ソニーグループは、プレイステーション事業を担当するゲーム&ネットワークサービス(G&NS)分野の事業戦略について説明した。
ソニー・インタラクティブエンタテインメント 社長 CEOの西野秀明氏は、プレイステーション5は、2020年11月の発売から5年目に入り、累計売上高が1360億ドル、累計営業利益が1300億ドルに達し、歴代プレイステーションを超え、過去最大の実績になっていることを報告。「プレイステーションは、過去30年間に渡ってゲーム業界をリードしてきた。常に革新を追求し、多様なコンテンツの創出を支援している。今後もプレイステーションのコミュニティに向けて、より素晴らしい体験を届け、新たな顧客を開拓し、遊びの限界を押し広げていく」と宣言した。
ソニーグループの第5次中期経営計画では、「境界を超える~グループ全体のシナジー最大化~」をテーマ掲げているが、G&NSでは、これを事業ドメインに特徴を捉えながら、「CONSOLE & BEYOND~コンソール、そしてコンソールの枠を越えて~」をテーマとしていることに言及。「プレイステーションプラットフォームと、プレイステーションスタジオの強みを生かして、ブランドのリーチ、オーディエンスの拡大、プレーヤーやクリエイターに提供する価値の拡大に取り組んでいる。私たちの役割は、体験による感動を共有するために、ゲームプレーヤーとゲームクリエイターをつなぐことである。より多くのプレーヤーに遊んでもらえれば、より多くのクリエイターをプレイステーションにひきつけることができ、さらにプレーヤーを呼び込むことにつながる、このポジティブスパイラルによって成長していく。プレイステーションは、コンソールの現行世代でリーディングポジションを築いており、さらなる戦略的な投資と、収益性の向上を推進し、この勢いをこれまで以上に加速する」と述べた。
現在、月間1億2400万アカウントのユーザーに対して、1万2000を超えるタイトルを提供。4000以上のクリエイターが参加していることを示した。
プレイステーションビジネスを、2つの事業領域から説明した。
プラットフォーム事業はかつてない好調、ゆるぎない基盤へ
ひとつめは、プラットフォーム事業である。西野社長CEOは、「プレーヤーエンゲージメントが向上し、ゲームプレイ時間も過去最高を記録し、プラットフォーム事業はかつてないほど好調である」と切り出す。
プレイステーションコンソールは、自社および他社コンテンツやサブスクリプションサービス、周辺機器を楽しむための入口になると定義。「プレイステーション5は、あらゆる人にコンテンツを楽しんでもらえるようになっており、プレーヤー数は増加しつづけている。また、プレイステーション4でもサービスを継続しており、コンテンツとサービスは安定的な売上げを計上している。現在、売上げの3分の2をコンテンツおよびサービスが占めている」とした。内訳はコンテンツの構成比が54%、サービスの構成比は14%となっている。
コンテンツを支えるPlayStation Storeでは、ライブサービスゲームや、主要フランチャイズからリリースされるゲームで、売上げの約半分を構成。残りは様々なクリエイターによる数多くのタイトルによるものだという。
また、サービスを支えるPlayStation Plusは、継続的な収益を生むサブスクリプションによって売上げを計上。「多くの加入者が上位プランを選んでいる。PREMIUMおよびEXTRAの加入率は、全体の38%を占めている。これは2023年に実施した世界的な値上げと、為替変動による一部地域での価格引き上げを実施したあとの実績である」とした。今後の価格改定については、「サービスを通じて提供する価値が向上し、機能強化にも取り組み、投資も続けている。価値を高め続け、価格戦略を状況に応じて調整することで、収益性の向上を推進する」とし、中長期的な値上げの可能性については否定しなかった。
また、周辺機器では、プレーヤーに新たなゲーム体験を提供していることを強調。とくに、PlayStation Portalリモートプレーヤーについては、「これは、より自由なゲームの楽しみ方を提供するための戦略の一環として開発したものである。重視したのは、携帯型ゲームであっても、コンソールさながらのプレイステーション体験を提供することであった。高画質でプレイできることにもこだわった。その結果、利用者のプレイ時間は30%高まり、夜間のプレイ時間が増加するという結果も出ている。新たなエンゲージメントを生み出している」と自己評価した。
また、誕生30周年を記念し、初代コンソールのデザインを反映したプレイステーション5と周辺機器は、当時を懐かしむファンから、大きな反響を得たことも報告した。
さらに、「プラットフォーム事業を成長させる基盤は、業務効率の最適化にある」と位置づけ、「それぞれの国や地域の需要を満たすため、サプライチェーンを世界各地で戦略的に配置し、管理している。コンテンツ配信の領域にも引き続き投資を行い、コンテンツの見つけやすさや価格の最適化、パーソナライゼーションでも強化を図る。プレーヤーとクリエイターに提供する優れたサービスは、プラットフォーム事業の重要な強みのひとつであり、私たちは、最高の遊び場と、最高の出版の場を提供することにコミットする。これが、エコシステムの健全性を支えるための中核といえる取り組みになる」とした。
その上で、西野社長CEOは、「今後も、コンテンツ、サービス、周辺機器の収益化を推進し、過去最高水準となっているエンゲージメントを、さらに加速させていく。コンテンツとサービスからの収益はさらに増加していくことになる」と、継続的な事業成長に意欲をみせた。
プレイステーションスタジオ事業の今後、新規IP投資に積極姿勢
もうひとつは、プレイステーションスタジオ事業である。
ソニー・インタラクティブエンタテインメント スタジオビジネスグループ CEOのハーマン・ハルスト氏は、「シングルプレーヤーゲームでのリーダーシップの強化」、「ライブサービスの開発、運営能力の向上」、「フランチャイズの強力なIPへの発展」の3つの柱で、プレイステーションスタジオ事業に取り組んでいることを示した。
シングルプレーヤーゲームでは、毎年のリリースを通じて安定した収益基盤を形成。2024年秋に発売した「アストロボット」は世界的なヒットを記録したほか、2025年度は、「DEATH STRANDING 2:ON THE BEACH」、「Ghost of Yōtei」に続き、「Intergalactic: The Heretic Prophet」や「Marvel's Wolverine」のリリースが予定されていることを紹介した。
また、ライブサービスでは、「MLB The Show」シリーズや、「Destiny 2」、「HELLDIVERS 2」が、継続的なプレーヤーコミュニティを形成。とくに、「Destiny 2」はPCプレーヤーを中心に人気を博していることを強調した。売上げの半分以上をアイテム課金が占めている点も収益に貢献しているという。今後は、脱出シューターというジャンルに新たな風を吹き込む「Marathon」の投入を予定しており、ユーザーテストの結果を反映しながら、完成度を高めているところだという。
ここでは、「Concord」が、競争が激しいジャンルにおいて、十分なオリジナルティが発揮できず、差別化できなかったことを反省。「同じ過ちを繰り返さないために、厳格なプロセスを導入した」という。
引き続き、ライブサービスタイトルのポートフォリオの構築に注力する考えを示している。
さらに、フランチャイズに関しては、ファンに支持される環境を実現していることをアピール。総プレイ時間が、いずれのフランチャイズでも累計20億時間を超えているとした。また、新規IPへの投資を積極化することで、新たなフランチャイズに発展させる活動を積極化させる方針も示した。
加えて、フランチャイズでは、ゲームの枠を超えた取り組みも強化。映画やテレビなどへの展開のほか、グッズ販売を含めた新たな事業領域への展開などによって、これまで以上に幅広い層への訴求を可能にし、フランチャイズの継続的な価値向上につげているという。
フランチャイズの代表的作品のひとつにあげたのが、「THE LAST OF US」であり、シーズン2の初回放送が想定を超える高い視聴率を獲得。シーズン3の制作も決定しているという。
ハルスト氏は、「シングルプレーヤーゲームにおいては、クリエイティブリーダーシップを強化し、独創的なゲーム体験を提供する。また、多様なライブサービスタイトルのラインアップにより、ビジネスモデルの拡大とともに、制作、運営能力の強化を推進。引き続き、ライブサービスの体制を強化していくことになる。また、既存のフランチャイズの拡大と新たなIPを活用し、ゲームの枠を超えた新たな成長領域の開拓に取り組む。適切で、綿密な発売サイクルを実行することで、長期視点でフランチャイズを形成することができ、さらに、コンソール以外への展開は、効果を測定をしながら戦略的に実行している」とした。
さらにハルスト氏は、「3つの領域において、効率的で確実な開発、配信プロセスの進行に注力する。各スタジオは、それぞれが強みとするカテゴリーにおいて、革新的なコンテンツをプレーヤーに提供し続けるとともに、ポートフォリオの改良と成長を常に推進していくことになる」とも述べた。
また、ハルスト氏は、「スタジオ事業では、開発とテストのフレームワークにより、すべてのタイトルの進捗状況を管理しており、計画通りにリリースできるように取り組んでいる。さらに、グローバルな自社スタジオネットワークと、外部の開発委託パートナー、それらを支えるサービス部門やサポート体制を通じて、バランスが取れた事業基盤を構築している。これにより、プレーヤーの期待を上回るゲームを提供しつづけることができる」と自信をみせた。
次世代機は? 近い将来、コンソールは不要になるのか?
今後の事業方針について西野社長 CEOは、「プレイステーションは、今後もユーザー層の拡大、エンゲージメントの強化、ゲーム体験の向上に投資を続けていく」とした上で、「プレーヤーが、コンテンツやサービスにアクセスするための新たな方法を常に模索しており、2024年11月に発表したPlayStation Portalリモートプレーヤーのストリーミングゲームのβ版では、プレイステーション5本体を経由することなく、サーバーから直接ゲームを楽しむことができるようにした。また、主要なフランチャイズをPCに展開し、より多くのプレーヤーに遊びの場を提供している。常にプレーヤーの行動を理解し、適切なサービスを提供することを重視している」とコメント。加えて、「事業全体の効率化を推進するためにクラウドやAIなどの主要なテクノロジー分野にも戦略的に投資をしている。プレイステーションでの体験を進化させるために必要な投資は継続していく」と述べた。
さらに、ソニーグループとの協業については、「これが、他社と一線を画す重要な強みになる」と前置きし、「連携した戦略投資も行っており、PlayStation Networkでの決済、データインフラ、セキュリティなどのコアバックエンド機能を活用し、ソニーグループのエンゲージメントプラットフォームを構築している」と語った。
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「プレイステーションは、今後もユーザー層の拡大、エンゲージメントの強化、ゲーム体験の向上に投資を続けていく」とし、主要なフランチャイズをPCに展開し、より多くのプレーヤーに遊びの場を提供していることや、事業全体の効率化を推進するためにクラウドやAIなどの主要なテクノロジー分野にも投資していることを紹介
G&NSでは、プレイステーションの体験を、ゲームコンソールやコンテンツだけで捉えておらず、感動を共有するコミュニティに位置づけているという。
西野社長 CEOは、「クラウドゲーミングが広がるなかで、コンソールは不要ではないかという議論がある。だが、クラウドゲーミングのネットワークの安定性は、私たちがコントロールできない部分であり、プレイ時間あたりのコストが高いという課題もある。コンテンツにアクセスするための新たな選択肢ではあるが、プレイステーション5の成功からもわかるように、ネットワークの状況に依存しないローカル環境でのゲーム体験が求められている」とし、「コンソールは、没入感が高いゲームプレイが、誰でも、すぐに楽しめるのが特徴である。また、コンソールでしか味わえない最高のゲーム体験を提供している。そのために、自分たちで、チップからバックエンドシステムまで、設計、開発、製造を一気通貫で行い、最高の遊び場を実現している」と述べた。
さらに、「現段階では詳細を話すことはできないが、プラットフォームの未来に関する取り組みは最優先事項であり、プレーヤーが私たちのコンテンツとサービスを、さらに楽しむための新たな方法を模索し続けている」とコメントした。
次世代機については、具体的な言及がなかったが、世代によって。本体を買い替えなくてはならないライフサイクル型ビジネスモデルの依存度を低減させながら、プレーヤーがプラットフォームにアクセスするための選択肢を増やしていることを強調。複数世代にまたがるエコシステムの確立が強みになっていることを示してみせた。あえてここに触れたことからも、将来的に渡ってこの仕組みを踏襲する可能性が高いと感じられた。
任天堂Switch 2とマイクロソフトの動向にも言及
任天堂のSwitch 2の影響については、「市場に変化があることは、業界全体が活性化する。プレイステーション5は没入感が味わえるゲームを提供できる。私たちが目指す感動を感じてもらうにはプレイステーション5レベルの性能が必要である。そこに価値を提供している。パブリッシャーはマルチプラットォーム化に向かうなかで、プレイステーション5は、唯一無二の体験をプレーヤーに提供でき、高いエンゲージメントと収益を創出できるように支援している。Switch 2が若年層の支持を得ているという指摘もあるが、プレイステーション5は、あらゆる年齢層、地域、プレイスタイルに応える多様なコンテンツを揃えている。世代を超えたファンを持つフランチャイズや、女性に人気が高いフランチャイズもある。映画やアニメとの連動もある。プレーヤーの心に残り続けることができると確信している」と述べた。
さらに、マイクロソフトがコンソール事業の縮小に動くとの見方が広がっていることに対しては、「競争は、健全な業界とイノベーションを促すものである。また、ゲームビジネスは多くの企業がともに発展させていくものであり、それが業界全体にとっていいことである」と指摘。「私たちは現在の戦略に自信を持ち、着実に実行している」と述べた。
また、西野社長 CEOは、「プレーヤーの遊び方や行動の変化、他社による新規参入、市場の細分化などにより、新たな課題とビジネスチャンスが生まれている。プレイステーションの商品、コンテンツ、サービスを通じて、プレーヤーとクリエイターをつなぎ、体験をさらに進化させることができると考えている。プレイステーションは、プレーヤーやクリエイターを刺激し続け、創造力で、遊びの限界を超え続けていくことになる。プレイステーションをさらに発展させていく」と、基本姿勢を改めて強調した。