米アップルがiPhoneの新製品「iPhone 16e」を発表しました。iPhone 16eは発表前から「iPhone SE」シリーズの後継となる低価格モデルとして期待されていましたが、日本での販売価格は99,800円からと、かつてのiPhone SEと比べ値段が大幅に高騰してしまっています。一体なぜでしょうか。

  • 米国時間の2025年2月19日に発表された「iPhone 16e」。「iPhone 16」と同じチップセットを搭載しながら、カメラを1つに減らすなどして低価格化したモデルで、事実上「iPhone SE」シリーズの後継と見られている

低価格の「iPhone SE」後継と期待されたが……

インフレでさまざまなモノの値段が上がっている昨今。とりわけスマートフォンは、ここ数年で大幅に価格が高騰してしまったことから、多くの人が新機種への買い控えをしているのが実情ではないかと思われます。

それだけに期待されているのが、安くて性能がいいスマートフォンではないでしょうか。とりわけ日本で利用者が最も多いiPhoneは、性能の高いモデルが多くもともとの値段が高かったにもかかわらず、値上げが進み政府によるスマートフォン値引き規制で携帯各社の大幅値引きも期待できなくなってしまっただけに、低価格のiPhoneが登場することを切望していた人は多いのではないでしょうか。

そこでとりわけ期待が高まっていたのが「iPhone SE」の後継モデルの登場です。iPhone SEシリーズは、最新のiPhoneに近しいチップセットを搭載するなど性能は非常に高いながらも、旧式のiPhoneのボディデザインを採用するなどしてコストを抑え、割安な価格で販売されるコストパフォーマンスの高いモデルとして長年人気を博してきました。

ですが、そのiPhone SEの最後のモデルとなる、第3世代のiPhone SEが発売されたのは2022年とおよそ3年前。デザインだけでなく性能面でも古さが出てきていただけに、モデルチェンジの声が高まっていたことも確かです。

そうした期待に応えてか、アップルは米国時間の2025年2月19日に「iPhone 16e」という新機種の投入を発表しました。その名前の通り、「iPhone 16」の派生モデルの1つという位置付けのようですが、iPhone 16シリーズと同じチップセットの「A18」を搭載しながら、カメラの数を1つに減らすなどして低コスト化を図っていることから、事実上iPhone SEの後継という見方が広がっているようです。

  • iPhone 16eは背面カメラを1つだけに簡素化するなどして、低コスト化を図っている

ですが発表後、とりわけ日本では多くの人の落胆を招いたようで、その理由は価格にあります。なぜなら、iPhone 16eの日本での販売価格は、Apple Storeの場合、最も安いストレージ128GBのモデルで99,800円と、10万円に迫る価格に設定されたからです。

第3世代iPhone SEが発売された当初の価格は、最も安いストレージ64GBモデルで57,800円、ストレージ128GBのモデルでも63,800円でした。その後値上げがなされ、それぞれ62,800円、69,800円となりましたが、それでもiPhone 16eと比べれば3万円以上安く販売されていただけに、iPhone 16eに同様の価格帯を期待していた人たちが失望の声を挙げるのも無理はありません。

  • iPhone 16eの発表に合わせてApple Storeでの販売が終了した「iPhone SE(第3世代)」。その価格は6万円台からだっただけに、iPhone 16eの価格高騰が一層際立つこととなった

活用できなかったiPhone SEのセオリー

一体なぜ、iPhone 16eは第3世代iPhone SEと比べそれほど大幅に上がってしまったのかといえば、最大の要因はもちろん円安です。

第3世代iPhone SEが発売された2022年ごろは、1ドルあたり110円台だった為替相場も、2025年現在では1ドルあたり150円台ぐらいにまで円安が進んでいます。発売当初、米国で429ドル(消費税抜き)だった第3世代iPhone SEの64GBモデルも、現在の為替価値で換算すると消費税込みで7万円程度となることから、為替相場の変動を考慮すれば値上げ幅はそこまで大きくないと見ることもできるでしょう。

ただiPhone 16eは、米国での販売価格も599ドルから(消費税抜き)と、100ドル以上の値上げがなされているだけに、為替だけが価格高騰の要因ではないことも確かです。そしてiPhone 16eの内容を見るに、iPhone SEシリーズのセオリーを踏襲できなかったことが価格高騰に大きく影響したと筆者は見ています。

そもそも、iPhone SEが低価格を実現できていたのは、ボディデザインだけでなく、ディスプレイやカメラなど、本体のあらゆる部材に旧モデルのものをそのまま採用していたためです。AI技術の活用や、4Gから5Gへの進化など時代の変化に応じてチップセットやモデムなどには変更を加えていますが、それ以外の部分は旧式の部材を用いて製造することで、低コストを実現していたのです。

実際、2016年発売の初代iPhone SEは2013年発売の「iPhone 5s」、第2世代(2020年発売)や第3世代(2022年発売)のiPhone SEは、2017年発売の「iPhone 8」をベースに開発がなされたと見られています。そしてiPhone 16eも、デザインやサイズ感、そして有機ELディスプレイとFace IDを搭載しながらDynamic Islandを採用していない点などから「iPhone 14」をベースに開発されたと見られているのですが、iPhone 14とまったく同じ仕様で開発されているわけではありません。

  • サイズやデザイン、ディスプレイなどから「iPhone 14」がiPhone 16eのベースモデルと見られているが、カメラの数が違うこともありまったく同じというわけではない

実際、iPhone 14は2眼カメラを搭載していましたが、iPhone 16eのカメラは1眼であるため背面デザインが異なりますし、充電に用いるケーブルもLightningからUSB Type-Cに変更されています。着信/サイレントスイッチに代わってアクションボタンが搭載されている点も、大きな変化といえるでしょう。

  • iPhone 16eはアクションボタンも搭載されており、この点もiPhone 14とは大きな違いといえる

それに加えて、モバイル通信に必要なモデムも、アップルが独自開発した「Apple C1」に変更されています。これは、他社からモデムを調達しなくてよくなる分コスト削減に寄与するものと考えられる一方、内部設計は何らかの変更が必要と考えられるだけに、やはりiPhone 14とまったく同じわけではない様子が見て取れます。

そうしたことを考えると、iPhone 16eは従来のiPhone SEのセオリーが通用しなくなったため価格を上げざるを得なくなり、AI技術を活用した「Apple Intelligence」に注力するアップルの方針もあってiPhone 16シリーズの1モデルとして提供するに至った、というのが正直なところではないでしょうか。

アップルがこうした姿勢を見せていることを考えれば、少なくとも現在の円安や政府の値引き規制が続く限り、iPhoneの新機種を安く買うことはもうできないと見るのが自然でしょう。残念ではありますが消費者の側も、iPhoneを選び続けるなら型落ちや中古に目を向ける、そうでなければより低価格のAndroid端末を選択肢に加えるのが現実的ではないでしょうか。