オッポやシャオミといった新興の中国メーカーが、FeliCaに対応し「おサイフケータイ」などが利用できるSIMフリースマートフォンを相次いで投入している。とりわけ低価格が求められるSIMフリー市場では、コストアップの要因となるFeliCa対応に消極的なメーカーが多かったが、なぜこれらの企業はFeliCa対応を積極化しているのだろうか。

SIMフリー向けの「Mi 11 Lite 5G」もFeliCa対応

2021年6月24日、中国のシャオミは日本向けの新製品発表会を実施したのだが、中でも注目されたのがスマートフォン新機種「Mi 11 Lite 5G」である。この機種は発表会の前から、シャオミが自らSNS上で投入する機種名と値段を明らかにするという、異例の発表スタイルが取られたことでも注目を集めた。

Mi 11 Lite 5Gは同社のミドルクラスのスマートフォン新機種で、海外では2021年2月に発表されたもの。6.55インチの有機ELディスプレイと3眼カメラ、クアルコムのミドルハイ向け最新チップセット「Snapdragon 780G」を搭載しながら、厚さ6.81mm、重量159gと薄型・軽量で、なおかつ5Gにも対応しているのが大きな特徴だ。

  • シャオミが2021年7月2日に発売予定の「Mi 11 Lite 5G」

    シャオミが2021年7月2日に発売予定の「Mi 11 Lite 5G」。最新チップセットや有機ELディスプレイを搭載し、FeliCaにも対応しながら4万円台と購入しやすい価格となっている

シャオミはそのMi 11 Lite 5Gを、日本では市場想定売価43,800円で販売することを明らかにしているのだが、注目されたのはFeliCaに対応し、「おサイフケータイ」「Google Pay」などによるスマートフォンでの決済が利用できることだ。

もちろんシャオミがFeliCa対応機種自体を投入するのは初めてのことではなく、2021年2月からソフトバンクより販売されている「Redmi Note 9T」もFeliCaに対応している。だがMi 11 Lite 5Gは、販売数量が見込める携帯大手向けではなく、それより規模が小さいとされるSIMフリー市場向けであるという点が大きなポイントとなっている。

というのもこれまでの傾向から、外資系のメーカーはSIMフリー市場向けのスマートフォンにFeliCaを搭載しない傾向が強かった。それだけにシャオミがあえて日本のSIMフリー市場向けにFeliCa搭載機種を投入したのには驚きがあったのだが、同様の対応を進めているのはシャオミだけではない。

同じ中国のオッポも、日本のSIMフリー市場向けにFeliCaや防水・防塵といった日本向けカスタマイズを施したスマートフォン「Reno A」シリーズを、SIMフリー市場向けに継続的に投入。2021年6月11日より販売されている最新の「OPPO Reno5 A」では、FeliCaだけでなく5Gにも対応させている。

  • オッポもFeliCaに対応したミドルクラスの「Reno A」シリーズを継続的に投入しており、最新の「OPPO Reno5 A」は5Gにも対応している

そしてOPPO Reno5 Aも、性能的に見ればミドルハイクラス相当で、6.5インチのディスプレイを搭載するなどMi 11 Lite 5Gに近しい部分が多い。そうしたことからシャオミは、ある意味Reno Aシリーズの対抗馬としてMi 11 Lite 5GにFeliCa対応のカスタマイズを施して投入してきたといえそうだ。

コストを抑えながら日本市場への本気度をアピール

だが先にも触れた通り、従来外資系のメーカーは、SIMフリー市場向けには海外向けのスマートフォンをほぼそのままの形で投入する傾向が強く、FeliCaへの対応には消極的だった。それは日本向けにFeliCaへのカスタマイズを施すことがコストアップ要因となるため、価格重視の傾向が強く販売数量も少ないSIMフリー市場ではリスクが大きいと判断したが故だろう。

にもかかわらず、シャオミやオッポといった後発の外資系スマートフォンメーカーは、SIMフリー市場向けにもFeliCa対応のカスタマイズを施したモデルを積極投入している。その理由はやはり、日本で最後発の参入であることが大きいといえる。

両社は共に世界のスマートフォン出荷台数シェアでは5本の指に入る大手だが、日本に参入したのはオッポが2018年、シャオミが2019年とごく最近のこと。両社ともに価格競争力に強みがあることから、SIMフリー市場でトップシェアを獲得していたファーウェイ・テクノロジーズが米国の制裁によりスマートフォン事業の縮小を余儀なくされた穴を埋める形で、SIMフリー市場を中心に急成長を遂げてきた。

だが両社ともに日本国内では新興のメーカーに過ぎず、さらなる販売拡大のためにはスマートフォンに詳しくない人からの知名度や信頼を得ることが不可欠となる。そのためには日本で販売されている多くのスマートフォンに搭載されているFeliCaを搭載することが重要と判断し、SIMフリー市場向け端末でもFeliCa対応を推し進めるに至ったといえそうだ。

とはいえ、他の国でほとんど使われていないFeliCaへの対応がコストアップ要因となることも確かなので、2社とも全てのモデルをFeliCaに対応させている訳ではない。実際オッポは日本で、Reno Aシリーズの他にも高性能のフラッグシップモデル「Find」シリーズや低価格の「A」シリーズも展開しているが、これらシリーズの端末にはFeliCaへの対応がなされていない。

  • オッポの最新フラッグシップ「OPPO Find X3 Pro」。こちらはSIMフリーだけでなくKDDIのauブランドからも販売されるが、いずれもFeliCaには対応していない

低価格が強く求められるAシリーズでは、カスタマイズコストを上乗せすると価格競争力が失われてしまうし、Find Xシリーズは端末価格が高く、カスタマイズした分のコストをペイできるほど販売数量が見込めない。一方でReno Aシリーズは、ミドルクラスなので販売数量が見込める一方、価格が必ずしも最重要ポイントではないこともあって、FeliCa対応を施すモデルに選ばれたといえる。

シャオミも同様に、FeliCaに対応させたMi 11 Lite 5Gは同社のブランドの中では上位の「Mi」シリーズであり、価格重視の「Redmi」シリーズではない。RedmiシリーズにFeliCaを搭載すると価格面のインパクトが失われることから、やはり性能と販売数量のバランスが取りやすいMiシリーズのミドルクラスに対象を絞ったといえそうだ。

  • Redmiシリーズの最新機種「Redmi Note 10 Pro」は、ハイエンド級の機能を備えながら3万円台というのが特徴であるなど、価格重視の姿勢が強いモデルとなっている

それゆえ今後も、両社がSIMフリー市場向けにFeliCa対応端末を投入するとすればミドルクラスが主体になると考えられるが、一方で最近は「povo」「LINEMO」など、携帯電話会社がスマートフォンを販売しないオンライン専用プランの人気が高まっており、それはSIMフリー市場の新たな顧客拡大にもつながる可能性がある。それだけに、市場拡大によってFeliCa対応端末の幅が増えることにも期待したい所だ。