ソニーグループは、エンタテインメント・テクノロジー&サービス(ET&S)の事業戦略について説明。2027年度の経営目標として、営業利益率10%、フリーキャッシュフローで1600億円、営業利益額に占めるクリエイション比率で8割を目指す計画を打ち出した。
ソニーの槙公雄社長 CEOは、「2024年度は、構造変革が計画よりも前倒しで実行でき、全世界でのET&Sの人員は、2018年度比で約3割減少。そのうち、2021年度から2024年度では約9%減少している。その一方で、新たにニューコンテンツクリエイション事業部を発足し、空間コンテンツによる事業化を加速する体制が整った」と現状を報告。2025年度の重点施策として、「ボラテリティの低減」、「成長の加速」、「サステナビリティの取り組み強化」の3点を掲げるとともに、事業ポートフォリオを、「構造変革・転換」、「領域拡大」、「成長・創出」の3つに分類し、それぞれの領域において、技術面での圧倒的な競争優位性を確立し、収益基盤の強化を目指すと述べた。
ソニーの取締役副社長 CFO 兼 CIOである大嶋祐一氏は、「これまでは収益性の強化や徹底した在庫削減でキャッシュフローを改善し、財務基盤の構築に取り組んできたが、今後は、収益性の高い事業をさらに拡大させ、2027年度はさらに一段高い営業利益を創出する。その一方で、成長事業の拡大につながる投資は増加させる。技術アセットや人材獲得によるケイパビリティの拡充、事業モデルの進化やバリューチェーンの拡大を加速するための投資は積極化する」と語った。
事業ポートフォリオを3つに分類、それぞれで目指すもの
「構造変革・転換」では、テレビおよびスマートフォンが対象となる。構造改革の推進とともに、ボラテリティの低減を進め、リスクをコントロールしていくことになる。
具体的には、収益水準の向上とボラテリティの低減に向けて、オペレーション変革を実行。販売面では、地域動向に則した体制へと再編し、地域の絞り込みや拠点数の削減に取り組む。製造面では、事業規模に合わせて内製拠点の最適化や外部化を進める。また、設計および間接部門では組織をプラットフォーム化することで、柔軟なリソースシフトを進める考えを示した。
槙社長 CEOは、「オペレーションに関する主要な構造変革は、2026年度までに完了させる」との方針を打ち出した。
テレビ事業については、シネマクリエイターの制作意図を再現することをテーマにした商品開発を進め、これが、クリエイション領域のディスプレイとして採用されはじめていることを強調。スマホ事業では、クリエイターからのコンテンツ即時納品の要求に応えるためのデータ通信端末として、イメージングとの機器連携によって、事業転換を加速していることを示した。
「ディスプレイと通信技術は、多様なクリエイションの進化に向けて、今後も開発を進めていくことになる」と位置づけた。
「領域拡大」では、イメージングおよびサウンドが対象となり、収益軸のコアとして、安定収益基盤を強化。クリエイション領域の拡大、事業領域の拡大、クリエイターの裾野拡大に取り組むという。
イメージング事業は、イメージング&センシング・ソリューション(I&SS)によるソニー独自のセンサー開発によって撮像技術を進化させており、これをベースに、イメージング産業における多様性を広げ、新たなクリエイターを創造することに取り組むという。
「フォトグラフィーの領域では、スピード、解像度、感度、リアルタイムテクノロジーに重きを置くことで、これまで表現することができなかったような分野にもクリエイションの幅を広げていく。また、シネマトグラフィの領域では、クリエイターの表現力を拡張させる新たなテクノロジーを開発し、これを次世代クリエイターにも展開して裾野を広げる。ビデオグラフィ領域ではソニーならではの大判イメージセンサーにより、被写界深度をコントロールしたエモーショナルな映像表現での制作拡大に対応。様々なレンズ群により、クリエイターの表現力を拡張し、リカーリングビジネスを強固なものにしていく」と述べた。
また、「強いハードウェアにソフトウェアの価値を加えることで、事業モデルを進化させ、3D、ライブストリーミング、リモートといった新たなイメージング領域への展開と、収益性が高いソリューション事業を拡大。クリエイターの創造を牽引する」と語った。 イメージング事業の売上成長は、2027年度までに4%増を計画。そのうち、ソリューション領域は39%増を計画している。
「イメージング事業は拡大が難しいという指摘もあるが、テクノロジーの進化はまだ続き、事業が拡大する。カメラやレンズといった単体は安定的な成長を見込むが、SNSの広がりとともに、女性や若年層といった新たな顧客層の獲得が期待できる。そして、さらなる成長の牽引役がライブストリーミングなどの新たな領域になる。ソニーならではの特徴が生かせる領域である」と自信をみせた。
サウンド事業は、ヘッドホンやスピーカー、マイクなどのエクスペリエンス領域において、プロフェッショナル向けハードウェアの展開を拡大。360VME(Vitual Mixing Environment)などのソリューションを、従来の楽曲制作分野に留まらず、映画、ゲーム、アニメのサウンドクリエイション分野にも展開し、事業領域を拡大するという。また、ニューヨーク大学とのパートナーシップや、1億人以上が利用する音楽制作プラットフォームであるBandLab Technologiesとのパートナーシップなどにより、最先端技術を用いた音楽制作環境を次世代クリエイターに届け、サウンドクリエイションの裾野を拡大する考えも示した。
サウンド事業は、2027年度までに3%の売上成長を見込み、そのうち、クリエイション領域では59%増という高い成長を計画している。
「成長・創出」では、スポーツとニューコンテンツクリエイション領域が対象となり、人材を含めた投資を加速させ、既存事業モデルの進化と新たな事業モデルの創出によって、ET&S全体のポートフォリオシフトを加速させるという。
「成長領域でのスピードはまだ十分ではない。成長の加速に注力し、ケイパビリティを拡大するための投資や他社との連携を積極的に行う」と述べた。
スポーツ事業は、判定支援に留まらず、データエンハンスメント技術を活用した新たなエンタテインメントの創出を目指したテクノロジーの開発を進めるという。
「判定支援では、Hawk-Eyeが、世界の主要サッカーリーグのVARにおいて70%のシェアを維持している。また、25以上の多様な競技や、100以上の国と地域において、200以上のパートナーが使用している」とした。アメリカンフットボールのNFLでは、今シーズンからバーチャルメジャメントを導入したという。
また、取得したデータの商用化による新たなビジネスモデル創出にも乗り出しており、リアルタイムでアニメ化するオルタナティブブロードキャストによるスポーツの新たな視聴体験を創出していることも紹介。今後は、放映や配信にもバリューチェーンを拡充する考えだ。さらに、2024年に買収したKinaTraxでは、Hawk-Eyeとのシナジーによるデータ精度の向上を実現しており、ケガ防止などに向けたバイオメカニクス領域において、ビジネスを拡大していくきっかけにしたいという。
「テクノロジーの力でスポーツをエンタテインメントに進化させ、ファンエンゲージメントの拡大にも貢献することで、事業成長を加速させる。M&Aも、成長に向けた手段のひとつになる」と、非連続での成長にも意欲をみせている。スポーツ事業は、2027年度までの売上成長で30%増を計画している。
ニューコンテンツクリエイションは、XRやVPテクノロジー&サービス、ソニーPCLなどで構成する事業であり、これまでにはなかったコンテンツの空間化を事業機会と捉え、そこにソニーが強みを持つ空間キャプチャリングなどのテクノロジーを活用する。
「コンテンツ制作に必要な現実空間を正確に捉え、シーンやオブジェクトをキャプチャリングし、リアルタイムでの制作につなげることで、空間コンテンツ制作ソリューションの提供を拡大でき、クリエイターの創造性を広げることが可能になる。バーチャル空間での映像制作や、高品位で魅力ある3D CGコンテンツの効率的な制作を実現する。新たな体験価値の実現を目指したテクノロジーの開発を進める」などとした。
ニューコンテンツクリエイションでは、著名なクリエイターとのコラボレーションのほか、自動車業界を中心に様々な業界との連携も進めていくという。
サステナビリティでは、環境、アクセシビリティ、ダイバーシティに注力。使用済みテレビから回収したプラスチックを新商品に再利用する水平リサイクルの実用化も進めるという。また、クリエイターとの共創によるインクルーシブルデザインにも取り組んでいるとした。
事業環境にリスクの波、「感動」の創造にDX・AI技術も活用
槙社長 CEOは、ET&S全体を取り巻く環境として、「2025年度は、地政学リスクの継続や、環境および人権に関する政策転換により、様々な影響を受けると考えられるほか、関税政策や世界経済の不確実性への対応が事業運営上の大きな要素になる。また、政治や経済状況によって、不安心理が常態化しているなか、SNSの影響力が増大し、消費行動にも変化が生まれている。一方で、テクノロジーにおいては、コンテンツ制作が複雑化するなか、生成AIの台頭により、クリエイションの裾野が拡大している。様々な産業で、人間の知識や思考、意思を汲み取るAIの実用化が進むだろう」とし、「収益性維持と成長を両立する事業構造の確立に挑み、企業価値向上に向けたキャッシュ創出を経営目標に掲げる」と話した。
中期的な戦略として、2027年度には、領域拡大事業、成長・創出事業が占める割合を10ポイント以上増やし、事業ポートフォリオのシフトを加速し、収益性を向上させるという。また、複数拠点におけるマルチロケーション生産を推進しているほか、生産ラインの標準化および自動化の展開、複数地域からの分散調達などを推進。全社横断プロジェクトにより、オペレーションの標準化、データやシステムの一元化にも取り組んでいることにも言及した。
ソニーの大嶋副社長は、「全社横断プロジェクトの進捗は7合目まできている。一元化したデータをもとに、最新のDX、AI技術を活用し、プロセスの自動化や無人化を推進し、真のデータドリブン型経営へと進化させる。間接業務の効率化や、地域拠点と事業拠点の機能統合につなげ、オペレーションのリーン化を行う」とした。
また、「ET&Sの課題は、事業環境が不透明さを増すなかで、経営リスクへの適応力や耐性を高めること、同時に成長を加速することである。領域拡大事業、成長・創出事業を加速することで企業価値向上を実現する」と述べた。
槙社長 CEOは、「ET&Sは、クリエイションテクノロジーを強みに、クリエイターとともに新たなエンタテインメントを創造し、感動にあふれる未来を共創する」と、今後の方向性を示した。