オッポがテレビCMを積極展開し、シャオミが日本市場進出を明らかにするなど、世界的に高いシェアを持つ中国スマートフォンメーカーが日本市場に力を入れる動きが再び加速しています。一方で、ファーウェイ・テクノロジーズのように、中国企業は米中摩擦の影響を強く受けてしまうのも事実。中国企業は逆風がある中にありながら、どのようにして日本市場開拓を進めていこうとしているのでしょうか。
スマホの値引き規制が日本市場開拓の契機に
「格安スマホ」のブームに乗って、日本市場で急速に台頭してきた中国のスマートフォンメーカー。その後、携帯電話大手の攻勢による格安スマホブームの終焉、そして米中摩擦の影響により一部メーカーの製品開発やサポートが困難になるなど、さまざまな要因によってその後勢いを失っていましたが、最近再び攻勢を強めているようです。
そのことを象徴しているのがオッポの動きです。オッポの日本法人であるオッポジャパンは、2019年10月18日にスマートフォン新機種「Reno A」を発売したのですが、その際同社はプロモーションを大幅に強化。タレントの指原莉乃さんを起用したテレビCMを展開するなど、大規模なプロモーションでReno Aをアピールしています。
Reno Aは、6.4インチの大画面有機ELディスプレイやデュアルカメラを搭載したスマートフォンです。本体は耐水・防塵性能を備え、FeliCaの搭載で「おサイフケータイ」が利用できるなど、日本市場に向けた機能を大幅に強化。それでいて価格は税別3万5800円と安価な設定となっており、日本市場向けの戦略モデルと位置づけられた製品です。
オッポの日本進出は2018年とかなり最近ではあるのですが、こうした動きを見ると、いかにオッポが日本市場攻略に力を入れているかが分かります。ですが、日本市場開拓に力を入れようとしているのはオッポだけではありません。
オッポと並ぶ中国のスマートフォン大手で、世界4位のシェアを獲得するシャオミも、ここ最近日本進出を明らかにしたことで大きな話題となりました。シャオミは、高性能なスマートフォンを低価格で提供するというコストパフォーマンスの高さで新興国を中心に人気を獲得しているメーカーですが、そのシャオミが日本への進出を本格化させたことは驚きを与えました。
なぜ、これら中国のスマートフォンメーカーが、同じようなタイミングで日本市場へ攻勢をかけてきたのかといえば、2019年10月に実施された電気通信事業法の改正が大きいといえるでしょう。この法改正によって、携帯電話大手はスマートフォンの大幅値引き販売ができなくなったことから、携帯電話大手とのコネクションを持たない、あるいはコネクションが薄い中国メーカーにとって、非常に大きなチャンスが生まれたのは確かです。
中国の大手メーカーは、特徴的な機能や装備を持つ高性能スマートフォンを多く提供してはいますが、やはり最大の強みとなっているのは、新興国を中心に多数のスマートフォンを販売している強みを生かした、コストパフォーマンスの高いミドル&ローエンドのスマートフォンです。値引きなしでも十分に安いスマートフォンのラインアップを豊富に揃えていることを強みとして、再び中国メーカーが攻勢に出てきたといえるでしょう。
米国に先んじて開拓したいIoT市場が真の狙いか
ですが、それでも懸念されるのが米中摩擦の影響です。すでに、ZTEやファーウェイ・テクノロジーズが米国から制裁を受け、日本のビジネスでも大きな影響が出たことは記憶に新しいと思います。
もちろん、すべての中国メーカーが米国から制裁を受けるわけではありません。それでも、一連の制裁によって日本の携帯電話大手も大きな影響を受けたことから、中国メーカーの採用には慎重になっていることが懸念されます。大幅値引きがなくなったとはいえ、スマートフォンの販売数が多いのはやはり携帯電話大手になりますので、そこで信頼を得ることができないとなれば、中国メーカーにとって厳しい環境であることに変わりありません。
では、そうした逆風下で、中国メーカーはどのような策をもって日本市場開拓を進めようとしているのでしょうか。その鍵となりそうなのが、現在も米国から制裁を受けているファーウェイ・テクノロジーズの動向です。
同社の日本法人であるファーウェイ・ジャパンは、2019年11月14日に新製品発表会を実施しましたが、その際に同社の日本・韓国リージョンプレジジテントである呉波氏は、制裁によってグーグルのアプリなどをまとめた「GMS」(Google Mobile Services)を同社のスマートフォンにプリインストールできない代替として、独自の「HMS」(Huawei Mobile Services)に力を入れ、賛同するアプリ開発者を募るなどして新しいエコシステム構築を推し進める方針を示していました。
もっとも呉波氏は、スマートフォンではこれまで通り、AndroidとGMSの搭載を優先したいと話していました。ですが一方で、呉波氏は日本でも「1+8+N」戦略を推し進めることを打ち出しています。
これは、すでに中国などでは進められている戦略で、「1」となるスマートフォンを軸に、ウェアラブルデバイスやスマートディスプレイなど「8」となるスマートデバイス、そして「N」を構成する多数のIoT機器を連携させ、AI技術を活用した新しい生活体験を提供するもの。この「8」や「N」を構成する機器には、ファーウェイ独自のOS「Harmony OS」を搭載し、さらにそのエコシステムとしてHMSを活用する方針も示していたのです。
このことは、同社が今後スマートフォン以外で、HMSによる独自のエコシステムを重視していく方針を示したともいえるでしょう。特に、5G時代に入るとIoT機器の重要性が高まるとみられていることから、同社は一層、米国の制裁に左右されないIoTのエコシステムを重視していくものと考えられそうです。
こうしたファーウェイ・テクノロジーズの戦略が他のメーカーに当てはまるとは限りませんが、日本進出を表明したシャオミもスマートフォンだけでなく、家電などさまざまな機器を提供していることから、同様の戦略は取りやすいと考えられます。それだけに、中国メーカーにとって、日本におけるスマートフォン販売の強化はあくまで市場開拓の足掛かりに過ぎず、それを契機としてIoTの機器販売を拡大し、独自のエコシステムを定着させることが大きな狙いと見ることもできそうです。
著者プロフィール
佐野正弘
福島県出身、東北工業大学卒。エンジニアとしてデジタルコンテンツの開発を手がけた後、携帯電話・モバイル専門のライターに転身。現在では業界動向からカルチャーに至るまで、携帯電話に関連した幅広い分野の執筆を手がける。