ソニーは2025年5月13日、スマートフォン「Xperia」シリーズの新機種「Xperia 1 VII」を発表しました。デジタルカメラの「α」やテレビの「BRAVIA」に加え、新たに音楽プレーヤー「ウォークマン」(WALKMAN)の技術を取り入れ機能・性能向上を図る一方、従来のXperia 1シリーズで力を注いできたゲーミングに関しては新機能がなく、注力の度合いが明らかに弱まっているようです。一体なぜでしょうか。

  • 「Xperia 1」シリーズの新機種「Xperia 1 VII」。従来のコンセプトを踏襲し、ソニーが得意とするカメラやオーディオなどの技術強化が図られている

有線イヤホンの音質強化にまで踏み込むこだわり

国内大手スマートフォンメーカーのなかでは、唯一の純粋な国内資本メーカーとなったソニー。そうしたこともあってか、同社のスマートフォン「Xperia」シリーズへの関心は依然高いのですが、スマートフォン事業の規模を大幅に縮小したこともあり、海外の大手メーカーと比べ円安や政府のスマートフォン値引き規制などの影響を受けやすく、非常に厳しい状況にあることもまた確かです。

それでもスマートフォンを継続提供しているソニーですが、2025年も5月13日に新機種の「Xperia 1 VII」を発表しました。これはその名前の通り、同社のフラッグシップモデル「Xperia 1」シリーズの最新機種となり、ソニーの技術をふんだんに盛り込んで開発されているのが大きな特徴です。

なかでも力が入れられているのは、やはりカメラです。Xperia 1シリーズはかねて、ミラーレスカメラ「α」シリーズの技術を取り入れ機能・性能向上を図ってきましたが、今回のXperia 1 VIIでは新たに、AI技術を活用したトラッキングなどを用いることで被写体を常にセンターに捉える「AIカメラワーク」や、同じくAI技術を活用して被写体を自動的にクローズアップし、引きと寄りの2つの写真が撮影できる「オートフレーミング」を追加。動く被写体の撮影が非常にやりやすくなっています。

  • 被写体を常に中心に捉えて撮影できる「AIカメラワーク」など、AI技術を用いたカメラ関連の機能強化が多くなされている

また、超広角カメラが大幅に強化されており、画素数が広角カメラと同じ約4800万画素で、なおかつイメージセンサーに前機種「Xperia 1 VI」より2.1倍大きい1/1.56型のものを採用。従来の超広角カメラより大幅に性能や画質が強化されており、「Exmor T for mobile」を搭載した広角カメラほどではないとはいえ、暗い場所での撮影にもかなり強くなっているようです。

  • カメラの構成自体は「Xperia 1 VI」と同様、超広角、広角、ズーム倍率が可変する望遠カメラの3眼構成だが、超広角カメラが大幅に強化され、暗所での撮影にも強くなった

Xperia 1 VIで仕様が大幅に変更され物議を呼んだディスプレイも、その変更が好評だったこともあってか、約6.5インチでFHD+解像度、かつ19.5:9比率というXperia 1 VIと同じ仕様を継続。こちらも、従来同様ソニーの薄型テレビ「BRAVIA」の技術を取り入れて画質向上を図ったほか、ピーク時の輝度を20%向上。前面だけでなく背面にも照度センサーを搭載することで、その場の照度をより正確にとらえ、より最適な輝度に合わせられるようになったとしています。

  • ディスプレイも、かつての21:9比率の4K解像度ではなく、Xperia 1 VIを踏襲した約6.5インチで19.5:9比率のFHD+解像度のものを採用している

そしてもう1つ、新たに取り入れられたのが音楽プレーヤー「ウォークマン」の技術です。Xperia 1シリーズは、これまでもオーディオ関連の機能・性能向上にとても力を入れてきましたが、今回はそれに加えてオーディオ端子部分に、ウォークマンで実績のある金(ゴールド)を加えた高品質はんだを用いることで、有線接続時の伝送によるロスをより減らし、ウォークマンと同等の音質を実現したとしています。

そもそも、近ごろはワイヤレスイヤホンの普及により、有線のイヤホンやヘッドフォンを接続する3.5mmのオーディオ端子は、スマートフォンから姿を消しつつあります。それにもかかわらず、あえてウォークマンの技術を取り入れて有線接続時の性能を上げようというXperia 1 VIIの取り組みからは、ソニーの音響に対する強いこだわりと、それだけオーディオにこだわりを持つ人達を取り込みたい狙いを見て取れます。

  • 新たに「ウォークマン」で実績のある技術を用い、有線ヘッドフォン接続時の音質を強化。ワイヤレスイヤホン全盛の中、有線接続のオーディオ性能を強化する取り組みは非常に珍しい

厳しい市況のなか、売れる要素にリソースをシフトか

ですがその一方で、Xperia 1 VIIで力の入れ具合が弱まっているのがゲーミングです。Xperia 1シリーズは、これまで「好きを極める」人に向けた機能強化を進めており、そのおもな対象となっていたのがカメラ、映像視聴、オーディオ、そしてゲーミングでした。

それゆえ、ソニーはこれまでXperia 1シリーズで、AAAクラスのゲームを積極的にプレイするコアゲーマー層に向けた機能の機能強化を進め、「Xperia 1 V」「Xperia 1 IV」ではゲーミングに特化した周辺デバイス「Xperia Stream」も提供。東京ゲームショウにも長年出展を続けてXperia 1シリーズのゲーミング性能をアピールしてきました。

  • ソニーは、2023年まで「東京ゲームショウ」にブースを出展し、Xperia 1シリーズのスマートフォンのゲーミング性能をアピールするなど、ゲーミングを注力領域の1つに位置付けていた

ですが、今回のXperia 1 VIIではゲーミングに関する新しい機能がなく、Xperia 1 VIまでの機能を踏襲するにとどまっています。もちろん、チップセットにはクアルコムのハイエンド向けとなる最新の「Snapdragon 8 Elite」を搭載しており、性能向上は図られているのですが、カメラやオーディオなど他の要素と比べると、明らかに力の入れ具合が弱まっている様子がうかがえます。

一体なぜ、ソニーはXperia 1 VIIでゲーミングへの注力を弱めたのでしょうか? 考えられる理由の1つに挙げられるのが、そもそもスマートフォンのゲーミングに関するニーズが減少していることです。

もちろん、スマートフォンゲーム自体は現在も人気ですし、ゲーム市場全体の売上でいえば、依然スマートフォンがコンシューマーゲーム機やパソコンなどを上回っている状況にあります。ですが、コアゲーマー向けとなるとその状況が大きく変わり、自宅にいる限り最高の性能を実現でき、カスタマイズ性も高くより快適なゲームプレイが可能なパソコンでのゲーミングが支持を得ている状況にあるのです。

一方でスマートフォンは、画面が小さくタッチ主体のインターフェースが主体で、本体の拡張性が弱いなどデバイス面での制約が多いこともあって、コアゲーマーの支持を失っており、コアゲーマーを対象としてきたゲーミングスマートフォンも苦戦が続いています。ソニーはそうした環境変化を受け、スマートフォンでのゲーミングを強化しても以前ほど購買にはつながらないと判断し、新機種でゲーミングへの注力を弱めたのではないでしょうか。

そしてもう1つ考えられるのは、厳しい市場環境を受けリソースを絞っている可能性です。実はソニーは例年、この時期にXperia 1シリーズだけでなく、ミドルクラスの「Xperia 10」シリーズの新機種も投入しているのですが、ソニーの関係者によると、2025年はXperia 10シリーズを秋ごろに投入する予定とのことです。

  • 2024年の「Xperia 10 VI」まで、Xperia 1シリーズの新機種と同時期に投入してきた「Xperia 10」シリーズだが、2025年は秋ごろの投入を予定しているという

ソニーは2024年より、従来秋に投入していた「Xperia 5」シリーズの新機種投入を見送っていることから、その代わりとしてXperia 10シリーズの新機種投入時期をずらしたと考えられます。その背景には、冒頭に触れた厳しい市場環境を受けながらもコストを抑え、大きな損失を出すことなくスマートフォン事業を継続するため、ソニーがスマートフォンの開発リソースを2機種に集中したことが影響しているでしょう。

そしてXperia 1シリーズの中でも同様に、コストを抑えるために注力する機能をより絞り込んで開発リソースを集中。それ以外の機能は据え置くという判断に至った結果、ゲーミング関連の強化が見送られたと考えられます。

ただ、ラインナップだけでなく機能面でも注力領域が減少していくと、Xperiaのターゲットとファンを減らすことにもつながってしまいます。スマートフォンが売れない現状で生き残るための苦肉の策とはいえ、一連の施策は将来を考えると少なからず不安も感じさせるところです。