グーグルが10月15日に発売した、同社初の5G対応スマートフォン「Pixel 5」。ミドルクラスのチップセットを採用し、ハイエンドモデルと位置づけられた前機種「Pixel 4」で特徴的だった要素が削ぎ落されています。なぜ、新しいPixelシリーズは価格重視のミドルクラスになり、ハイエンドモデルではなくなったのでしょうか。

  • グーグルが10月15日に発売したスマートフォンの新機種「Pixel 5」。5Gに対応しグーグルのAI技術を活用したカメラ機能などを備える一方、チップセットはミドル向けのものを採用している

機能や性能がとても似ているPixel 5とPixel 4a(5G)

コロナ禍の影響を大きく受けた2020年ですが、冬の商戦期に向けて世界各国で新しいデバイスの発表がなされています。米国時間の9月30日には、グーグルが新製品発表イベント「Launch Night In」をオンラインで実施し、スマートスピーカーの「Nest Audio」や新しい「Chromecast」(日本での発売時期は未定)など多くの新製品を発表しました。なかでも注目されるのは、やはりスマートフォン「Pixel」シリーズの新製品ではないでしょうか。

今回発表された新機種は「Pixel 4a(5G)」と「Pixel 5」の2機種ですが、その内容は少々意外なものでした。というのも、Pixel 4a(5G)とPixel 5を比べると、本体のサイズや素材、メモリやイヤホン端子、ワイヤレス充電の有無など細かな違いはあるものの、どちらも5G対応でデュアルカメラを搭載し、同じチップセット「Snapdragon 765G」を採用するなど、共通している部分がかなり多いのです。

一方で、2020年8月に発売されたばかりのPixel 4a(5G)とPixel 4aと比べた場合、5Gに対応するためチップセットが変更されているというだけでなく、ディスプレイサイズやカメラの数が異なるなど全体的に違いが見られ、同じ「Pixel 4a」という機種とは思えない印象も受けてしまいます。

  • もう1つの新機種「Pixel 4a(5G)」はデュアルカメラを搭載するなど、Pixel 4というよりもPixel 5に近い機能・性能を持つ

さらに、Pixel 5とその前機種「Pixel 4」を比べた場合、Pixel 4がハイエンド向けのチップセットを採用するなど高性能が特徴の1つとなっていたのに対し、Pixel 5はミドルクラス向けのチップセットを採用し、発売時点での価格も約1万5000円安くなっています。しかも、Pixel 4独自の機能として話題となった、60GHz帯のレーダーを活用したジェスチャー操作も、Pixel 5では省略されています。

そうしたことから、Pixel 4a(5G)とPixel 5は、従来のPixelシリーズとは傾向がかなり異なるラインアップとなったことが理解できるでしょう。ではなぜグーグルは、先進機能を詰め込んだハイエンドのモデルを投入せず、ミドルクラスのスマートフォンを大幅に拡充する戦略に出たのでしょうか。

サブスク強化のため、ハードは低価格を重視か

そこに影響しているのは、1つにスマートフォンのハイエンドモデルの価格がかなり高騰してしまったことから、売れ筋がミドルクラスに移っているという世界的な傾向にあるといえるでしょう。日本でも、端末の値引き規制によってハイエンドモデルが購入しづらくなり、ミドルクラスの端末に売れ筋が移りつつあるのは確かです。

そしてもう1つ、大きく影響しているのはサービスの存在です。実際、今回のグーグルのイベント内容を見ると、新しいハードとともに、グーグルのサブスクリプション型サービスが一体となってアピールされていたのが非常に印象的でした。例えば、Google Nest Audioは音楽配信の「YouTube Music」、新しいChromecastは米国で提供されている「YouTube TV」、そしてPixelシリーズの新機種は、やはり米国などで提供されているクラウドゲーミングサービス「Stadia」とセットでアピールがなされていたのです。

日本では、これらのサービスのうちYouTube Musicしか利用できないため、こうしたアピールがいまいちピンと来ない部分があるのは確かでしょう。ですが、すべてのサービスが利用できる米国市場を主体に考えると、グーグルがハードとサービスの両面で収益を上げることを考慮し、無理に高額なハードウエアを提供する必要はないと判断した様子が見て取れます。

  • Pixel 5/4a(5G)と同時に発表されたスマートスピーカー「Google Nest Audio」。発表イベントでは、YouTube Musicとセットでのアピールがなされていた

こうした傾向は、ハードとサービスを持つ多くのプラットフォーマーに、ここ最近共通している傾向でもあります。アマゾン・ドット・コムは、自社サービスの利用促進を前提に「Kindle」「Echo」などのハードウエアを低価格で提供していますし、アップルも「Apple Music」などサービス関連の事業が好調なことから、これまでハイエンドモデルにこだわっていたスマートスピーカー「HomePod」などハードウエアの低価格化を進めるようになってきました。

そうしたことからグーグルも今後、サービスとの一体提供を前提に、ハードウエアを低価格で提供する戦略を加速していく可能性が高いといえそうです。消費者にとっては低価格でハードウエアが入手できるメリットがある一方、選んだハードによって特定企業のサービスに縛られやすくなる可能性が高くなるのが、懸念されるところかもしれません。