ヤマハが2008年に発売した新形態の電子楽器「TENORI-ON」(図1参照)。本連載でも以前紹介したが、販売はWebショップのみ、価格も12万円弱と、ちょっと興味がある程度ではなかなか手が出しづらいところだ。また日本各地にTENORI-ONを試せる展示拠点はあるとはいえ、自宅近くには展示拠点がなく、触れる機会のない人もいると思われる。

TENORI-ONに興味があり、かつiPhoneかiPod touchを所有しているという人にちょっとおススメしたいのがApp Storeで販売されている「PaklSound1」だ(図2参照)。App Storeの画面は静止画のため、見ただけではわからないかもしれないが、これがなかなかTENORI-ON風味なアプリとなっている。

図1

図2

ヤマハの「TENORI-ON」。6つの演奏モードを搭載し、また背面のLEDインジケータにより観客を魅せるプレイもできる新世代の電子楽器だ

TENORI-ONを意識した?iPhone/iPod Touch用アプリ「PaklSound1」

PaklSound1を起動してみると、ボタンのようなものが縦9個×横16列と画面いっぱいに並び、また縦一列のボタンは青く点灯して一定のテンポで左から右へと移動している(図3参照)。この各ボタンを適当にタップしてみると青く点灯した状態になり、移動している列が点灯しているボタンを通過するとそれに合わせて音が出る。このとき上側のボタンを点灯させていれば高い音程で、下側のボタンだと低い音程で演奏される(図4参照)。 そう、これはTENORI-ONの「Scoreモード」と同じ動作なのだ。このインタフェースはステップシーケンサとしては標準的なものではあるが、ボタンのデザインや光り方でTENORI-ONを連想してしまう。

図3

図4

起動すると画面上部のツールバーを除いて9個×16列のボタンが並ぶ。なお画面表示は横位置で固定

各ボタンをタップして点灯させると、縦一列に点灯したバーの移動に合わせて演奏される

操作そのものはシンプルで、ボタンをタップして点灯、不要になった場所はもう一度タップすることで消灯する。バーの移動速度、つまり演奏テンポはツールバーのボタンで変更できる。また同アプリにはレイヤーの概念も盛り込まれており、起動状態のレイヤーではシンセ的な音が演奏されるが、2つめのレイヤーではドラム、3つ目のレイヤーはベースとなっている。もちろん3つのレイヤーは別々のシーケンスパターンを打ち込むことが可能だ。またA/Bという2つのパターンをボタンで切り替えることもできるので、シンプルとはいえ結構曲らしい形になる(図5~6参照)。

図5

図6

ツールバーのボタンは左から「テンポを遅く」、「テンポを早く」、「シーケンスパターンのクリア」、「前のレイヤーに切り替え(3→2→1)」、「次のレイヤーに切り替え(1→2→3)」、「パターンAに切り替え」、「パターンBに切り替え」

各レイヤーで独立したパターンを作成可能、なお初期設定ではレイヤー1(メロディ)は青、レイヤー2(ドラム)は赤、レイヤー3(ベース)は緑と色分けされており、どのレイヤーを表示しているか一目でわかる

初期状態のPaklSound1の使い方はほぼこれがすべてで、操作に悩むところがない反面、リアルタイムに各ボタン(=音程)を演奏するといったこともできないのだが、iPhoneの設定メニューから「Advance Mode」に切り替えることで機能が追加される(図7参照)。Advance Modeではツールバーのボタンが増え、「バーを左端に移動する(パターンの最初から演奏する)」、「バーの移動を止める(演奏を停止する)」、「現在演奏中のパターンをメールを使って保存する」ほか、「リアルタイム演奏」が可能となる(図8参照)。ただし画面スペースの制約上のためか、前のレイヤーに切り替えるなどの一部ボタンは省略される。

図7

図8

インストールするとiPhoneの「設定」に「PaklSound1」が追加される。「Advanced Modeをオンにする」ほか、「Monochrome layerですべてのレイヤー色を青に統一する」、「Magnify buttonsでボタン表示を大きくする」、といった設定変更ができる

Advance Modeではツールバーの表示が変わる。指アイコンが「リアルタイム演奏のオン/オフ」、メールアイコンは「パターンの保存」、「←」は「演奏位置を左端に戻す」、そして演奏の一時停止ボタンも追加される

リアルタイム演奏をオンにすれば、画面上を自由にタッチして演奏可能だ。この場合も既に入力したパターンは演奏されている。演奏する音程はパターン入力時と同じく、画面上側は音程が高く、下側は低くなるのだが、ドラム以外のレイヤーでは画面左側に「♭」、画面右側に「#」が表示され、そこをタップすることで半音単位での演奏が可能だ(図9参照)。なおAdvanced Modeでは各ボタンをタップするときも、タップしてから上へドラッグすることで「#」を、下へドラッグすることで「♭」を表示し、半音単位でのパターン作成が可能となる(図10参照)。

図9

図10

指アイコンをタップすればリアルタイム演奏が有効となり、パターン演奏とは別に、タップした音程で演奏される。各音程において、画面左側の「♭」をタップすれば半音低く、画面右側の「#」では半音高くなる

初期状態では入力できない半音単位でのパターン作成も、Advanced Modeではサポートされている

PaklSound1はTENORI-ONのScoreモードをなかなかうまく再現している。ただし逆にいえばそこまでで、さすがに本家TENORI-ONのように「Drawモード」や「Bounceモード」、「Pushモード」などそのほかのパターンは用意されていない。またシーケンスのステップ数も16で固定であり、見た目の面白さ以外は、かなり原始的なアプリともいえるだろう。もちろん、TENORI-ONの特徴である観客を魅せる背面のLEDインジケータも再現のしようがなく、その意味ではやはり全然違うものだ。ただApp Storeは開始から約半年が経過し、音楽系アプリも有料/無料合わせればかなりの数が揃ってきたなかで、PalkSound1はわずか115円と有料アプリの中でも最廉価で販売されている。そのためTENORI-ONに興味があるならば、ダウンロードしてみて損はない値段ではないだろうか。