韓国サムスン電子は2022年4月7日に新製品発表会を実施し、Sペンを内蔵したフラッグシップモデル「Galaxy S22 Ultra」などAndroidスマートフォンの新機種を発表しました。そこからは、同社の日本におけるスマートフォン戦略に悩みが出てきている様子も見え隠れします。
携帯電話会社向けだけではなかった新製品
携帯電話会社がスマートフォンの新製品発表会を積極的に実施しなくなったことで、スマートフォンメーカー各社が実施する新製品発表会の重要性が高まっています。実際、サムスン電子の日本法人であるサムスン電子ジャパンは2022年4月7日に日本での新製品発表会を実施し、国内の携帯電話会社から販売されるスマートフォンも含め多くの新製品を発表しました。
その発表の中心となっていたのは、やはりスマートフォンのフラッグシップモデル「Galaxy S22」シリーズです。これは2022年2月に海外で発表されたものですが、国内ではNTTドコモとKDDIのauブランドから、「Galaxy S22」と「Galaxy S22 Ultra」の2機種が販売されることになりました。
なかでも注目されたのは、最上位モデルのGalaxy S22 Ultraでしょう。6.8インチの大画面や、4つのカメラを搭載するなど機能・性能の充実ぶりに加え、以前の「Galaxy Note」シリーズと同様、専用のペン「Sペン」を本体に内蔵できることが関心を呼びました。一方で、海外で販売されている6.6インチの大画面モデル「Galaxy S22+」は、Galaxy S22 Ultraと重複する部分もあってか、国内投入には至らなかったようです。
ほかにも、ミドルクラスの「Galaxy A53 5G」をNTTドコモとKDDIのau、UQ mobileブランドから販売することが明らかにされました。ここまでは従来の発表と大きく変わりませんが、今回発表された新製品はこれだけにとどまらなかったのです。
その1つが「Galaxy M23」。これは、新興国を主体に展開しているスマートフォンで、6.6インチディスプレイと5,000mAhのバッテリーを搭載し、チップセットにクアルコムのミドルハイクラス向け「Snapdragon 750G」を採用しながらも4万円台で販売されるコストパフォーマンス重視のモデルです。今回の発表で関心を呼んだのは、その販路です。
というのもGalaxy M23は、サムスン電子としては国内で初めて携帯電話会社から販売するのではなく、オープン市場向けに投入する、いわゆる「SIMフリー」モデルとなるからです。販路はAmazon.co.jpが主体となるようですが、他にも一部家電量販店のEコマースサイトでも販売される予定とのことです。
そしてもう1つは「Galaxy Tab S8」シリーズです。これは、同社が海外で販売している高性能タブレットの新製品シリーズであり、日本ではそのうち「Galaxy Tab S8+」が投入されるほか、最上位モデルの「Galaxy Tab S8 Ultra」の販売も予定しているそうです。
サムスン電子が日本でタブレットを販売するのは、およそ7年ぶりのこと。同社は、海外ではタブレットを継続的に投入していますが、日本市場に向けては長らく新製品を出していなかっただけに、突然のタブレット復活には驚きもありました。
端末の値引き規制で求められるビジネス転換
これまでサムスン電子は日本において、フラッグシップモデルを中心に携帯電話会社に向けて投入してきました。最近では、低価格を求めるニーズが増えたことから、下のクラスの「A」シリーズを投入する機会も増えていましたが、オープン市場向けモデルは一切提供せず、携帯電話会社向けのビジネスを非常に重視していたことに変わりありません。
ですが、今回発表されたGalaxy M23やGalaxy Tab S8シリーズは、いずれもオープン市場に向けて販売されるものであり、同社が日本市場において大きな戦略転換を図ったことは間違いないでしょう。その理由は、やはり国内市場の環境の変化、より具体的には政府による端末値引き規制にあるといえます。
特に、2019年の電気通信事業法改正でスマートフォンの大幅値引きが規制されて以降、高額なフラッグシップモデルに強みを持つメーカーは軒並み販売が厳しくなり、携帯各社の大幅値引きに依存していた販売体制の見直しを進めています。実際、フラッグシップモデルに強みを持つアップルやソニー、シャープは先にオープン市場への参入を打ち出し、販路開拓を進めています。
それゆえ、最後まで携帯電話会社重視の姿勢を崩さなかったサムスン電子も、今回ついにオープン市場での販売に踏み出すに至ったものと考えられます。その第1弾としてGalaxy M23を選んだのは、オープン市場ではコストパフォーマンスが重視されることに加え、国内ではまだ投入されていないシリーズを扱うことで、携帯電話会社に一定の配慮をしたためではないかと考えられます。
一方で、スマートフォンではないGalaxy Tab S8シリーズの販売からは違った狙いも見えてきます。それは、端末の値引き規制があってもなお、サムスン電子のフラッグシップスマートフォンを購入してくれるコアなファン層をターゲットとして、高い付加価値の製品を販売して売上を増やすことです。
実際、Galaxy Tab S8のAmazon.co.jpでの予約販売価格は115,500円とかなり高額で、Galaxy Tab S8 Ultraの価格はさらに高額になると考えられます。とても性能が高いとはいえ、Androidタブレットにそこまでのお金を支払える人は多いとはいえないだけに、少数ながらも高付加価値を求める人をターゲットとしている様子が見て取れます。
ただ、オープン市場で扱うモデルが「コスパ重視のスマートフォン」と「ハイエンドタブレット」という現状は、やや狙いが見えにくく一体感に欠ける印象を受けるのも確か。携帯電話会社向けのビジネスが大きく、そこへの配慮も必要なので難しい部分もあるでしょうが、とりわけコアなファンを醸成するという視点でいうならば、やはりオープン市場にもフラッグシップモデルを投入するなど、本気で取り組む姿勢が今後問われることになります。