ファーウェイ・テクノロジーズは2020年3月16日、5G対応スマートフォンスマートフォン新機種「HUAWEI Mate30 Pro 5G」を発表した。だが米国による制裁の影響から、従来のAndroidスマートフォンで一般的な「Googleマップ」「Google Play」などグーグルのサービスはなく、「AppGallery」など独自のアプリやサービスが搭載されている。一体これらはどのようなものなのだろうか。

搭載できない「GMS」の代わりに「HMS」を採用

米国からの制裁を受けている中国のファーウェイ・テクノロジーズ。その影響によって、自社のスマートフォン新製品に「Gmail」や「Google Play」など、米国企業であるグーグルのサービスをまとめた「Google Mobile Services」(GMS)のライセンスが受けられない状況が続いている。

2019年11月に発売されたミドルクラスのスマートフォン「HUAWEI nova 5T」は、制裁前にライセンスを受けて開発されたことから、GMSが搭載されて販売されていた。だがそれ以降に開発した製品にはGMSが搭載できないためか、国内でのスマートフォン新機種の投入は滞っていた。

  • ファーウェイは、日本市場に向けてスマートフォン新機種「HUAWEI Mate30 Pro 5G」を投入する

    米国の制裁の影響もあってか、2019年11月に発売した「HUAWEI nova 5T」以降、ファーウェイ・テクノロジーズは日本でのスマートフォン新機種を投入していなかった

しかしながら2020年3月16日、同社は日本市場に向けて、スマートフォン新機種「HUAWEI Mate30 Pro 5G」を投入することを発表したのだ。これは同社のハイエンドモデルの1つ「Mate」シリーズの最新モデルであり、6.53インチの大画面有機ELディスプレイと、4つのカメラを搭載した強力なカメラ機能が特徴の5G対応スマートフォンである。

  • ファーウェイ・テクノロジーズが日本への投入を発表した「HUAWEI Mate30 Pro 5G」。5G対応のハイエンドスマートフォンで、SIMフリーでの販売となる

ただ「HUAWEI Mate30」シリーズは2019年10月に発表されており、例年であれば日本でも、Mateシリーズの最新モデルは秋頃に発売されていた。国内では2020年となった5Gの商用サービス開始時期に合わせて投入したともいえるが、同機種にはGMSが搭載できないことから、戦略の練り直しがあった可能性も考えられる。

だが今回、同機種の投入を打ち出したことで、ファーウェイ・テクノロジーズは日本でも、スマートフォンにGMSを搭載せずに販売する方針へと踏み切ったといえるだろう。ではGMSの代わりに何を搭載するのかというと、同社独自のサービスをまとめた「Huawei Mobile Services」(HMS)である。

中国で展開していたサービスを世界向けに拡大

ファーウェイ・テクノロジーズのお膝元である中国では、グーグルが撤退して久しいことから、中国市場で販売されているスマートフォンにはそもそもGMSが搭載されていない。その代わりとしてスマートフォンメーカー各社は独自のサービスやアプリストアなどを搭載しており、HMSも元々は中国市場向けに、ファーウェイ・テクノロジーズが独自に用意したサービスとなる。

だがファーウェイ・テクノロジーズは、米国の制裁でGMSのライセンスが受けられない状況が長期化すると判断し、HMSの世界展開に踏み切った。それゆえHMSには、「Gmail」「Googleマップ」などの代わりとなるアプリが用意されているのだが、その中核となるのは「Google Play」の代替となるアプリストアの「AppGallery」であろう。

  • AppGalleryは中国での利用者が多いことから、アプリストアとしてはGoogle Play、AppStoreに次ぐ3位の規模になるという

実はAppGalleryは、同社製のスマートフォンが販売されている170以上の国で既に提供されており、日本で販売されている同社製の端末のいくつかにも、既にプリインストールされているものだ。同社がスマートフォン出荷台数で世界2位のシェアを獲得していることもあってか、月間アクティブユーザーが400万を抱えているとのことで、Google Playと「AppStore」に続く、第3のアプリストアになっているという。

  • AppGalleryには中国だけでなく、世界各国のアプリも登録されるようになっているが、その数はGoogle Playなどと比べれば開きがある

とはいえアプリの充実度合いを見ても、中国以外では上位2サービスとの差が大きいというのもまた事実である。そうしたことからファーウェイ・テクノロジーズでは、10億米ドルを費やした開発者支援プログラム「シャイニングスタープログラム」を展開するなど、アプリ開発者の支持を集めてAppGalleryに登録するアプリの数を世界的に増やす取り組みに力を入れているようだ。

  • 10億米ドルを費やした開発者支援プログラム「シャイニングスタープログラム」を展開するなど、世界的なアプリ開発者の支持獲得に積極的に動いている

    10億米ドルを費やした開発者支援プログラム「シャイニングスタープログラム」を展開するなど、世界的なアプリ開発者の支持獲得に積極的に動いている

今回発売されるHUAWEI Mate30 Pro 5Gは、ハイエンドモデルということもあって市場想定価格が12万8800円とかなり高いことから、仮にGMSを搭載していたとしてもそれほど販売が大きく伸びるモデルという訳ではない。それゆえ同機種は、ある意味日本国内でHMSがどこまで受け入れらるか、様子を見るために投入されたともいえそうだ。

それゆえこの機種でHMSが高い評価を受ければ、同社の人気モデルとなるミドルクラスの「Lite」シリーズにもHMSを搭載して販売し、再び拡大路線を取る可能性が高いだろう。だがHMSが国内で受け入れられるには、単にAppGalleryのアプリ数を増やすだけでなく、世界的に使われているサービスをどこまで取り込めるか、そしてアップルも苦しんだ、Googleマップの代替となる精度の高い地図アプリを用意できるかなど、課題が多くあるのも事実だ。

それだけに、HUAWEI Mate30 Pro 5G発売後にHMSがどう評価されるかというのは、今後の日本市場におけるファーウェイ・テクノロジーズの動向を見極める上でも重要な意味を持つといえそうだ。