シャープは2025年5月29日、スマートフォン新機種「AQUOS R10」「AQUOS wish5」の発売を発表した。それぞれ前機種となる「AQUOS R9」「AQUOS wish4」のデザインやコンセプトは継続しながらも、AIやセキュリティ関連の機能を高めるなどして順当な進化を遂げたモデルとなるが、一方でAQUOS R10のチップセットやメモリがAQUOS R9と変わっていないなど、ベースの性能進化はかなり限定的だ。一体なぜだろうか。
大きく変化した前モデルを踏襲したシャープの新機種
夏商戦に向けたスマートフォン新機種が各社から相次いで発表されているが、2025年5月29日に新機種を発表したのがシャープだ。2024年には従来のデザインを大きく変え、新しいハイエンドモデルとして投入した「AQUOS R9」が賛否を呼んだことが記憶に新しいが、シャープによると一連の変更は利用者からおおむね好評だったそうで、2025年の新機種はその路線を継続しながらブラッシュアップを図ったモデルとなるようだ。
新機種の1つ「AQUOS R10」もそのデザインを見ると、AQUOS R9と同様、「miyake design」のデザイン監修を受けており、カメラ部分が円とも四角とも言えない独特な自由曲線のデザインを継承。カメラを独ライカカメラが監修している点も変わっておらず、AQUOS R9の路線をしっかり踏襲していることが分かる。
一方で、AQUOS R10は各機能のブラッシュアップに力を入れており、ディスプレイにはピーク輝度が3000ニトとより高いものを採用し、HDR非対応の動画も明るく鮮やかに映し出す「バーチャルHDR」に対応。サウンド面でも、大型のスピーカーBOXを本体上下に搭載するとともに、上部のスピーカーBOXはフルメタル化することで音圧を高めているという。
またカメラに関しても、標準カメラのイメージセンサーを1/1.55インチに進化させたほか、上位モデルの「AQUOS R9 Pro」で採用している「14chスペクトルセンサー」を新たに搭載。色味の調整が難しい室内でも自然な色合いを実現するとしている。
昨今話題のAI技術を活用した機能に関しても、いくつかの強化がなされている。AI技術で写真の影を消す機能は料理に加え新たにテキストにも対応し、スマートフォンの決済サービスなどを利用する際に求められることが多いクレジットカードや免許証などを撮影する際に役立つという。また通話内容を文字起こししてメモを生成・要約する機能では、その内容に日時が含まれている場合、カレンダーへの予定追加を自動で提案してくれる機能が追加された。
もう1つの新機種となるエントリーモデルの「AQUOS wish5」も同様に、自由曲線を採用したデザインや、6.6インチの大型ディスプレイといった、「AQUOS wish4」で大きく変わったコンセプトは維持。その上で、新たに本体を振ることで発動できる「防犯アラート」機能を追加したほか、80度の高温や高圧の水流にも耐えられる「IP69」の防水・防塵性能に対応し、安心して利用できる機能・性能が向上。ディスプレイのリフレッシュレートも120Hzに対応するなど、使い勝手の面でも向上が図られている。
価格に重きを置くと性能向上は難しくなる
ただ一方で気になるのが、ベースとなるハード面の進化に乏しいことであり、特にそのことが顕著に現れているのがAQUOS R10である。実際AQUOS R10の基本性能を確認すると、チップセットに米クアルコム製のミドルハイクラス向けとなる「Snapdragon 7+ Gen 3」を搭載し、RAMは12GBとなっているのだが、これはAQUOS R9と全く同じだ。
シャープの通信事業本部 パーソナル通信事業部 商品企画部長の清水寛幸氏が「このゾーンの最新のSoCはこれ(Snapdragon 7+ Gen 3)」と答えているように、Snapdragon 7シリーズの新しいチップセットは、「Snapdragon 7 Gen 4」が2025年5月とごく最近発表されたばかり。後継のチップセットが投入されていなかったことも、同じチップセットの採用には少なからず影響したと考えられる。ただ性能が重視されるハイエンドモデルをうたいながらも、ベースの性能が進化していないことは、新機種を購入したいと考える人の失望感を招く可能性につながりかねない。
またAQUOS wish4に関しても、チップセットは台湾メディアテック製の「Dimensity 6300」と、「Dimensity 700」を搭載していたAQUOS wish4と比べれば進化しているが、メモリは4GBと変わっていない。価格重視のモデル故の性能ではあるのだが、4GBのRAMというのは現在のAndroidでは快適に動作する最小限の容量ともいえ、長く利用する上ではやや不安も残る。
細かな性能は確かに向上しているが、ベースの性能向上が停滞、あるは控えめに留まっているのは、やはり端末価格が少なからず影響しているだろう。シャープはSIMフリー版に関して、AQUOS R10の価格が10万円程度から、AQUOS wish5の価格が3万円程度としており、それぞれ前モデルから大きく変わらない価格を実現しようとしていることが分かる。
ただ一方で、昨今のスマートフォン価格高騰の主因の1つでもある円安は、2024年の状況から大きく変化している訳ではないし、国内では物価高騰が続いていることから、従来通りの進化を遂げれば必然的にスマートフォンも値上がりする可能性が高い。だが消費者は明らかに価格の安さを求めているし、価格が販売に大きく影響してしまうのも確かだ。
それだけに、消費者が購入しやすい価格を維持するには何らかの形で低コスト化を図る必要があったといえ、中でもスマートフォンを構成する部材の中では値段が高い、チップセットなどにその影響が大きく出たと見るのが妥当だろう。そしてチップセットが変わらない新機種が登場するケースはここ最近時折見られるものでもあり、最近の事例であればソニーが2023年に発売したミドルクラスの「Xperia 10 V」が、前年発売の前機種「Xperia 10 IV」と同じクアルコム製の「Snapdragon 695 5G」を継続搭載し、進化が停滞しているとして話題となった。
だが一方で、最近ではスマートフォン自体の進化も停滞していることから、性能が1年前のモデルと変わらないとしても利便性が大きく損われる訳ではない。それゆえシャープとしても、企業体力がものを言うスペック競争からはあえて距離を置き、デザインや使い心地、信頼性などの部分で差異化を図っていきたい姿勢を打ち出している。
もちろん、毎年最高性能が求められるフラッグシップモデルではそういう訳にはいかないだろうが、市場を取り巻く環境は一層厳しさを増しているだけに、消費者が価格を重視する傾向が強まるほど基本性能が大きく変わらない新機種が登場するケースが、今後一層増える可能性は高いのではないだろうか。