パナソニック ホールディングスは、2025年6月23日午前10時から、大阪・OBPのホテルニューオータニ大阪で、第118回定時株主総会を開催した。629人の株主が参加。ライブ中継では876人が視聴した。
「今後の取り組み」として、同社の事業戦略について説明したパナソニックホールディングスの楠見雄規グループCEOは、パナソニックグループの事業を、ソリューション領域、デバイス領域、スマートライフ領域の3つに区分し、そのなかで、ソリューション領域に注力する姿勢を改めて強調した。
成長の柱にエネルギーとサプライチェーンマネジメント
「ソリューション領域の事業群は、グローバルで競争力を持ち、トップシェアを持つ事業が数多く存在している。これまで育ててきた強い事業を基軸に、多様なお客様との接点をつなぎ、グループ全体でシナジーを出しながら成長させていくことになる。なかでも、エネルギーソリューションとサプライチェーンマネジメントソリューションで大きく成長を果たしていくことになる。それぞれのソリューションでは共通のお客様に対して、包括的に対応することで、シナジーの創出や事業の枠を超えたデータの利活用により、継続的な価値提供を目指す」と述べた。
エネルギーソリューションの事例として、データセンター向け蓄電ソリューションと、純水素燃料電池と太陽光発電パネル、蓄電池をAIで制御するPanasonic HXを紹介した。
データセンター向け蓄電ソリューションでは、米大手IT企業のデータセンターに10年間に渡り、サーバー用蓄電システムを提供してきた実績があり、現在は生成AIのデータセンター向け需要が拡大するという追い風もあり、ビジネスが拡大しているという。また、Panasonic HXは、100%再生可能エネルギーで賄うRE100を実現するソリューションであり、グローバル展開を開始しているところが。パナソニックグループでの活用だけでなく、社外への導入が決定したことも明らかにした。
また、サプライチェーンマネジメントソリューションでは、BlueYonderが、2025年5月に発表したコグニティブソリューションに大きな反響があることを報告。時々刻々と変化するサプライチェーン上の課題や混乱を、AIエージェントが自律的に課題解決を図ることができるようになることを示した。コグニティブソリューションは、製造、物流、流通の供給網をつなぎ、計画から実行までを生成AIが最大効率の解決策を提案するもので、「業界内でも大きな注目を集めている。今後のBlueYonderの飛躍に期待して欲しい」と、今後の成長に自信をみせた。
大規模人員削減、「忸怩たる思い」
パナソニックグループでは、2025年2月に、グループ経営改革を発表し、5月には1万人の人員削減を発表している。これらの施策にまで踏み出さざるを得なかった要因は、2024年度を最終年度とする中期戦略で掲げた累積営業利益と株主資本利益率の目標が、大幅な未達になったこと、成長投資領域とした3つの事業が目標の収益を達成できなかったことにある。
「中期戦略がこのような結果になったこと、株主から預かった資本で十分な収益を生み出せなかった点は、大変重く受け止めている。これだけの規模の人員適正化におよばざるを得ないことについては、私自身、忸怩たる思いである。」とし、「この30年間、実質的な成長ができていない。10年前から抜本的な経営改革を行った競合他社との差が開いていることは、グループCEOに就任した当時から大きな危機感を持っていた。利益率が5%に近づくと、業務の生産性向上を伴わないまま、販売成長を狙って経営資源を拡充することで、再び利益が下がる。そのたびに経営改革を繰り返すという構造的な課題があった。このようなサイクルを絶たないままで、次の世代に引き継ぐことは課題の先送りになる。私の代で、この状況を変えなければならない」と宣言。「今回のグループ経営改革は、会社の構造を大きく作り替えるものであり、30年間の停滞から脱却する第一歩である。すべての部門で生産性向上のための変革が常態化するようにグループを作り替えて、次の世代に引き継ぎ、その上に新たな時代を見据えた改革を重ねられるようにすることが、私が果たすべき責任である」と述べた。
また、経営改革の五原則を定め、それに則って、改革を推進する考えも示した。
その一方で、楠見グループCEOは、「株価が低迷したままであるということは、経営改革をやり切ることができるのかという懸念があること、改革後になにをもって成長するのかが世間に示せていないことが要因であると受け止めている。2026年度からスタートする中期戦略は、注力するソリューション領域の戦略の解像度をあげて伝えていく」とした。
株主からは、創業者である松下幸之助氏が、世界的不況の際にも従業員を1人も解雇しなかったことを指摘する声が出ていたが、「30年間に渡って営業利益が低いということは、株主還元においても、将来に向けた投資においても劣後していることにほかならない。このままでは成長に転じることはできない。いまの状況から脱することが急務である。断腸の思いで、適正化をやらざるを得ないと判断した。いまここで改革を行わなければ、10年後、20年後に渡って、会社を持続的に成長させることは不可能である。創業者のエピソードも重い意味を持っている。だが、創業者の時代とは事業環境が大きく異なる。当時は、その先に経済成長という大きな期待があったが、いまは成長が見込める領域、そうでない領域、他の地域に活路を見いださなければならない領域など、はるかに複雑である。将来を見据えた人員適正化は避けては通れないと判断した」と回答した。
また、「30年間に渡って上意下達の文化が浸透し、その結果、決められた仕事のプロセスや、決まった仕事のやり方に従い、それをやることが仕事であるという考え方が非常に多く残っている。なかには、創業者の時代に導入されたものだから変えられないという意識になっていたこともある」と指摘し、その部分にメスを入れる姿勢を示した。
2025年度中に課題事業を抜本改革
課題事業については、2025年度中に方向づけを行うことを強調。産業デバイス事業、メカトロニクス事業、キッチンアプライアンス事業、テレビ事業が対象となり、これらの事業は不採算の商品や地域からの撤退や、売却を含む抜本的な対策で収益改善を図るとした。また、再建事業/事業立地見極め事業として、家電事業、空質空調事業、ハウジングソリューション事業をあげ、事業全体の再建の可否を見極めて、再建が見通せない場合には撤退や事業承継の方向付けを加速すると位置づけた。
家電事業の再建についても説明した。
楠見グループCEOは、「中国で磨いてきた技術力、設計力を生かして、日本で求められる品質を、世界で戦えるグローバル標準コストで実現し、収益力を高める。そのために、事業構造と体制を抜本的に見直す。グループに分散する白物、黒物の家電事業を集約して、家電市場に集中して向き合うことができるひとつの事業会社(スマートライフ社)にする。くた、開発部門をスリム化し、量産品の開発を中国へ移管し、それに伴う国内体制の適正化を進めることになる。国内外のマーケティング部門も体制を見直す。拠点集約も含めた構造改革を進める」とコメント。「家電は、一般消費者にパナソニックを知ってもらい、商品を通じたお役立ちをするという点でも重要な事業である。なにがなんでも生まれ変わらせ、しっかりと継続していく」との姿勢を示した。
また、パナソニックの品田正弘社長は、「家電事業は、お客様の暮らしに寄り添い続けることができ、やりがいのある事業である。政府が備蓄米を放出するのにあわせて、古古米をおいしく食べることができる機能を搭載した炊飯器が売れ筋モデルとなっている。このように、家電事業は世の中の変化に対して、お客様に寄り添い、喜んでもらえることが大切である。パナソニックは、日本のお客様のことを知り尽くしており、ノウハウも蓄積している。中国メーカーにはない知見も持つ。商品、サービスに生かして、家電事業をしっかりと推進していく」と語った。
一方、パナソニックグループが、EV事業に直接参入する可能性についても質問があり、楠見グループCEOは、「クルマは、乗り心地やハンドリングなども作り上げる必要がある。私たちにはその能力がない。カーメーカーに、私たちの強みを認めてもらうところで協力することになる。パナソニックオートモーティブシステムズをカーブアウトしたのも、大規模な投資や効率性を高めるには、パナソニックグループよりも、自動車業界に明るい企業のもとで成長を果たしたほうがいいと考えたことが理由である」とし、「パナソニックグループで、EVを作ることは考えていない」と断言した。
なお、パナソニック インダストリーが、2024年1月に公表した電子材料製品のUL Solutionsの認証登録における不正行為については、株主の質問に答える形で、外部調査委員会による調査結果をもとにした改善への取り組みを行っていることなどを報告。楠見グループCEOは、「この品質不正はパナソニックらしくないものであり、株主にも心配をかけた。申し訳ない。グループ全体で再発しないように取り組んでいる」と回答した。