「Yahoo! Japan」を展開するヤフーを傘下に持つZホールディングスと、「LINE」を展開するLINE社が経営統合することを発表しました。経営統合後の企業の実質的な親会社となるのはソフトバンクです。このことが、携帯電話業界にどのような影響を与えると考えられるのでしょうか。

驚きを与えた2社の経営統合、今後はソフトバンク主導に

2019年11月18日、日本のインターネット業界を大きく揺るがす発表がなされました。それは、ポータルサイト「Yahoo! Japan」を展開するヤフーを傘下に持つZホールディングスと、メッセンジャーアプリ「LINE」を展開するLINE社が経営統合すると発表したことです。

  • 「Yahoo! Japan」のヤフーを傘下に持つZホールディングスと「LINE」を運営するLINE社が経営統合を発表した

    「Yahoo! Japan」のヤフーを傘下に持つZホールディングスと、「LINE」を運営するLINE社は、2019年11月18日に経営統合を発表。大きな驚きをもたらした

Yahoo! Japanは日本最大のポータルサイト、LINEは日本で最も利用者が多いメッセンジャーアプリとして知られていますが、それらを展開する企業同士が経営統合するというのですから、大きな驚きがあったのは事実でしょう。そんな両社がなぜ経営統合に至ったのかというと、最近よく耳にするようになった「GAFA」などに対する危機感があったようです。

GAFAとは、グーグル、アップル、フェイスブック、アマゾン・ドット・コムの4社を指しており、これら4社は世界的に非常に大きな規模を持つインターネット企業として知られています。インターネットサービスは企業規模の大きさで勝負が決まってしまう世界でもあり、ヤフー、LINE社ともに売上や利益、研究開発費などすべてにおいてGAFAにまったくかなわない規模であることに強い危機感を抱いていたことから、巨大企業に少しでも対抗できるよう規模を追求するべく、経営統合に至ったようです。

  • 両社が経営統合に至ったのには、「GAFA」など米中の巨大インターネット企業に大きく差を付けられていることから、対抗するには規模の追求が必要という判断が働いたようだ

このことはもちろん、インターネット業界という視点で見ると非常に大きな話なのですが、実は携帯電話業界にも大きな影響を与える経営統合でもあります。その理由は、実質的に合併後の両社を主導するのがソフトバンクだからです。

ヤフーを収めるZホールディングスは日本のソフトバンクの子会社、LINE社も韓国のインターネット大手であるネイバーの子会社であることから、今回の経営統合に際しては、ソフトバンクとネイバーが共に半分ずつの比率の株式を持つとされています。ですが、統合後の会社はソフトバンクの連結対象となるため、ソフトバンクの主導権がやや強い経営統合となっているのです。

携帯電話の競争軸は端末からネットサービスに

ソフトバンクが両社の主導権を持つことが何を意味するのかというと、それはソフトバンクとヤフーの取り組みから見て取ることができるでしょう。

というのも、ソフトバンクはここ数年来、携帯電話サービスにおいてYahoo! Japanとのサービス連携を大幅に強化しており、2015年には会員登録やIDの入力などが不要でYahoo! Japanのサービスが利用できる「スマートログイン」を提供。さらに2018年には、有料サービスの「Yahoo!プレミアム」のサービスを無料で利用できるようにするなど、さまざまな優遇策を打ち出しているのに加え、2019年にはヤフーを持つZホールディングス自体を子会社化しています。

  • ソフトバンクは2015年より、IDやパスワードの入力が不要でYahoo! Japanへのログインができる「スマートログイン」などを提供し、連携を強めている

それだけに、ヤフーとLINE社が経営統合したことで、Yahoo! JapanだけでなくLINEが提供するサービスに関しても、今後ソフトバンクのスマートフォン利用者に何らかの優遇策が提供されることが考えられるわけです。では一体なぜ、ソフトバンクがYahoo! Japanだけでなく、LINEとの連携を強化する必要があるのかといえば、そこに大きく影響しているのが総務省が推し進めてきたスマートフォンの値引き規制です。

携帯電話会社同士の競争はこれまで、いかにスマートフォンの価格を大幅に引き下げて他社から契約者を奪うかに力が注がれてきました。ですが、2019年10月の電気通信事業法改正によってスマートフォンの値引きには非常に大きな規制がなされてしまい、従来通りの競争施策を進めるのは困難になってしまいました。

そうしたことからいま加速しつつあるのが、通信料とインターネットサービスを一体で提供することで、お得に利用できるようにするという競争です。つまり、端末の値引きが規制された代わりに、有力インターネットサービス事業者と手を組んで特定のサービスを値引き、あるいは無料で利用できるようにする施策を打つことで、料金プランの魅力を高めようとしているわけです。

実際、KDDI(au)は2018年より、Netflix(ネットフリックス)の映像配信サービスをセットにしてお得に利用できる料金プランをいくつか提供しています。NTTドコモも2019年12月1日より、新料金プランの1つ「ギガホ」の契約者であれば、アマゾンジャパンの「Amazonプライム」が1年間無料で利用できる「ドコモのプランについてくるAmazonプライム」の提供を開始するなど、インターネットサービス大手と手を組んで携帯電話料金とサービスのセットに力を入れている様子を見て取ることができます。

  • 携帯電話会社がインターネット大手と連携を図る動きは増えており、NTTドコモは新料金プラン「ギガホ」の利用者に、「Amazonプライム」が1年間無料で利用できる施策を打ち出している

そうしたことから、ソフトバンクもライバルに対抗するべく、経営統合が実現すれば実質的に傘下となるYahoo! JapanとLINEの双方と積極的に連携し、競争力強化を図る可能性が高いでしょう。両社の統合がインターネットサービスとしてだけでなく、ソフトバンクのサービス強化にどこまで影響してくるのかも、今後大いに注目されるところではないでしょうか。

著者プロフィール
佐野正弘

福島県出身、東北工業大学卒。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。