開発も進めている。そのなかで、プロダクト解析センターは、解析および評価技術において、すべての事業会社を横断的にサポートする役割を担っている。また、技術部門において、唯一のプロフィットセンターとなっている点も特徴だ。

「プロダクト解析センターは、人間工学、科学・物理、電気、バイオ、機械と幅広い領域を担当しており、その8~9割は、事業会社向けの技術開発となる。だが、残りは社会貢献として、社外に展開している。そのひとつがBHQになる」とする。

プロダクト解析センターでは、協業先とともに、企業やサービス事業者、自治体などに対して、「脳の健康状態推定アプリ」の販売を行っている。また、協業先では個人ユーザーを対象にした「個人向けクイックBHQドック」を開発。年間6600円で、サービス提供することを発表した。有効期間内は無制限に利用できる。また、2人で利用できるペア割は1万1000円、家族で利用できるファミリー割は1万9800円で提供。ペア割やファミリー割は、個人ごとにデータを管理でき、BHQ値の推移を記録できる。

パナソニックグループでは、1万人の人員削減を含む、グループ経営改革に取り組んでおり、本社本部改革として、技術部門における技術テーマの選択と集中を行うことを明らかにしている。

推定BHQ計測は、企業の健康経営をサポートしたり、社員のウェルビーイングの向上につなげたりといった提案のほか、パナソニックグループで商品化している調理家電や、理美容製品などに活用することで、商品の付加価値として利用することも想定している。収益を得られるテーマとして、継続的に研究開発が行われることになりそうだ。