一般社団法人電子情報技術産業協会(JEITA)が、2023年4月27日に、虎ノ門ヒルズフォーラムで開催した「G7デジタル・技術大臣会合に向けた官民会合」は、「Tech7」と呼ばれるG7参加国のデジタル産業団体や、日本の政府関係者、IT関連企業のトップなどが参加。DFFT(Data Free Flow with Trust)の社会実装や、生成AIをはじめとする新たな技術による社会課題の解決に向けた対話が行われた。

  • G7会合を控え「Tech7」が集った官民対話、規制かイベーションか、AI技術も議論の的に

    「Tech7」と呼ばれるG7参加国のデジタル産業団体や、日本の政府関係者、IT関連企業のトップなどが参加

同会合は、4月29日、30日に、群馬県高崎市のGメッセ群馬で開催された「G7群馬高崎デジタル・技術大臣会合」の開催前に開かれたもので、「政府キーパーソン/Tech7官民対話」では、経済産業省の西村康稔大臣、総務省の松本剛明大臣、デジタル庁の河野太郎大臣が登壇。JEITA会長である富士通の時田隆仁社長がファシリテータを務めた。

  • JEITA会長である富士通の時田隆仁社長

Tech7は、日本のJEITAのほか、米国のITI(情報技術産業協議会)、EUのDIGITAL EUROPE、フランスのNumeum、イタリアのAnitec Assinform、ドイツのBitkom、英国のtechUK、カナダのTECHNATION Canadaで構成しており、今回の会合ではJEITAを含めて5団体の関係者が登壇した。

また、DFFTは、「信頼性のある自由なデータ流通」を指し、2019年1月のダボス会議および同年6月のG20大阪サミットで、当時の安倍晋三首相が提唱。プライバシーやセキュリティ、知的財産などの安全を確保した上で、データの自由な流通を実現し、便利な社会を実現するためのコンセプトに位置づけられている。

今回の会合で、経済産業省の西村康稔大臣は、「人類はイノベーションで発展してきたが、同時に、イノベーションは様々な課題を突きつける。ChatGPTがプライバシー上の懸念から一部の国で使用を禁止されたというもその一例である。一律に規制すればイノベーションは生まれない。適切な規制をして、イベーションにつなげることが必要である。犯罪率の上昇に対する打開策としてAI技術を応用した監視カメラ網の整備、拡大を打ち出している国もあるが、監視社会を生み出すとして強い懸念がある。リスクを恐れていては、イノベーションは起せないが、バランスが大切である。そのためには、技術の進化にあわせて機動的にガバナンスを刷新しつづけなくてはならない。機動的で、柔軟な改善を可能とするアジャイルガバナンスを取り入れるための基本原則も打ち出したい。AIを含む新興技術の社会実装に向けた政策対応や、柔軟なガバナンスの刷新が、国際社会における最優先課題のひとつである」としたほか、「2016年に日本がG7の議長国を務めた際に、AIを中心としたサイバーとフィジカルが連携するビジョンをSociety5.0として提言した。このビジョンが現実のものになっている。通信機能を備えた自動走行車が登場し、産業用ロボットが人手不足の現場を支えるようになっている。生成AIは人間のように対話ができ、映像制作や作曲といった創造的な活動まで行えるようになっている。サイバー空間とフィジカル空間が融合し、従来とは異なる経済社会が構築されつつある。日本では、デジタル技術などを社会に実装し、恩典を広く還元することを目的に、デジタルライフライン全国総合整備計画を新たに策定した。デジタル技術を活用した新たな製品やサービスが、社会実装されるために、各地域においてハードインフラからデータ連携基盤までを整備することになる。日本だけがガラパゴスを言われることがないように、デジタルインフラ基盤の基幹技術に関する相互運用性の確保について議論したい」などと述べた。

  • 経済産業省の西村康稔大臣

総務省の松本剛明大臣は、「AIについては開発の深耕、利活用の推進、適切な規制が重要である。信頼できるAIの推進という各国共通のビジョンを実現したい。生成AIは、プラスとリスクの両面を視野に入れ、国際的な枠組みでの分析、検証についても議論していく必要がある。また、2030年代の次世代情報通信インフラであるBeyond 5G(6G)は、移動通信の延長だけでなく、有線、無線、光、電波、地上/衛星などを包含する複層的なネットワークとして捉えていく。オープンで、相互運用可能なアーキテクチャーであると考えている。さらに、あらゆる年齢層や、様々な背景を持つ人々が適切なデジタルスキルを取得して、デジタルの恩恵を受けられるようにすることが、デジタルデバイドを縮小する上で重要である。デジルタによって、距離や時間の制約を超えられるメリットを誰もが受け入れられようにしたい」などと語った。

  • 総務省の松本剛明大臣

デジタル庁の河野太郎大臣は、「G7諸国を訪問したり、ダボス会議に参加したりしても、昨年はバズワードだったWeb3の話は誰もしない。参加者全員がAIや量子コンピュータの話をしていた。すでに新しい時代に突入している。ChatGPTなどのAI技術を、政府でどう活用するかは、まだ思案中であり、クリアしなければならない問題もたくさんある。だが、確信しているのは、AIを使えば、政府内の生産性を高めることができるという点だ。一方で心配なのは、このAIが、SNSやインターネットを通じて、フェイクニュースや悪質な情報を発信してしまう可能性がある点。2024年の米大統領選挙、今後の日本での総選挙において、AI技術やAIが生み出すフェイクニュースにどう対処するかといったことは、注意しなくてはならないテーマである」とする一方、「DFFTについては、各国ともに同じ方向を見ているが、国際組織のガバナンスに関しては少し違いがある。私は、継続的に議論を続けるために、事務局を持つ新しい国際的な枠組みを作りたいと考えており、それによってDFFTを運用することができるようになると思っている。たとえば、規制のサンドボックスと呼ばれるものを設置することで、新たな技術をこのサンドボックスでテストし、合格すれば加盟国に適用することができるような仕組みを用意したい。また、G7加盟国間の国境を越えたデータ転送に関する規則や、規制を反映したグローバルなデータベースも構築したい。国境を越えるのは商品やサービスだけでなく、データも常に国境を越える。これは新しいものであり、今後のグローバル経済にとって非常に有益なものとなる。DFFTには、G7だけでなく、グローバルサウスにも参加してもらいたい。それがG7およびグローバルサウスの利益につながる」と述べた。

  • デジタル庁の河野太郎大臣

また、英国大使のJulia Longbottom氏は、「2022年12月に、日英デジタルパートナーシップを発足し、デジタル分野における日英間の協力をさらに強化した。日本のような心あるパートナーと協力し、急速な技術革新がもたらす機会や課題に取り組むことが成功の鍵になる。一方で、英国ではUK GDPRによるデータ保護法を更新するために、新しいデータ保護およびデジタル情報法案を導入した。これらの更新は、企業の負担を軽減し、イノベーションを促進し、消費者の安全を守るものである。また、セキュリティ、プライバシーとイノベーションへの開放性とのバランスをどのように管理するかという課題への取り組みでもある。英国では、DFFTの実現にコミットしており、DFFTに関するロードマップに合意している。国境を越えたデータの流れを支援するグローバルな商品や実践を提供することを期待している」と語った。

  • 英国大使のJulia Longbottom氏

Tech7では、techUKのJulian David氏が「あらゆる場所で、技術やデジタル技術の重要性が増している。政府の取り組みだけでなく、テクノロジーを持つ民間企業や、ソリューションを活用する企業も、新たな定義の策定に協力することが重要である」とコメント。ITIのRob Strayer氏は、「民主主義国家という共通の背景を持つG7が、時々の難しい問題に取り組むことは重要である。AIにおいては、DFFTの取り組みが重要であることを認識している。テクノロジーが社会や消費者に貢献し、経済成長にも重要な影響を与えることになる」とし、TECHNATION CanadaのAngela Mondou氏は「潜在的に存在するリスクの問題への対処は、究極的にはデータの問題であり、すべてがデータによって支えられている。G7がDFFTを加速させるためにリーダーシップを発揮しなくてはならない」と述べた。また、DIGITALEUROPEのMikael Back氏は、「AIや新しい技術は、世界にとって有益なものである。デジタルインフラは、環境課題を解決するためのイノベーションの基盤となり、社会のデジタル変革の基盤となる。Tech7が、様々な組織と協力することで、デジタル時代に誰も取り残されないというミッションの一翼を担うことができると確信している」と語った。

  • techUKのJulian David氏

  • ITIのRob Strayer氏

  • TECHNATION CanadaのAngela Mondou氏

  • DIGITALEUROPEのMikael Back氏

Tech7では、G7群馬高崎デジタル・技術大臣会合にあわせて、共同声明を発表している。

ここでは、「国際経済の回復を維持・促進するためのデータフローの促進」、「気候変動やエネルギー転換などの地球規模の持続可能性課題への対処におけるデジタル技術の活用」、「人間中心のAI原則の世界的な普及」、「信頼を守るサイバーセキュリティ」、「社会の新たなデジタル化の機会に向けたコネクティビティの促進 (6G)」、「基礎から高度なデジタルスキルを向上させるための積極的な協力」の6点から提言を行っている。

  • 「Tech7」による共同声明

JEITAの時田会長は、Tech7を代表して、共同声明について説明。「共同声明は、デジタル産業界の新たな発展に向けて、Tech7が、G7各国政府に対して期待する重要分野について提言している。コロナ感染症や国際紛争によるサプライチェーンの混乱などといった課題に直面したが、開かれた市場経済の実現や人権、自由、平等、法の支配など、同じ価値観を共有するG7諸国は、これまで以上に緊密に協力する必要がある。Tech7は、技術革新を通じて様々な課題に対するソリューションを創出しており、それを継続していく姿勢は変わらない。今回の提言では、DFFTの円滑化による国際経済の回復、持続化をはじめとした内容を盛り込んでおり、G7各国の政府には、これらを考慮に入れた議論を進めてもらいたい」と語った。