発表直後から大きな賛否を読んだバルミューダのスマートフォン「BALMUDA Phone」ですが、ここ最近本体価格を値下げしたり、BALMUDA Phone独自のアプリの1つであるスケジューラを他のAndroidスマートフォン向けに公開したりするなど、大きな動きを見せています。その背景には何があるのでしょうか。
10万円台だったBALMUDA Phoneが7万円台に
2021年11月にスマートフォン市場へ参入した家電メーカーのバルミューダ。その第1弾となる「BALMUDA Phone」は、曲線で構成されたボディと非常にコンパクトなサイズ、そして自社開発したスケジューラやメモなどの独自アプリを搭載するなど、非常に個性的な内容であった一方、性能はそこまで高くないながらも10万円を超える値段の高さから大きな批判も巻き起こりました。
さらに2022年1月には、技術適合証明の認証について確認すべき項目があるとして販売を一時停止。この問題自体はソフトウェアアップデートですぐ改善が図られたのですが、BALMUDA Phoneに批判的な人たちだけでなく、大手メディアにも取り上げられる事態となったことで、販売の現場に少なからず影響が出たようです。
参入直後からこれだけ多くの逆風にさらされることとなったBALMUDA Phoneですが、そうした状況を打破するためかバルミューダはここ最近、BALMUDA Phoneに対していくかのアクションを起こしています。中でも大きな動きの1つとなったのが、本体価格の値下げです。
実際バルミューダは、2022年3月10日にBALMUDA PhoneのSIMフリーモデルの価格を改定し、104,800円から78,000円に値下げしています。ソフトバンクも2022年2月11日から3月31日まで、48回分割払いで購入して一定の条件を満たした人に対し、BALMUDA Phoneを従来の半額近い71,664円に値引いて販売するキャンペーンを実施しています。発表内容を見ますと、キャンペーン実施の主体はバルミューダとなっているようです。
バルミューダは2022年4月1日より、原材料費などの高騰により主力の家電製品を値上げすると発表しています。それだけに、このタイミングでのBALMUDA Phoneの値下げは、バルミューダの中でもかなり異例の対応と見ることができるでしょう。
そしてもう1つ、大きなアクションとなるのがアプリの公開です。同社は2022年3月3日、BALMUDA Phoneの主要アプリの1つであるスケジューラを「BALMUDA Scheduler」としてGoogle Playで公開、Android 9以降を搭載した他のスマートフォンでも使えるようにしたのです。
バルミューダはBALMUDA Phoneを発表した際、自社開発のアプリはBALMUDA Phoneにしか搭載しないとしていました。それだけに、その方針を早々に転換し、BALMUDA Phoneの中でも主力となるスケジューラアプリを早々に公開したことには驚きがありました。
BALMUDA Phoneの価値を体験しやすくする施策
なぜ、バルミューダがこれだけの対応を打ち出しているのかといえば、やはりBALMUDA Phone販売の強化を図りたいが故でしょう。先に触れた通り、BALMUDA Phoneを取り巻く環境は決して良好とはいえず、その状況が大きく改善されているわけではないことから、継続的に販売を広げていくうえで何らかのテコ入れが必要と判断したといえます。
そして一連の施策を見るに、同社が販売拡大に向けて狙っているのは、BALMUDA Phoneの価値を体験してもらうための敷居を下げることのようです。とりわけそのことを感じさせるのがBALMUDA Schedulerの公開で、BALMUDA Phoneのアプリの価値を他のスマートフォンユーザーに体験してもらうことでBALMUDA Phoneのアプリの魅力を伝え、販売拡大につなげようとしているのではないかと考えられます。
バルミューダの代表取締役社長である寺尾玄氏は以前の取材で、2022年の秋口にスケジューラアプリを大幅アップデートすると言及しています(「バルミューダの寺尾社長に聞く「BALMUDA Phone」の開発経緯と現状認識、今後の取り組み」参照)。そのことと今回の措置を組み合わせて考えると、今後BALMUDA Phoneにはより一層高度なスケジューラアプリが提供される可能性があり、BALMUDA Schedulerを呼び水としてより高度なアプリが利用できるBALMUDA Phoneの利用に結び付けようという、同社の狙いが一層鮮明になってくるようにも感じています。
先の経緯から、BALMUDA Phoneには“アンチ”も少なからずいるだけに、一連の値下げ措置などをネガティブに捉える向きは少なからずあるようです。ただ、値下げなどのテコ入れがユーザー体験を広げるきっかけとなり、デバイスの販売を拡大したケースは過去にもあります。その代表例となるのが、あのアップルのiPhoneです。
iPhoneは、2008年の「iPhone 3G」の販売当初、国内の店舗に多くの行列ができるなどして大きなフィーバーを呼びました。ですが、当時のiPhone 3Gは割引販売がされておらず、値段が高かったことなどもあって、欲しい人が一通り手にしたところで販売が大きく落ち込んでしまったのです。
そこで、当時iPhoneを独占的に扱っていたソフトバンク(当時はソフトバンクモバイル)は、2009年にiPhoneの一部機種を実質0円で販売する「iPhone for Everybody」キャンペーンを展開。これが「iPhoneを使いたいけれど高くて手が出せない」という人のハードルを下げ、iPhoneの価値を知ってもらうきっかけとなってその後の販売拡大へとつながりました。
無論、バルミューダの一連の措置で、BALMUDA PhoneがかつてのiPhoneのように販売を拡大できるかは分かりません。ですが、BALMUDA Phoneは性能やコストパフォーマンスではなく体験価値を重視して作られたスマートフォンだけに、販売拡大には消費者に体験してもらうことが最も重要です。そのためにも同社には、体験価値を継続的に伝える取り組みが求められていることは確かでしょう。