NTTドコモが販売している富士通コネクテッドテクノロジーズ(FCNT)の5G対応スマートフォン「arrows 5G F-51A」は、国内メーカー製スマートフォンで唯一ミリ波にも対応するなど、非常に高い性能を備えています。富士通からスピンアウトして規模が縮小したFCNTが、なぜこれだけのハイエンドモデルを開発できたのでしょうか。

「arrows」では5年ぶりのハイエンドモデル

「arrows」ブランドで知られる富士通コネクテッドテクノロジーズは、8月7日にオンラインで発表会を実施。5Gに対応したスマートフォンの新機種「arrows 5G」の詳細について発表しました。

arrows 5Gは、NTTドコモが7月30日に発売したFCNTの最新スマートフォンであり、多くの注目ポイントを備えています。その1つは、5Gの周波数帯のなかでも28GHzと周波数が非常に高く、より高速大容量の通信に対応した「ミリ波」に対応していること。国内メーカー製の5G対応スマートフォンでは唯一のミリ波対応スマートフォンとなっています。

  • NTTドコモが発売したFCNT製の「arrows 5G F-51A」。ミリ波に対応しながら7.7mmという薄さを実現するなど、攻めの姿勢が強いハイエンドの5Gスマートフォンだ

クアルコム製のハイエンド向けチップセット「Snapdragon 865」を搭載し、高度な3Dゲームのプレイに対応できる高い性能を備えています。さらに、プレイ中の発熱を抑えるベイパーチャンバー方式の放熱機構なども搭載しながら、7.7mmという非常に薄いボディデザインに仕上げているのも特徴。それでいて、本体をハンドソープで洗える防水・防塵性能を備えるなど、非常に“攻めた”内容のフラッグシップモデルに仕上がっていることが分かります。

FCNTでは、arrows 5Gを2017年発売の「arrows NX F-01K」以来となる3年ぶりのフラッグシップと位置付けています。ですが、F-01Kはミドルクラスのチップセットを採用していたことから、ハイエンド向けチップセットを搭載したフラッグシップモデルとしては同社初の存在といえ、前身の富士通時代から振り返ると2015年の「arrows NX F-02H」以来、約5年ぶりのハイエンド・フラッグシップモデルといえるでしょう。

そもそも、FCNTは2016年、競争激化による業績悪化を受けて富士通から分社化する形で設立され、2018年に投資ファンドのポラリス・キャピタル・グループに70%の株式を売却。現在も富士通が30%の株式を保有していますが、すでに富士通傘下ではなく独立系のスマートフォンメーカーとなっているのです。

  • FCNTは2016年に富士通から分社化され、2018年にはポラリス・キャピタル・グループに売却。すでに富士通傘下ではなく、実質的には独立系のメーカーとなっている

そうしたことから、FCNTは富士通時代と比べて事業規模が小さくなっており、現在同社が力を入れているのは「arrows Be」などのミドルクラス端末や「らくらくスマートフォン」などのシニア向け端末、そして法人向けの「arrows M」シリーズなど、非常に手堅い端末が多くなっています。開発コストがかかりリスクが大きいハイエンドモデルの開発からは離れていたはずの同社が、なぜarrows 5Gで再びハイエンドモデルを手掛けるにいたったのでしょうか。

  • 独立後のFCNTは、手堅い需要が見込めるシニア向けや、法人向けの「arrows M」シリーズなどに注力していた

パートナーとの共同開発で負担を軽減

そこには、同社にとって主力の取引先であるNTTドコモが、5Gの端末ラインアップをそろえたいという狙いが大きく影響したいえますが、先にも触れた通りFCNTは事業規模が小さく、5Gのハイエンドモデルの開発に大きなコストをかけることはできません。それゆえ、arrows 5Gの開発にあたっては、かなりの部分でパートナーとなる企業の協力を得ていることが分かります。

その1つがクアルコムです。というのもFCNTは、arrows 5Gの開発にあたってクアルコムと協業し、「Qualcomm Snapdragon 865 5G Modular Platform」を採用した5G対応スマートフォンのリファレンスデザインを開発しており、arrows 5Gはそれをベースに作られたモデルなのです。

Qualcomm Snapdragon 865 5G Modular Platformとは、チップセットのSnapdragonに加え、アンテナやモデム、無線通信を処理するRFフロントエンドなど、スマートフォンの動作や通信に必要な機器をパッケージ化して提供するもの。これを用いることで、多くのメーカーが5Gスマートフォンを早く開発できるようになることから、FCNTはその開発に協力することで自社の負担を減らしながら、早期にハイエンドの5Gスマートフォンを開発できたわけです。

  • FCNTの髙田克美社長(右)とクアルコム社長のクリスティアーノ・アモン氏(左)。arrows 5Gは、FNCTがクアルコムと共同開発したスマートフォンのリファレンスデザインを基に作られている

そしてもう1つはアドビです。arrows 5Gは、カメラに「Adobe Photoshop Express」の機能を取り入れており、「Photoshop Expressモード」で撮影すると、写真をAdobe Photoshop Expressで自動補正してくれる仕組みを備えています。

カメラはスマートフォンの人気機能ということもあって、ソフト・ハードともに開発競争が非常に激しく、規模が小さいFCNTには不利な部分でもあります。そうしたことから、画像処理技術に強みを持つアドビと提携してその技術を活用することにより、開発コストを抑えながら差異化を図っているのです。

  • arrows 5Gはカメラでも特徴を打ち出すべく、アドビの「Adobe Photoshop Express」の機能を取り入れ、撮影した写真を自動加工してくれる仕組みが備わっている

もちろん、FCNTが世界で名だたる大手企業をパートナーにして協業体制を取ることができたのには、同社が富士通時代から培ってきた高い技術を持っており、パートナー企業側にも開発面などでメリットを提供できるからこそといえます。それだけに、規模が小さいFCNTがスマートフォン市場で生き残るうえでは、そうした技術の蓄積をベースにしながら、いかに多くの企業との協力体制を敷くことができるかが重要といえそうです。