韓国サムスン電子は、2024年7月10日に折りたたみスマートフォンの新機種「Galaxy Z Fold6」「Galaxy Z Flip6」を発表。生成AI技術を積極的に取り入れた機能を豊富に揃え、「折りたたみAIフォン」をうたう両機種ですが、AI技術に注力する同社の姿勢からは、折りたたみスマートフォンを巡る苦悩も見え隠れします。

ハードの進化より「Galaxy AI」を積極アピール

折りたたみスマートフォンの先駆者であるサムスン電子は、2024年7月10日にフランス・パリで発表イベントを実施し、新しい折りたたみスマートフォン「Galaxy Z Fold6」「Galaxy Z Flip6」の2機種を発表しました。

  • サムスン電子が2024年7月10日に発表した折りたたみスマートフォンの新機種「Galaxy Z Flip6」(左)と「Galaxy Z Fold6」(右)。日本でも2024年7月31日に発売された

これらはともに、横折り型の「Galaxy Z Fold」シリーズと、縦折り型の「Galaxy Z Flip」シリーズの最新モデル。とりわけ変化が大きかったのがGalaxy Z Fold6で、本体を閉じた時の横幅が68.1mm、重量が239gと、ストレートタイプのハイエンドスマートフォンに近いサイズ感に近づいたほか、閉じた時の厚さも12.1mmと薄型化が図られ持ちやすくなっています。

一方のGalaxy Z Flip6も、見た目上の変化は少ないですが、従来機種での不満要素だった広角カメラのイメージセンサーを5000万画素のものに変更したほか、バッテリー容量も4000mAhに増量。折りたたみスマートフォン特有の“折り目”もより目立たないものになるなどさまざまな改善を加えており、着実に進化している様子が見て取れます。

ですが、サムスン電子が両機種の特徴として強くアピールしているのが「Galaxy AI」です。これはサムスン電子独自のAI技術で、2024年のフラッグシップモデルの1つ「Galaxy S24」シリーズでもGalaxy AIを活用した機能を大きな特徴として打ち出していました。

それだけに、折りたたみタイプとなるGalaxy Zシリーズの新機種に関しても、各機種の特徴を生かしたGalaxy AI関連機能が積極的にアピールされていました。なかでも、Galaxy Z Fold6は広い画面でペンによる操作が可能で、なおかつ独自のノートアプリ「Samsung Notes」をビジネス用途に活用しやすい点を生かし、昨今注目されている生成AIの技術を活用したビジネス関連の機能充実を図っています。

実際Galaxy Z Fold6では、Samsung Notesで録音した音声の文字起こしや要約などができるほか、WebサイトだけでなくPDFファイルを翻訳することなども可能。通訳アプリの「リスニングモード」を活用することで、外国語の講演などもリアルタイムで翻訳できるようになったほか、独自の「Samsungキーボード」を用いれば、簡単なキーワードからメールの文章を生成することも可能です。

  • ボイスレコーダーアプリで文字起こしができるなど、「Galaxy AI」を活用した機能が多くのアプリで利用可能となっている

ビジネス関連以外でのAI活用も強化されており、写真の生成AI編集機能には「AIスケッチ」を追加。簡単なスケッチからリアルな画像を生成して写真に追加できるようになったほか、顔写真をさまざまなタッチのイラストに変換する「ポートレートスタジオ」などの機能も用意されています。これらの機能のうち、Samsung Notesに依存しないものはGalaxy Z Flip6でも利用可能なことから、とりわけポートレートスタジオなどは多く利用されることになりそうです。

  • 写真にGalaxy AIを活用した機能も拡張されており、顔写真をイラスト化する「ポートレートスタジオ」などが新たに追加されている

早くも大衆化が進む折りたたみスマホ

それだけGalaxy AIを前面に打ち出しているだけあって、サムスン電子はGalaxy AIを取り入れた同社の折りたたみスマートフォンを、今後「折りたたみAIフォン」としてアピールしていく方針のようです。ですがなぜ、サムスン電子はなぜそこまで“AI推し”なのか? という点も気になるところです。

確かに、オープンAIの「ChatGPT」が注目を集めて以降、世界中で生成AIの大きなブームが起きているだけに、現在はありとあらゆる企業が生成AIの活用を打ち出すなど、生成AIブームの真っ只中にあることは確か。それゆえ、サムスン電子も生成AIの取り組みを強く打ち出してトレンドを押さえたい狙いがあるのでしょうが、昨今のスマートフォン市場を見ると、それだけにはとどまらない理由も見えてきます。

実は、世界的に見ると折りたたみスマートフォンを巡る競争はとても激化しており、とりわけこの分野で攻勢をかけているのが中国メーカーです。折りたたみスマートフォンは以前、開発にあたってディスプレイやヒンジなどの高い技術が求められたことから、作れるメーカーもサムスン電子など一部に限られていました。

  • サムスン電子の初代折りたたみスマートフォン「Galaxy Fold」が登場した時、折りたたみスマートフォンの開発ハードルは非常に高かったが、その後部材の汎用化が急速に進み、多くのメーカーが開発できるようになった

ですが、数年のうちにそうした技術の汎用化が急速に進み、必要な部材などを購入することで開発も容易になっているのです。それゆえ、中国の新興企業を中心として折りたたみスマートフォンを積極開発するメーカーが増え、価格競争も加速しています。

その状況は日本でも実感できるようになってきており、2023年に米モトローラ・モビリティが発売した縦折りタイプの「motorola razr 40」は12万円台と、折りたたみスマートフォンとしてはかなり安い価格を実現。2024年に入ると、中国ZTEがソフトバンクのワイモバイルブランドから販売した縦折りタイプの「Libero Flip」が6万円台、そのベースモデルとなる「nubia Flip 5G」が7万円台と、破格の安さを実現したしたことで大きな話題となりました。

  • ワイモバイルから6万円台で販売され話題となった「Libero Flip」のベースモデルというべきZTEの「nubia Flip 5G」も79,800円からと、8万円を切る価格で販売されている

価格競争によって折りたたみスマートフォンの大衆化が急速に進んでいるだけに、「折り畳める」というハード面だけを特徴とすることも難しくなりつつあります。それだけに、折りたたみスマートフォンの先駆的存在であるサムスン電子も、Galaxy Zシリーズの価値を落として価格競争に巻き込まれないため、ハード面の進化だけでなくAIという新たな付加価値を付ける必要に迫られた、というのが正直なところではないでしょうか。

ただ、そのAI機能に関しても、文字起こしの精度など日本語の処理にはまだ課題があると感じる部分も少なからずあり、現時点ではどこまで差異化に結びつくのか未知数な部分もあります。サムスン電子が、今後さらに増えるであろう競合の折りたたみスマートフォンとの競争に勝ち抜くためには、ハード性能の強化とAI性能の強化という両面が求められ、非常に難しい立場にあることは間違いないといえます。