ソニーは、2019年度第1四半期(2019年4~6月)の連結業績を発表した。
売上高は、前年同期比1.4%減の1兆9257億円、営業利益は18.4%増の2309億円、税引前利益は26.0%減の2310億円、当期純利益は32.8%減の1521億円となった。減収ではありながらも、営業利益は、第1四半期としては過去最高の実績になった。純利益については、前年同期のSpotify社株式評価益および売却益などの一時的な損益、その税額への影響を除いた調整後の四半期純利益で、前年同期比56億円増の1464億円との試算も発表。稼ぐ体質が定着していることを示した。
それは、2019年度の通期連結業績見通しを、売上高では2000億円減の8兆6000億円と下方修正したものの、営業利益、税引前利益、当期純利益はいずれも据え置いたことからも示される。
2012年度を初年度とした第1次中期経営計画以降、各事業の構造改革と収益力の強化を進めてきた結果、それぞれの事業が高い競争力を取り戻している。それが、2019年度第1四半期の業績につながっている。
大黒柱のプレステ4、次世代機への期待で反動も
利益の約3分の1を稼ぎ出しているのは、プレイステーション4を軸とするゲーム&ネットワークサービス(G&NS)である。第1四半期の業績は、売上高が前年同期比3.1%減の4575億円、営業利益が11.6%減の738億円。2桁の減益とはなっているが、これは前年同期に利益率の高い自社制作ゲームソフトウェアの貢献が大きかったことの反動によるもの。引き続き、PS4のハードウェアの増収および収益性の改善、PS Plusをはじめとするネットワークサービスの増収効果がプラス要素になっている。
だが一方で、通期売上高見通しの下方修正については、このゼグメントが要因となっている。理由は、自社制作以外のゲームソフトウェア売上の下方修正と、PS4のハードウェア販売台数の下方修正だ。
とくに、ハードウェアの下方修正は、次世代ゲ―ム機の情報を一部開示したことで、これが想定よりも大きく影響した。PS4の販売目標を1500万台と、従来の目標から100万台引き下げたことが要因だ。
次期プレイステーションについては、2019年5月21日に本社で開催した「IR Day」で、ソニーの吉田憲一郎社長が、次世代プレイステーションに採用する技術の一部をデモストレーションしてみせたこともあり、「次世代」への期待が高まった反動で、PS4の売れ行きにブレーキをかけたといえなくもない。
しかし、ソニーの十時裕樹代表執行役専務CFOは、「PS4のハードウェアは、この第1四半期に累計販売台数が1億台に到達し、発売から7年目となった現在でも、年間1500万台の販売を見込めることは、市場から支持されている証左である」と自信をみせる。
今後、販売台数は減少していくのは明らかだが、それでも利益を確保できる体質が出来上がってきた点は業績にもプラスとなる。
好調続くイメージセンサーの成長余地は?
もうひとつの収益の柱となるのが、イメージング&センシング・ソリューション(I&SS)である。同セグメントの売上高は、前年同期比14.1%増の2307億円、営業利益が70.1%増の495億円。大幅な利益成長を遂げた。
十時氏は、「イメージセンサーへの需要は、主要スマートフォンメーカー各社の中高級機種に、高いシェアで採用されていることに加え、スマートフォンにおけるカメラの多眼化による数量の増加、センサーサイズの大型化による付加価値の高いセンサーへの需要の高まりを受けた。自社生産設備はフル稼働の状況であり、引き続き好調だ」とする。
「下期以降の通商問題などに関わる懸念は残っている」とはするものの、「イメージセンサーは、ソニーグループの成長戦略の柱のひとつを形成する重要な事業である」と位置づけてみせた。
ソニーでは、今年度の決算から、「半導体」としていたこのセグメントの名称を、「イメージング&センシング・ソリューション」に変更した。
十時氏は、この背景や考え方について、業績発表の場でも時間を割いて説明したが、それは、ソニーのイメージセンサーが持つ意味や、イメージング事業が、なぜ、ソニーグループの成長戦略の柱になるのかを示すものとなった。
十時氏の説明では、セグメント名称の変更の理由は、ソニーの半導体分野の売上高に占めるイメージセンサーの割合が年々増加してきたことにある。2019年度には約85%に達し、今後さらに高まる見通しだ。この前提に加えて、イメージセンサーは、アナログ半導体とデジタル半導体のハイブリッド的なデバイスであり、半導体という言葉から一般的に連想されるロジックLSIやメモリーとは、技術面でも、事業特性面でも異なることもあげている。
十時氏は、その技術面について「ロジックLSIやメモリーは、速いスピードでプロセス微細化が進み、頻繁な設備更新により商品競争力を保つ必要があるが、イメージセンサーは同じ設備を使いながら性能改善や新しい機能による差異化が可能であり、相対的には、大きな設備投資負担を定常的に必要とはしない事業である」と述べ、また、事業特性面では「機能や性能で差異化されたカスタム品中心の事業であるためり、過去数年間で大きく広げた顧客ベースと高い市場シェアにより、いわゆるシリコンサイクルと呼ばれるような、市況変動の影響を受けにくい事業構造が確立されつつある」と述べた。さらに、「過去10年においては、スマートフォン用途を中心に、年率約17%という非常に高い売上成長を遂げており、これに伴う生産能力増強のための大きな設備投資を行ってきているが、現状の急激な需要拡大が穏やかな拡大に転じるにしたがい、当事業の設備投資負担も大きく下がっていくと計画している」とも説明する。
つまり半導体のように一定サイクルでの大型投資が必要というではなく、しかも、いまの状況を考えれば、設備投資負担が減少することで、利益を創出しやすい事業であるということを示してみせたのだ。
その上で、将来に向けては、「イメージング&センシング・ソリューション分野の方向性として、イメージセンサーにAIを組み合わせインテリジェント化する、AIセンサーの開発を推し進めている」という。
十時氏は、「センサーとロジック回路の積層構造やCu-Cu接続といった、イメージング&センシング・ソリューション分野が持つセンサーハードウェアの強みを活用するだけに留まらず、技術や多様なアプリケーション開発が必要になるため、ソニーグループ全体で取り組みを進めていくことになる。また、AIとセンシングは、自動運転、IoT、ゲームやイマーシブエンタテインメントなど、幅広い領域で使われていくと考えられ、画像データやセンシング情報をセンサー内で高度に前処理することで、イメージセンサーを、ハードウェアからソリューションやプラットフォームに進化させられる可能性があると考えている」とする。
この事業が、ソニーグループ全体として強みを発揮しやすい事業であるということを重ねて強調したのだ。十時氏が、「ソニーグループの成長戦略の柱」と位置づける理由はそこにある。
ソニーの代名詞、"エレクトロニクス"に吹く逆風
一方、そのほかのセグメント別業績を見ると、音楽の売上高が11.5%増の2023億円、営業利益が19.3%増の383億円。映画の売上高が6.3%増の1861億円、営業利益が80億円増の4億円の黒字。金融の売上高が1%増の3369億円、営業利益が13.6%増の461億円と、好調な業績であるのに対して、エレクトロニクス・プロダクツ&ソリューション(EP&S)の売上高が14.8%減の4839億円、営業利益が23.2%減の251億円と落ち込んでいるのが気になる。
EP&Sは、従来のホームエンタテインメント&サウンド、イメージング・プロダクツ&ソリューション、モバイル・コミュニケーションの3分野を統合したもので、いわばソニーの代名詞でもあるエレクトロニクス事業をまとめた分野である。
テレビやスマートフォンの販売台数が減少したことによる減収に加え、営業利益では、モバイル・コミュニケーションにおけるオペレーション費用の削減はあったものの、減収や為替の悪影響により減益となった。通期の売上高見通しも、テレビおよびスマートフォンの販売台数見通しの引き下げにより下方修正した。
とくにテレビ事業は、競合他社との価格競争の激化や、欧州や中南米などでは、前年同期のワールドカップ需要の反動が影響した。テレビの販売台数は、前年同期比で約23%も減少した。テレビは、通期の販売台数目標を、50万台減の1050万台へと引き下げている。
スマホについても、海外における中高価格帯モデルの販売台数が当初計画を下回っていること、日本では2019年10月以降に見込まれる端末代金と通信料の分離問題が売れ行きに影響する可能性が指摘され、「見方を慎重にしている」という。
国内では消費増税前の駆け込み需要も見込まれるが、総じて中期的には、厳しい状況が続く可能性がある。
ソニーの代名詞であるエレクトロニクス事業を、成長基調へと転換させるための一手が今後注目される。